第9話:因果応報
[鬼塚詩織の視点]
夜瑠の検査結果を見つめながら、私の心は静かな怒りで満たされていた。
やはり、全て嘘だったのね。
玄関のチャイムが鳴った。扉を開けると、智也と拓海が立っていた。二人とも申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「詩織...話がしたいんだ」
智也が口を開いた。
「俺たち、本当に悪かった。あの時のことを謝りたくて」
拓海も頭を下げる。
「詩織、許してくれとは言わない。でも、俺たちの気持ちを聞いてほしい」
私は二人を見つめた。かつて幼馴染だった彼ら。でも今は、ただの加害者でしかない。
智也の言葉が蘇ってきた。
――あの日のことを思い出す。
夜瑠の誕生日パーティー。みんなが楽しそうに笑っている中で、私だけが隅に追いやられていた。
「詩織も一緒に写真を撮ろうよ」
智也がそう言ってくれた時、私は心から嬉しかった。やっと仲間に入れてもらえると思った。
でも、それは罠だった。
カメラのフラッシュと同時に、可燃性ガス入りの風船が爆発した。炎が私の髪を舐めていく。10年間大切に伸ばしていた髪が、一瞬で焼け焦げた。
みんなの笑い声が響く中で、智也はこう言った。
「俺の妹は夜瑠しかいない。彼女を喜ばせることができるだけでも、お前は光栄に思わないと」
その言葉が、今でも私の心に深く刻まれている。
「詩織?」
智也の声で現実に戻った。
「俺たち、本当に反省してるんだ。あの時は若くて、夜瑠に言われるままに...」
「夜瑠に言われるまま?」
私は冷たく笑った。
「あなたたちは被害者だとでも言いたいの?」
拓海が慌てて手を振る。
「そうじゃない!俺たちが悪かったんだ。でも、詩織が幸せになったから...」
「だから何?」
私の声が氷のように冷たくなった。
「私が幸せになったから、あなたたちの罪が消えるとでも思ってるの?」
二人の顔が青ざめる。
私は彼らに背を向けた。もう話すことなど何もない。
その時、携帯電話が鳴った。暁からだった。
「詩織、大丈夫か?」
彼の優しい声が聞こえる。
「ええ、大丈夫よ」
「妊娠の件、発表してもいいか?」
私は微笑んだ。
「もちろん」
電話を切ると、智也と拓海が驚いた顔で私を見ていた。
「妊娠...?」
智也が呟く。
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