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Chapter 2: ベランダで、煙草を吸う男

Editor: Inschain-JA

唐沢沙羅は部屋を出て、記憶をたどりながら黒木詩音の寝室を見つけた。

数年間住んでいた客室と比べて、詩音の寝室は黒田一門で最も繊細に装飾された部屋だった。白いプリンセスベッド、ピンク調の壁紙、アイボリーホワイトの無垢材家具、どこを見ても温かい雰囲気が漂っていた。

沙羅はウォークインクローゼットの引き出しを開け、ドレスとブローチを中に入れた。

前世で、このドレスを着て庭園に現れたとき、詩音が悲鳴を上げた。

何が起きたのかわからなかったが、詩音は駆け寄って沙羅を掴み、皆の前でそれを引き剥がそうとしながら、取り乱したように叫んだ。「誰が私のドレスを着ていいって言ったの!私のドレスを返して!」

……

沙羅はそのブローチを見つめた。

これは黒木文彦(くろきふ みひこ)が大西千鶴(おおにし ちづる)に贈ったもので、結婚25周年を記念する品だった。

千鶴はこのブローチを大切にしており、天頤グループの会長として様々な場に出席していたため、彼女がブローチを身につけているのを見た人は少なくなかった。

祝宴で、詩音は沙羅が自分の母親のブローチ、それも父親から母親への贈り物を身につけているのを見つけ、彼女を指さして泥棒と罵り、場をわきまえず彼女が家庭を壊した私生児だと暴露した!

千鶴が娘に張った平手打ちは、さらに騒動を引き起こした。

そして彼女は、ただ呆然と立ち尽くし、どうすればいいのかわからなかった。

説明しようと口を開きかけたが、文彦の冷たい表情を見て、喉が乾いて声が出なかった。

沙羅はゆっくりと引き出しを閉め、瞳の奥に冷静さを宿した。以前の黒田家での生活で、いわゆる家族愛を感じたことはなかった。今回やり直せたとしても、自分のものではないものを求めるつもりはない。

立ち上がったところで、ドアの外から騒がしい声が聞こえてきた。

「お母さんが本当にフランスからLVのバッグを注文したの?」

「嘘をつく必要ある?ただのバッグよ、母が出張のついでに持って帰っただけ……」

一枚のドア越しに、詩音の声が聞こえた。

沙羅は正面のドアから出るには遅すぎた。クローゼットやバスルームに隠れるのは安全ではない。視界の隅に、バルコニーの引き戸が見えた。

詩音がドアを開けたとき、部屋の中には誰もいなかった。

バルコニーで、沙羅は壁に寄り添って立っていた。会話の声が時々中から聞こえてきた。

数人の女の子たちがバッグを見終わり、ベッドの端に座って内緒話をし始めた。

「詩音、今日はおばあさんの誕生日なのに、あなたの家に居候してるあの親戚は見かけないわね?」

もう一人の女の子がすぐに続けた。「そうよ詩音、あの鳥の巣みたいな髪型、また見たかったのに」そう言って、くすくす笑い始めた。「あの子ってちょっと頭が足りないんじゃない?この前あなたがヘアカラーの色味を試してみてって言ったら、本当に自分で試したんでしょ?そういえば、あなたのお姉さんの同級生を好きだって噂、本当なの?」

詩音が嘲笑した。「ただのヒキガエルが白鳥の肉を食べたがるって話よ。風雅お兄様が私に勉強を教えてくれてたとき、ちょうどそのヒキガエルが見ちゃったの。それ以来、ずっとその気になってるのよ」

「ねぇ、あの子が風雅お兄様のこと、なんて呼んでるか知ってる?金子先生〜って」

「あはは……」

沙羅の心は鈍く痛んだ。

ある真実は、前世で後に知ったとしても、今再び体験すると、完全に割り切ることはできなかった。

「詩音、ベランダに見に行ってもいい?」

「何を見に行くの?」

「ジュリエットの気分を味わってみたいのよ!」

詩音は命令口調で言った。「なら先にストッキングを取ってきて」

沙羅は一瞬きょとんとした後、横にあるエアコンの室外機を見た。

反対側にもベランダがある。

――今行かなきゃ、いずれ見つかる。

透かし彫りの手すりに足をかけ、沙羅は詩音の部屋のベランダから飛び出し、エアコン室外機の上に立った。緊張で高鳴る心拍を抑えながら、最も迅速かつ慎重に隣の部屋のベランダへと飛び移った。

足を下ろした瞬間、かすかな焦げた煙の匂いがした。

沙羅が顔を上げると——

そこには、一人の男がベランダに立ち、煙草をくゆらせていた。

相手の興味深げな視線から、彼女の「壁越え侵入」を目撃していたことは明らかだった。


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