「はあ……」
眉間から全身へと広がる冷気とともに、ハーバートはゆっくりと目を開け、手を前に伸ばして何かを握るような仕草をした。
「これが邪神契約者になった感覚か?ん?」
そして、ハーバートは眉を上げ、少し不安げにもう一度同じ動作を繰り返した。
握る。
握る!
不滅の握り!
「……」
彼は眉をしかめ、困惑した様子で呟いた。「なんか、何も変わってない気がするんだけど?」
おかしいな。
テレビではこうじゃなかったぞ!
普通、闇堕ちした後は強くなるものだろう。
最低でも3倍、上限なし。
虐めっ子への復讐から、混沌をブチ破るくらいの力だ。
なぜ俺の場合は、何の変化もないんだ?
邪神はハーバートの探索を静かに眺めていたが、しばらくしてゆっくりと口を開いた。【「ハーバートよ、何をしているの?」】
「人間が堕落した後にどれだけの力を得られるのか、また偉大なる邪神様が自称するほど寛大であるかどうかを確かめているところ」
ハーバートは天井を見上げ、無表情で言った。
「何の能力も与えないなんて、さすがにないだろう?もし途中で死んでしまったら、君は協力者を失うことになるよ」
おいおい、俺はそんなに多くを求めていない。
せめて少しくらいの力をくれてもいいだろう?
なのに、全く何もくれないとは!?
ニェナーシャはハーバートの愚痴を聞いて笑い出し、彼がたじたじになるまで笑った後、ようやく説明を始めた。
【「まず、一つ訂正しておこう——あなたは実のところ堕落してはいない」】
「うん……え?」
ハーバートは目を見開き、どう反応していいか分からなくなった。
彼はせいぜいニェナーシャが祝福を与えるのをケチっているだけだと思っていたが、まさか堕落への第一歩さえ踏み出していないとは。
これって、もしかして俺の問題?
「おかしいな、君は邪神じゃないか?俺は君の協力者になって、契約まで交わしたのに、これが堕落じゃないなんて」
ハーバートは以前の捜査で見た戒律を思い出し、すぐに経典を開いて哀れな修道士にとって触れれば死に至る三大罪を探し当てた!
「ほら、見て」
【魔物と交わった冒涜者は、鞭打ちの刑の後に火刑に処す!】
【邪神と契約を結んだ堕落者は、首を刎ねた後、死体を火刑に処す!】
【誓いを破った背信者は、歯を全て抜き、舌を切り落とし、火刑に処す!】
これらを再度目にしても、ハーバートはつっこみを入れずにはいられなかった。
いやいや、お前らは苦行派なのか、バーベキュー派なのか?
どんな大罪でも、最後は火炙りの刑に持っていくなんて。
この教派の処理方法は本当に印象深くて、忘れようにも忘れられない。
しかし……
邪神はそれを聞いても鼻で笑うだけだった。
【「これが何の堕落なの?」】
「違うのか?」
【「ふふ、もちろん違う」】
ニェナーシャは嘲笑いながら、古めかしい戒律を嘲り、意味深げに尋ねた。【「もしわからないなら、一つ質問しよう。
過去の特定の状況下では、正神と邪神が協力することもあった。じゃあ……全ての正神がその時に堕落したというの?
邪神も人間と協力するだけで改心し、浄化されて正神になるの?
そんなことがあり得ると思うの?ありえない!
いわゆる堕落や浄化ってのは、凡人を支配するための単なる詐欺に過ぎない」】
ハーバートはニェナーシャの言葉を聞き、もっともだと思いながらも、どこか違和感を覚えた。
【「そして冒涜者についての戒律、何が冒涜だというの?人間が言う魔物の多くは、各神霊が創造した独自の種族に過ぎないのに、何が邪悪で何が正義だというの?
天使の中にも堕落した殺人鬼がおり、悪魔の中にも平和を愛する者がいる。これを一括りにできるの?
