食卓で、佐藤和樹は佐伯美音に勝ち誇った笑みを向ける。
美音は母親を見て、また佐藤和樹を見て、得意げな表情を浮かべる。
美音は突然思いついたように静香の腕を引く。「ママ、新しい花火を開発したんでしょう?今日打ち上げに行こうよ!」
眉をひそめて首を振る。「あの花火はまだ開発が完了していない、危険だ...」
「これは私のママの花火よ、あなたに何がわかるの?毎日家にいるだけで、私に少しの自由もくれない!」
言い終わる前に、美音に遮られた。
佐藤和樹は目をパチパチさせながら静香を見る。「新しい花火?見せてもらえる?」
佐藤和樹からの要望と聞いて、静香の目の中の躊躇はすぐに消え去った。
「あの花火はもうほぼ完成していると思っていたの。どうせ正月シーズンだし、みんなで雰囲気を楽しみましょう」
どれだけ止めても無駄だとわかっていた。
行きたくなかった。
静香はそんな私を見て、美しい目元に不機嫌な色を浮かべる。
「家族で楽しむ日に、またそんな不機嫌にならないで」
彼女に無理やり車に乗せられ、佐藤和樹のタバコの匂いが残る助手席に座った。
道中で彼ら三人は談笑し、私一人は窓を開けて外を眺めていた。
航空券は未明の便で、時間を計算すると、間に合うはずだ。
花火工場に着くと、静香は奥から新しく開発した花火を引っ張り出した。
今日まで一度も試し打ちされたことはなかった。
佐藤和樹の期待に満ちた表情に、静香の目はますます優しくなっていく。
無表情の私を見て、静香は諦めたように溜息をつく。「大丈夫よ、問題があれば、私が必ずあなたたちの前に立つから」
花火が打ち上がった瞬間、本当に美しかった。さまざまな鮮やかな色が交差し、空中で異なる形の花を咲かせる。
しかしすぐに制御不能になり、火花が四方に飛び散り、煙が襲ってきた。
静香は反射的に私を探そうとしたが、佐藤和樹に引き止められた。
「静香、怖いよ」
静香は上着を佐藤和樹の上にかけ、彼をしっかりと抱きしめた。
煙が去って、静香は私が無事に立っているのを見て安堵の息を吐いた。
「佐藤和樹と娘を先に車に乗せてくるわ。あなたはここを片付けておいて、後で手伝いに来るから」
彼女が去った後、私はようやく背中に隠していた手を出した。
手のひらは真っ赤に焼け、手首には血が滲んでいた。
唇も痛みを堪えるために歯で噛み、歯形がついていた。
私は別の出口に向かい、タクシーを呼び、駅を目的地に指定した。
静香が戻ってきたとき、地面には血の痕跡があり、花火の残骸もそのままで、誰も片付けていなかった。
しかし佐伯俊介はもうそこにいなかった。
彼はどこに行ったのだろう?
静香はこの10年以上二人で過ごした花火工場を隅々まで探したが、あの馴染み深い姿は見つからなかった。
彼は自分を離れたのか?
静香はすぐにこの考えを否定した。誰が自分を離れても、佐伯俊介はあり得ない。
彼はきっと自分で先に家に帰ったのだ。
そこで静香はまず佐藤和樹を病院に連れて行き、彼に大した問題がないと知ると、急いで車で家に戻った。
心の中には何故か不吉な予感があった。
三歩を二歩にして駆け上がり、佐藤和樹が彼女を呼ぶ声も聞こえないほど、佐伯俊介の部屋を開けた。
ベッドの上に一つの書類入れが残されており、静香は焦って開けた。
中身は佐伯俊介と彼女の離婚協議書だった...