第8話:真実の愛
[鬼塚詩織の視点]
「ずっと探してたんだ」
暁の言葉が胸に響く。私は彼の腕の中で、幼い頃の記憶を辿っていた。
「お母さんが亡くなった後、正臣さんに引き取られて連絡が取れなくなった時、俺はどれだけ心配したか」
暁の声に寂しさが滲んでいる。
「君を見つけるために、ずっと探し続けてたんだ」
私は顔を上げて彼を見つめた。
「ごめんなさい。私、あなたのことを忘れてしまって」
「忘れてたわけじゃないだろう?」
暁が微笑む。
「俺のことを月城さんって呼び続けてたのは、無意識に距離を置こうとしてたからじゃないか?どこかで気づいてたんだよ」
確かにそうかもしれない。初めて会った時から感じていた既視感。彼といると安心できる理由。全てが繋がった。
「まだ月城さんって呼ぶのか?」
暁が少し拗ねたような表情を見せる。
「今日、俺たちは結婚したんだぞ?」
私は頬が熱くなるのを感じた。
「暁...さん?」
「さんはいらない」
彼が笑った。
「暁でいい」
私は頷いた。この人と一緒にいると、初めて「健全な恋愛」というものを知った気がする。晃牙との関係は、いつも私が一方的に追いかけるだけだった。でも暁は違う。私を大切にしてくれる。
翌朝、詩織は月城グループの本社ビルへ向かっていた。暁の秘書として働くことになったのだ。結婚したとはいえ、彼女は自立した女性でありたいと思っていた。
オフィス街を歩いていると、見覚えのある人影が目に入った。
晃牙だった。
数日前とは別人のようにやつれ、髪も乱れている。彼は詩織を見つけると、慌てて駆け寄ってきた。
[鬼塚詩織の視点]
「詩織!」
晃牙の声が背後から聞こえた。振り返ると、彼は息を切らしながら私に近づいてくる。
「話がある」
私は立ち止まった。もう彼と話すことなど何もないのに。
「詩織、あの時は俺が悪かった」
晃牙の声が震えている。
「本当はお前を愛していたんだ。でも、夜瑠のことがあって...」
「またその話?」
私は冷めた声で言った。
「夜瑠の鬱病のせいで私を裏切ったって言いたいの?」
「そうだ!俺だって辛かったんだ!」
晃牙が必死に訴える。
「もう一度チャンスをくれないか?あの結婚は俺への当てつけだろう?」