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「最後にもう一度聞く、本当に嫁ぐつもりか?中村和久はすでに八人の婚約者を死なせているぞ!」
「私は大丈夫よ。それに今夜は婚約式だし」
「今なら婚約破棄も間に合うぞ」
「もう決めたの!」
中村家は帝銘国L省で一等の名門豪族だ。
和久は中村家の長孫で、幼い頃の火遊びが原因で家を全焼させ、片目を失ったと言われている。
橋本愛美は家の長女。大金持ちというわけではないが、家にはベンツがあり、住まいは立派な豪邸だ。彼女は一途な想いで、家族全員の反対を押し切り、中村家の1億円のために――八人の婚約者を死なせたと言われる和久に嫁ぐことを決めた。
今夜は彼らの婚約式だ。
中村家は盛大に婚約式を催し、美しく豪華な婚礼の部屋は、赤い祝いの色に包まれていた。
夜の十二時を少し過ぎたころ、戸外から、やや重々しい足音が聞こえてきた。
およそ十数秒ほど経つと、その音は突然止んだ。
部屋の灯りはつけられておらず、祝いを象徴する大きな赤い蝋燭が二本立てられ、これもこの地方の婚約の風習だった。
音が聞こえなくなった愛美が携帯を置いて灯りをつけようとした瞬間、扉がドンと開いた。
アルコールの匂いと、男特有のフェロモンが混じり合い、部屋の温度が一気に上がった。
蝋燭の光はあまり明るくないが、人の大まかな容姿を見分けるには十分だった。
黒く光る髪に、斜めに走る太い眉。精悍な顔立ちは、輪郭までもがくっきりしていた。
そして彼の右目は、確かにどこか普通ではなかった。だが、噂で聞いていたのとは少し違う。
完全に壊れているわけではない。もちろん、眼帯などもしていなかった。
彼のその目は、黒の奥にかすかな青を宿し、左の漆黒とは明らかに異なる。だが、その違いがかえって彼に独特の気品を与えていた。
薄い唇と相まって、まるで夜を翔ける鷹のよう。冷たく孤高でありながら、どこか圧倒的な存在感を放っていた。
愛美は思わず視線をそらし、美しい眉をきゅっと寄せた。
この男、顔はいいけど、人間としてはダメね。
八人の婚約者が、婚約の前後に次々と死んだ。その噂を思い出し、愛美の目に冷たい光が宿る。テーブルの上からワイングラスを二つ手に取った。
赤ワインのボトルを開け、グラスに半分ほど注いで、ゆっくりと揺らした。
左側のグラスを手に取り、もう一つにも注いでから、向かいの男に差し出す。その仕草の一つひとつに、どこか艶があった。
「お酒でも飲みながら話しましょう?」愛美の声はその名のとおり、甘く澄んでいて、まるで山間に響く夜鶯の歌のようだった。「お互いのこと、少しずつ知っていけたらいいわね」
和久は愛美より頭ひとつ分ほど背が高い。見下ろすその危うい眼差しは、人を息苦しくさせるほどだった。数秒の沈黙ののち、彼はゆっくりとグラスを受け取り、目の前の女を遠慮なく品定めするように見つめた。
手の中のグラスを数度揺らした後、細い指がふっと離れた。
グラスは「ガシャン」と音を立てて床に砕け、赤いワインが飛び散って、愛美の足にもかかった。
次の瞬間、愛美の白い首が、無造作に掴まれた。
続いて、和久の低く冷たい声が落ちた。低くて艶のある声で、脅すように言う。「俺はもう八人の婚約者を死なせてる……知ってたか?」
愛美は眉間にしわを寄せた。「知ってるわ」
和久の冷気がさらに近づき、息が触れそうな距離で、声を低く強めた。「それでもまだ嫁ぐつもりか?」
彼の手にこめられた力は容赦がない。愛美の呼吸は乱れ、白い頬がみるみる紅潮していく。「1億円、今すぐ必要なのよ!」