これらの戒律は、人間の足に繋がれた鎖に過ぎず、彼らによって人間に課せられた枷なのだ!」】
甘美な声が心の中に響き続け、ハーバートの思考を魅惑的に巡り続けた。
彼女は自分の理念をハーバートに植え付け、彼の思考に影響を与えようとしていた。
しかし、ニェナーシャの心配は無用だった。
ハーバートは彼女の教えなど必要とせず、もともと戒律を守ることなど何の興味もなかったのだ。
「はいはい、ストップストップ。本題に戻ろう」
ニェナーシャも頃合いを見て引き下がり、誘惑的な態度をすぐさま収め、くだけた会話に戻った。
【「次に、確かに私はあなたに能力を与えたけど、それは戦闘能力ではない。
それは……比類なき魅力だ!
喜べ!この魅力を持つことで、あなたは魔物の目に非常に魅力的に映るようになる。彼女たちは際限なくあなたを追いかけ、我が物にしたいと渇望するだろう!」】
ニェナーシャはどんどん興奮し、声に震えが混じるほどになり、熱く語った。
【「そしてあなたは、この機会に彼女たちと接触し、彼女たちの力を手に入れ、彼女たちをあなたの奴隷にし、あなただけの下人を持つことができるのだ!
そして今、この修道院の中に、強力な魔物たちが同じ場所に閉じ込められている。あなたがそこに忍び込めば、出てくる頃には……」】
「あの、ちょっと待って」
【「ん?」】
ニェナーシャは不審げに返事をし、奇妙そうに言った。【「あなたはこういうのが嫌いなの?騙さないでくれ!あなたの魂には何の抵抗もない、あなたは決して断らない!」】
「そういうことを言ってるんじゃないんだ!」
ハーバートは頭を掻きながら、少し困ったように手を広げた。「君が言っている魔物が誰かは知ってるし、いつでも中に入れるよ。
でも一つ問題があるんだ——俺はあいつらの相手になれないって!」
こんにちは、俺、ハーバート、新米聖騎士。
あの魔物娘たちは伝説級かエピックのどちらかで、もはや大型トラックとは言えない。
あれは超大型トレーラーだよ!
そして俺みたいな人間は、トレーラーが大嫌いなんだ!
トレーラーを押すどころか、抵抗する力さえない。
むやみに近づいたら、あっという間に魔物娘たちに捕まって、全員共通のスターレイジパワー供給源にされてしまうよ。
【「我が盟友よ」】
「はい?」
【「頑張れ、信じている!必ずできる!
絶対に勝てる!」】
「でも俺は自分を信じてないんだよ!」
何を信じろっていうんだ。
【「まあ、あなたの言う問題も解決できないわけではない」】
幸いなことに、ニェナーシャは冗談を言った後で解決策を示してくれた。
【「私は魔物の素材が必要なの。どんな部位でもいいから、質が高ければ高いほど良い……その魔力素材があれば、少しばかりの助けを提供できる」】
「それなら難しくない。明日牢獄に行って、何か拾えるものがないか探してみる」
諧謔ちゃんの約束を得て安心したハーバートが感謝の言葉を口にしようとした時、ふと彼女が先ほど熱く語ったことを思い出した。
「……あ、君さっきあんな邪説を並べ立てたのは、結局これが目的だったんだな!」
【「えへへ」】
「つまり……君の協力者になった以上、俺は魔物と付き合い、純潔の誓いを破る道を進むことになるってことなのか?」
冒涜、背信、堕落……苦行派の三大罪を、将来俺は全部犯すことになる。
三つの罪を揃える「三冠王」だな!
その時には、まず鞭打ちの刑、次に歯を全て抜かれ、舌を切り落とされ、そして首を刎ねられた後、最後に火刑台に縛り付けられて火刑に処される!
普通の犯罪者と比べて、俺の方がめちゃくちゃな目に遭いそうだな。
【「やっと分かった」】
ニェナーシャは軽く笑い、楽しげでありながら無邪気な声で言った。【「本当は警告するつもりだったんだけど、あなたが自ら私の契約者になりたがったから……これは私のせいじゃない」】
はぁ、信じるかよ。
【「ここまで来た以上、もう後悔する余地はない。
ニェナーシャを失望させることは許さない」】
「俺だって失敗したくないんだ」
ハーバートは少し力なく口を尖らせ、皮肉っぽく言った。「結局、罰を受けるのは俺なんだからな!」
生死に関わる大きなプレッシャーだ。
これからは危険な魔物娘たちをどう攻略するか、しっかり考えないといけない……
そして、このとき、ハーバートの心の中で不思議な感覚が膨らみ始めた。
何もかもが……
面白くなってきたように感じた!