クズ男の叔父と結婚したら、溺愛されまくった
Autor: 七色の豆菓子© WebNovel
Kapitel 1: 婚約者に見捨てられた女
Redakteur: Pactera-novel
廃家具工場内で、凶悪な誘拐犯が片手に携帯を持ち、もう片手で黒々とした銃口を隅に縮こまる二人の少女に向けていた。「安藤雅奈（あんどう かな）と安藤以柔（あんどう いじゅう）、どちらか一人しか連れて帰れない！」
「俺をだますな。警察に通報したら、今すぐ二人を撃ち殺すぞ！」
以柔はぐしゃぐしゃと泣いていた。「辰御さん、怖いよ！早く助けに来て！」
雅奈は目に涙を浮かべ、泣き声を交えて言った。「辰御、早く助けに来て！」
誘拐犯はスピーカーをオンにした。男は考えるまでもなく選択を下した。「安藤以柔、俺は以柔を選ぶ」
雅奈は心が引き裂かれるように叫んだ。「辰御、私があなたの婚約者よ！どうしてこんなことができるの！」
「どんな男がお前みたいな田舎者を好きになるか！」藤村辰御（ふじむら たつみ）は断固とした口調で言った。「以柔を連れ出せ、身代金は外に置いてある」
誘拐犯は以柔を乱暴に引き上げ、雅奈を見て嘲笑した。「自分の妹と婚約者に裏切られたか。死んだ方がマシだな！」
そう言うと、彼は以柔を押しながら出口へ向かった。
かすかな光の中、以柔は振り返って雅奈を見つめ、口元に得意げな笑みを浮かべた。
雅奈は目に不満を満たし、哀れで無力そうにすすり泣いていた。しかし以柔が背を向けた瞬間、悲しみと苦痛の表情はすっと消え、代わりに唇に皮肉な笑みが浮かんだ。
工場の外で、誘拐犯はスーツケース内の2千万円の現金を確認し、以柔を男の懐に押しやった。
辰御は失った宝物を取り戻したように彼女を抱きしめ、縛られた両手のロープを急いで解き、全身をくまなく見た。「以柔、大丈夫か？」
「大丈夫、ただ手足が痺れててて」
「よかった、早く行こう！」
「でも、お姉さんはどうするの？」以柔は小声で言った。「あの誘拐犯が、お姉さんは私たちが一緒にいるのを見たら死んだ方がマシだって言ったわ。お姉さんに何かされないか心配だわ！」
死んだ方がマシ？
言われてみれば理にかなっている！
「以柔、お前は本当に優しいな。いつも君を虐げてきた女のことを、今でも気にかけるとは」辰御は誘拐犯の方を見やり、冷酷な表情を浮かべた。「金は渡した。あの女は殺した方がいい！絶対に警察には通報しない！」
誘拐犯は顎をなでながら大笑いした。「冷酷だな、気に入った！」
辰御は以柔を連れて車で急いで立ち去った。まるで誘拐犯が良心に目覚めて雅奈を彼の車に押し付けてくるのを恐れているかのように。
誘拐犯はシリコン製のマスクを剥ぎ取り、 ふてぶてしい顔を露わにした。
彼はスーツケースを持ってのんびりと戻り、すでに縄を解いて首を動かしている少女を見て笑い声を上げた。「ボス、演技うますぎですよ。ハリウッドスカウト来ますぜ！」
雅奈は赤い唇に狡猾な笑みを浮かべ、彼の胸に付けられた小型監視カメラを指さした。「動画を藤村時宴（ふじむら ときやす）に送れば、さらに2億円稼げるわ。全額、障害者施設に寄付するの」
「了解です！」佐藤勇（さとう いさむ）は軽薄に笑い、少女の濃いスモーキーメイクとカラフルな派手な髪型を見た。「でもボス、このメイクは？」
雅奈は眉を上げた。
勇はヘヘッと笑って親指を立てた。「日本一の美人です！」
雅奈は軽く笑った。「嘘つき！早く送って、私は時宴が助けに来るのを待ってるの！」
「本当に来ますか？」
雅奈は軽く唇を曲げて言った。「もちろんよ！」
勇は肩をすくめ、軽く舌打ちした。この女は本当に本気だな、自分にまで容赦ない。
