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0.52% 大物の影の妻は美しく凛々しい / Chapter 2: ホテル終末

Chapter 2: ホテル終末

Editor: Inschain-JA

ホテル終末は非常に豪華なホテルで、全国にわずか二軒、一軒は東京に、もう一軒は横浜市にある。

その名は百年の歴史を持ち、何度か改装されたものの、内装はほとんどが純金や宝石で飾られている。

ここに入れる人間は富豪か貴族に限られる。

佳奈が出てきたとき、詩織は角の花瓶を見つめていた。ひと目で高価だとわかる、八桁は下らない逸品だった。

「大スター、何見てるの?」佳奈は少し離れた場所から彼女に声をかけた。

声を聞いて詩織は振り向き、目元にほんの少し笑みを浮かべた。

「これ、あなたへのプレゼント」佳奈はバッグから木箱を取り出して彼女に渡した。「前回のオークションほど良いものじゃないけど、それなりの上等品よ。あるコレクターの持ち物だった」

詩織は受け取り、箱を開けて中を確認した。

中には白い玉の髪飾りがあり、頭部は透かし彫りの花模様で、かなり年代物に見えたが丁寧に保存された。

前回のオークションでは、赤い玉の髪飾りをめぐって人と争い、最終的に髪飾りの価値をはるかに超える値段になったため、詩織はそれ以上入札せず、相手に落札させたのだった。

「ありがとう、気を遣わせてしまって」

「気にしないで」佳奈はどこか異国風の顔立ちながらも、笑うと可愛らしい表情を見せた。「一杯おごってくれればいいわ」

「ええ、行きましょう、一杯おごるわ」

「また今度ね」佳奈は笑って言った。「この後任務があるの」

「忙しいのね」詩織の表情は変わらず、相変わらず冷たく距離を感じさせるものだったが、その言葉にはからかいの意味が込められていた。

佳奈はすぐに深い瞳を細め、少し歯を食いしばるように小声で不満を漏らした。「何でだと思う!どこの偉い様が一年間任務を受けないって言うから、全部私に押し付けられたのよ。恋愛する時間もないわ!」

「可哀そう」

佳奈は怨めしげな表情で彼女を見つめた。

詩織はそんな彼女の様子を見て、思わず俯いて微笑んだ。

冷艶な顔に浮かぶ笑みは、その微笑みは、雪原に差す一筋の陽光のようだった。

「あなたが美しいからこそ、許してあげるわ」佳奈はその一筋の笑みに征服された。「そういえば、あの件はどう?調べがついた?」

「役立つ情報は得られなかったわ」この話題になると、詩織の眉間に少し苛立ちが現れた。

「あれが彼のところに行くまでに、何人の手を経たかわからないものね。それに彼らは用心深く、全ての取引をオフラインで行っている。この線までたどり着けただけでも大変だったのよ」佳奈は言った。「ゆっくり進めていきましょう」

「行きましょう、見送るわ」詩織は髪飾りを再び彼女に手渡した。「これを東京に持ち帰って、前のものと一緒に保管してもらえる?」

佳奈は受け取り、バッグに戻した。彼女はただ見せるために持ってきただけで、詩織が手元に置くとは思っていなかった。「あなたはどうして集めたくせに使わないの?いつも安っぽい木やプラスチックのものばかり使って。変な趣味ね」

