マリアはヌジャを抱き上げ、そっと舟に乗せると、自分もその隣に腰を下ろした。たちまち、黄金の光から形づくられた何十もの作業者たち――彼女の幻影の従者たちが現れ、舟を操りはじめた。そのうちのひとりがヌジャに気づき、急いで駆け寄ると、コートと食べ物を手渡し、抱きかかえるようにして彼を包み込んだ。
「マリア様、この赤ん坊はなぜここに?」と幻影の従者が尋ねた。
マリアはヌジャをその腕から取り戻し、静かに答える。「私の弟よ。あなたは仕事に集中して。」
ヌジャは従者からもらったクレーターの形をした食べ物を口に運びながら、不思議そうに訊ねた。「マリア、あの人たちは誰?」
「私の幻の中の影にすぎないわ。」マリアは笑顔で説明した。「本物じゃない。」
「えっ? 本物じゃない? どうして! じゃあ今食べてるこのおいしいクレーターは――」
「よく見て。」マリアが遮った。
ヌジャが手元を見直すと、そこにはもう何もなかった。目を大きく見開き、驚くヌジャ。
マリアはくすりと笑った。「彼らは私の心で作った像。魂の力で形を与えているの。だから本物の人のように見えて、話すの。」
ヌジャはにやりと笑った。「マリア、君が僕の一番のお気に入りの姉って言ったことあったっけ?」
「うれしい言葉をありがとう、弟くん。」マリアはやさしく応じる。「でもまだ早く決めないで。あなたの兄姉たちはみんなそれぞれに輝いているわ。まずは全員に会って。みんな素敵だから、私みたいにね。……さて、おしゃべりはここまで。練習を始めましょうか?」
「こんな赤ん坊の体で大丈夫なの?」ヌジャは不安げに尋ねる。
「魔法に強い体はいらないわ。」マリアが答える。「必要なのは内なる精神と集中力。あなたはもう話せるし、体は疲れも眠りも要らない。それで基礎には十分。」
半信半疑ながらも、ヌジャは早い段階での訓練が力になると悟り、うなずいた。「わかった……何をすればいい?」
マリアは彼を自分の前に座らせる。「見ていて。初級の幻術を見せるわ。」
彼女は目を閉じ、両手を合わせて瞑想の姿勢を取った。「完全に制御するには、心を静めること。喜びを感じるものを思い浮かべ、光に意識を集中する。たとえば――この足元に純粋な光で織られたカーペットが、ゆっくりと持ち上がっていくのを見て。」
ヌジャが見つめると、まさに言葉どおりにカーペットが形づくられていく。マリアは目を開け、微笑んだ。「もっと上達すれば、自由に作り出せるようになる。」彼女は光のカーペットに乗って優雅に浮かび、そして降りた。
「さあ、次はあなたの番よ、ヌジャ。」
ヌジャは彼女の動きを完璧に――ほとんど完璧すぎるほどに――真似た。彼の幻のカーペットはほぼ完璧だったが、光の中にかすかな黒い破片が混じっていた。マリアは気づいたが、何も言わなかった。
彼が空高く舞い上がると、ヌジャは興奮して笑った。「できた! 飛んでるよ、マリア姉さん! ハハハ!」
「落ち着いて、ヌジャ! 制御を失わないで!」マリアが警告する。
だがカーペットは激しく揺れ、左右に大きく傾き、ついに空中で爆ぜた。ヌジャは海に向かって落下――その瞬間、マリアが指を鳴らすと、水と岸辺が羊毛のように柔らかなクッションへと変わった。
彼女は急いで駆け寄り、心配そうに問いかけた。「ケガはない?」
ヌジャはしっかりと立ち、笑顔を見せた。「マリア姉さんこそ大丈夫? ごめん、制御できなかった。でもすごく楽しかった! ありがとう。もっと一緒にやりたいな。」
マリアの目に涙がにじむ。彼女はヌジャを抱きしめた。
ヌジャは慌てる。「泣かないで、姉さん! 次はもっと上手くやるから。泣かないで!」
マリアは震える笑みで首を振った。「悲しくて泣いてるんじゃないわ、子猫ちゃん……うれしくて泣いてるの。」
しばし後、彼女は気持ちを整えた。その時、テレパシーの声が頭に響く。「了解。彼を連れてきて。」
「誰ですか?」ヌジャが尋ねる。
マリアは静かに答えた。「母上よ。あなたを宮殿に連れ戻せと。第一の霊たちのひとりが、あなたに会いに来ているの。」