中川は、彼女に平手打ちされたことへの報復のつもりだったのか、夜が明けるまで彼女を解放しなかった。
翌朝、清葉は自分の部屋で目を覚ました。無表情のままベッドから起き上がり、冷たいシャワーを浴びて服を着替えると、バッグを背負って外へ出た。
通りがかりの薬局に入り、緊急避妊薬を買った。昨夜、岩田彰人は何の対策も取らなかった。――あの男は、本当に正気を失っていたのかもしれない。
薬を飲み、腹を落ち着かせるために立ち食いの店で麺を少し口にしたところで、マネージャーのジェイソンから電話がかかってきた。怒鳴り声が耳を突いた。
「原ー田ー清ー葉ー、午前十時のランウェイ、まさかまた忘れたんじゃないだろうな!」
清葉は無言で携帯を少し耳から離し、ジェイソンの怒りが収まるのを待ってから、うんざりしたように答えた。「忘れてた」
彰人に一晩中振り回され、目を覚ましたのはすでに昼近くだった。もともと経験も乏しく、顔立ちと長い脚だけが武器の素人モデルに過ぎない彼女に、ジェイソンが高級ブランドのショーを取ってくるのは難しかった。いつも引き受けるのはショッピングモールの簡単なランウェイばかりで、衣装も露出の多いものがほとんどだった。今の清葉の状態では、とてもそんな服を着られる状況ではなかった。
「モデルとしてはもう無理だな。せっかく私がツテを使って取ってきた仕事も、相手が“もう使わない”って言ってきたぞ」
ジェイソンは怒りに顔を青くして言い放った。「こんな低レベルのショーでさえも駄目なんじゃ、高校卒業の学歴しかないお前に何ができる?」
清葉はイライラしながら髪をかき上げ、短く答えた。「じゃあ、学校に行く」
ジェイソンは彼女の口から“学校”という言葉が出た瞬間、自分の言い方がきつすぎたと気づき、ため息をついた。「清葉さん、お前の年齢でまた学校はちょっと遅いよ。それより、芸能界に入るのはどうだ?顔は悪くないし。ちょうどジョイの撮影チームが女性の脇役を探してる。試しに行ってみようか?」
ジョイは業界でも顔の利く副監督で、監督の補佐をしている人物だった。
「ギャラは日払い?」清葉は淡々と尋ねた。