彼は金の入ったケースを持って工場を出て、車に乗り込み、末尾が9を5つ並べた番号に動画を送信し、メッセージを添えた。2億円を下記の口座に振り込め、さもなければネットに流す！
九龍潭の個室内で、人々は杯を交わし、宴は盛り上がっていた。
テーブルの上の携帯が振動し、長く整った手がそれを取り上げた。男は細長く深い目を細め、一瞬たりとも逃さず動画の内容を見つめた。
音声は再生されていなかったが、これが誘拐事件であり、甥の辰御と安藤家の姉妹が関わっていることがわかった。
男の全身から放たれる極度の圧迫感と威圧感により、周囲の温度が急激に下がった。
騒がしかった個室は一転して静寂に包まれた。
ついに、誰かが勇気を出して「藤村社長……」と声をかけた。
時宴は突然立ち上がり、椅子に掛けてあったスーツの上着を掴んで外へ向かった。ドアの向こうに颯爽と消えていった。
マイバッハの後部座席に座る男の吐く息は冷たく、底知れない瞳には霜を撒き散らしたようだった。
彼の低く怒りを含んだ声が響いた。「どこだ？」
「叔父さん、病院にいる」
「以柔を身請けして、お前の婚約者を見捨てたのか？」
「どうしてそれを？」
「誘拐犯が動画を送りつけてきた。お前のクズぶりを全国に晒すか、それとも殺人犯の共犯になりたいのか？」
「……叔父さん、俺のせいじゃないんだ。あんな田舎娘なんか、誰が欲しがるってんだ」
時宴の声は冷たかった。「場所は？」
電話向こうの辰御は明らかに慌てていた。「あ、西郊の廃家具工場」
電話を切った後、時宴は桜庭陽（さくらば ひなた）の後頭部に視線をやった。「西郊の廃家具工場へ急げ！」
「はい！」
時宴は窓の外の真っ暗な夜を見つめ、雅奈の危険な状況を思い、なぜか胸が締め付けられるのを感じた。
雅奈とは二度しか会ったことがないが、あの目は夢の中の女の目にあまりにも似ていた。
彼は薄い唇を引き締め、携帯を握る手に力が込められた。
銀色の月光が壊れた窓から差し込み、雅奈の姿を照らしていた。彼女は今、小枝を持ち、退屈そうにしゃがんでコオロギをからかっていた。
腕時計の小型スクリーンに目をやると、そこに表示された小さな地図上で、赤い点が素早く近づいていた。
彼女はコオロギを小枝でつつきながら、呟いた。「早く逃げなさい、私が火をつけるから！」
コオロギはまるで理解したかのように、工場の外へと跳び去った。
雅奈は立ち上がり、壁際に立てかけてあったガソリン缶を手に取ると、周囲の家具板にまんべんなく撒いていった。その後、青い炎を上げるライターを投げ入れた。次の瞬間、炎が天井まで駆け上がり、家具板が一斉に燃え上がった。
マイバッハが工場の外に停車し、猛烈な火が容赦なく工場を飲み込んでいた。
時宴が車から降りると、中から渦巻く黒煙が立ち上っているのが見え、眉間に深いしわを寄せた。
桜庭は全力で叫んだ。「雅奈さん、雅奈さん、中にいますか？」
木材の爆ぜる音を掻き分け、少女の弱々しい返事がかすかに聞こえてきた。「た、助けて……」
桜庭は声を弾ませた。「生きてます！」
彼が中に飛び込もうとした瞬間、時宴に強く引き止められた。「俺が行く！お前が行けば、もう一人犠牲者が増えるだけだ！」
嫌味を言われた桜庭。「……」
しかし彼は認めざるを得なかった。時宴の身体能力なら、確実に救出できるだろう。
時宴はスーツの上着を脱いで桜庭に投げ渡すと、火の中へと飛び込んで、雅奈を呼んだ。
灼熱の炎が視界を歪め、もうもうと立ち上る煙が鼻腔に入り込み、窒息しそうになった。
今しがたまで床に横たわりポーズを決めていた雅奈は、男が神のように現れた瞬間、彼女はタイミングよく目を閉じた。
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