「貧乏だから、そんな高いものを使うのがもったいないの」

「………」

...…

詩織が佳奈をホテルの入口まで見送ると、時間はすでに遅くなっていた。彼女はホテルで一晩休んで、明日出発することにした。

ところが振り向いた途端、友人を見送りに来ていた静香と鉢合わせた。

「お姉さん」

「……」

「お姉さん、私の婚約パーティーに来てくれたの?」静香が彼女の前に数歩進み、親しげに微笑んだ。

「婚約おめでとう」詩織は丁寧に一言述べた。

「ありがとう。お姉さんが来てくれて嬉しいわ」静香は言った。「でももう中は終わったの。ホールで少し待っていて、後でいっしょに帰りましょう」

「結構よ、私は帰らないわ」

「家に泊まりたくないなら、後でお兄さんに送ってもらって、住まいに行けばいいわ。こんな遅くじゃ、タクシーも捕まりにくいから」

「大丈夫、ここに泊まるわ」

「こ……こに?」静香はうしろのホテル終末の看板を見て、自分が聞き間違えたのではと思った。

「ええ」

詩織がそう答えると、突然刺々しい笑い声が聞こえた。彼女は笑い声の方向を見た。

それは先ほど静香と一緒に出てきた数人の女性たちだった。

彼女たちもハイヒールで颯爽と近づいてきた。

その中の一人が言った。「ここに泊まるって?ここに一泊いくらするか知ってるの?これはホテル終末よ、路傍の安宿じゃないわよ」

「千佳、そんな言い方しないで」静香はそばにいた人の腕を引いた。「お姉さまは田舎で長く暮らしてたから、こっちのことをよく知らないの」

詩織はその言葉を聞いて眉を上げ、美しい目に一瞬遊び心が宿った。

彼女が隠し子で、幼い頃から田舎で育ち、学校にも通っていない話は、全て静香がこのような彼女を庇うように見せかけた口調で広めたものだった。

「私だって彼女のためを思って言ってるのよ」遠藤千佳(えんどう ちか)は顎を上げた。「小さな役を演じて、ちょっとしたお金を手に入れたばかりなのに、ここで一晩過ごしたら、明日の食費もなくなっちゃうわよ」

「千佳!」静香は小声で制して、詩織に向かって言った。「お姉さま、気にしないで。彼女今日少し飲みすぎたの。お姉さま、ホテル終末は確かに普通のホテルより遥かに高いわ。後で兄に送ってもらいましょう」

「結構よ」詩織の声は先ほどよりも冷たくなっていた。

この二言を言い終えると、彼女は千佳を一瞥してから、そのままホテルの中へと歩いていった。

たったその一瞥だけで、千佳は心底から震え、一瞬にして全身が冷たくなり、足元から寒気が走った。

静香は詩織を見送る際、先ほどの従順な表情は消え、全て軽蔑に変わっていた。

彼女は詩織がどのようにホテルから追い出されるかを見届けようとした。

しかし彼女が目にしたのは、詩織がホテルのロビーに入っていく姿だった。

ホール内のスタッフがすぐに接客し、詩織が自分のカードキーを見せると、スタッフは非常に丁寧に案内のジェスチャーをし、彼女をホテルの奥へと連れていった。

静香の脇に下げた手の指が思わず握りしめられた。あの田舎育ちの娘が、どこからその金と権利を得て、ホテル終末に泊まることができるというのか。

「彼女...…本当に中に入っていった」

突然誰かが声を上げ、静香の顔から従順さが慌ただしく戻ってきた。

彼女が今見送ったこの数人は皆芸能界の人間で、ある程度の知名度はあったが、一流とは言えなかった。

彼女たちはホテル終末に泊まれる身分ではなかった。

千佳と詩織は同じエンタメ会社に所属していたが、詩織は会社に入ったばかりで、ある大物監督の映画でのカメオ出演を獲得した。そしてその役は、詩織が入社する前は彼女のものだった。

「お姉さんはすごいのよ」静香は目を伏せ、小声で言った。

「すごいって、男を誘うテクがってことでしょ」千佳の嫉妬心は、まるで歯を砕きそうなほど強かった。

「千佳、そんな言わないで」

「私は本当のことを言っているだけよ」千佳は静香の腕を取って言った。「静香、あなたは純粋すぎる。あんな女が手段を使わずに、私の役を奪えるはずがないわ。あの役は私がオーディションを通って決まったものよ。なのに彼女が来た途端に奪われた」

「そうよ、あんな貧乏娘が、偽物だらけの格好で、どうしてホテル終末に泊まれるっていうの。きっと誰かの相手をするんでしょ」傍らの人が同調した。

「そんな風にお姉さんのこと言わないで」静香は口ではそう言いながらも、心の中ではかなり満足していた。

「静香、あなたバカじゃないの。何でも他人のために考えるなんて」千佳は言った。「あなたは彼女を姉として扱っているけど、彼女はあなたを妹と思ってる?賢くなって、最終的に佐々木家全体が彼女の手に渡らないようにしないと。彼女は学校にも通ったことがない田舎者で、頭の中は下品な手段でいっぱいよ」

静香はゆっくりと頭を下げ、表情を引き締め、もう何も言わなかった。

...

「冬弥、隣を見に行ってみない?」

智明と冬弥は3603室のベランダに立ち、隣を見ていた。

先ほど太った男が説明を終えると、冬弥はすぐに人に連れ出させた。

「必要ない」冬弥は視線を戻して言った。「あの男の仲間ではないし、得られる情報も同じだから、会う必要はない」

「そうだな」智明はため息をついた。「また情報が途切れたか」

「天寿探偵事務所に再依頼するか」冬弥は言った。

智明はうなずいた。「天寿も難しい依頼に当たったようだな」

冬弥は何も言わず、細長い目に冷気を漂わせていた。ベランダにしばらく立っていた後、部屋を出た。

ドアを開けて出ると、冬弥は思わず隣の部屋のドアを見た。ちょうど鍵を開けている詩織を目にした。

詩織も物音に気づき、顔を向けた。

......


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