一時間後、私の遺体を運んでいた車が止められた。
城戸洸也は狼狽えた表情で車から降りてきた。
彼は冷たい表情で、ボディーガードに私の遺体を降ろすよう指示した。
だがその時、もう一台の病院の車が到着した。
眼鏡をかけた中年男性が、彼の行動を制止した。
「城戸様、私は佐々木さんの10年来の主治医です。彼女は死ぬ前に献体同意書に署名しました」
「彼女の遺体はこの稀少疾患の研究に重要な役割を果たします。どうか彼女の生前の決断を尊重していただきたい」
医師の言葉が終わると、洸也の顔は氷のように冷たくなった。
「佐々木南帆は私の妻だ。彼女の遺体を寄贈することには同意できない!」
車の前に立ちはだかり、洸也は一歩も譲らなかった。
しかし医師は再び口を開いた。
「あなたは私たちの国の法律をご存知ないようですね。佐々木さん個人の意思は、誰にも変えることはできません」
「つまり、彼女の決定にあなたが干渉する権利はないのです」
冷静かつ厳粛に、医師は後ろの人たちに私の遺体を運び出すよう指示した。
洸也は一歩前に出て、私の手をしっかりと掴んで離さなかった。
しかし次の瞬間、彼が引っ張った私の手の皮膚が剥がれ落ちた。
「ああっ!」
「これは何だ?!」
「ゾンビか何か?」
それを見た通行人が驚愕し、スマホを取り出して撮影し始めた。
「城戸様、佐々木さんはあなたを10年間愛してきました。本当に彼女の亡骸がこんな傷つけられるのを望まれますか?」
医師の言葉は痛いところを突いた。
洸也の指が震え、白い布に覆われた私を見つめ、ついに一歩後退した。
私の遺体が運ばれていくのを見つめながら、洸也の体は震えていた。
彼は口から血を吐き、その場に倒れた。
再び目覚めると、洸也は病院のベッドに横たわっていた。
彼の目は空虚で無感動だった。
そこへ一本の電話がかかってきた。
「城戸様、東京北山霊園の管理人です」
「佐々木さんが購入した墓地が三日間空いたままになっています。彼女が埋葬すると言っていたものは、いつ送られてくるのでしょうか?」
電話の声に、洸也の意識が呼び覚まされた。
彼はベッドから飛び起き、裸足で病室を出た。
城戸家の邸宅に戻った洸也はプールサイドに向かった。
そこにあったはずの段ボール箱が姿を消していた。