詩織はさっきまで他人のゴシップを楽しむ傍観者で、夫が美人に囲まれていることなど何とも思っていなかった。
ところが次の瞬間、スキャンダルの主役が自分になった。
正面のLED大型スクリーンに、既に彼女の映像が映し出されている。薄井弦は左、彼女は右——二人の姿が一つの画面に並んでいた。
目詩織と薄井弦は、知り合ってからこれまで、結婚証の写真以外で正式に二人が並ぶことはほとんどなかった。だから、画面に二人が並んでいるのはこれが初めてに近い。
しかもだ、クールな男と華やかな女。見た目だけで言えば、並んでいるだけで絵になる二人だ。
詩織はさっきまでと同じように足を組んだまま、興味津々な顔で眺めていた。その表情は「見物しよう」という期待に満ちていて、多少は薄井弦に寄生したい気持ちが顔に出ているようにも見えた。
カメラを見つけると、彼女はゆっくりと組んだ脚をほどいて背筋を伸ばし、口元の笑みを引っ込めた。しかしその引き締め方がかえって不自然で、いっそう注目を集めてしまった。
さっき薄井弦が木村静香の申し出を婉曲に断った言葉がまだ耳に残る。では、夏目詩織はどうするつもりだろうか——
会場だけでなく配信のコメント欄も大騒ぎだ。会場の静かな期待とは違い、チャットは圧倒的に詩織に対する嫌悪で埋め尽くされていた。
「おいおい、うちの弦から離れろ!この金目当て女と共演とかありえない!」
「夏目詩織のその期待してる顔見てよ……薄井さんの脚にしがみつきたいのが画面越しに伝わってくる!」
「顔は合うけど無理。詩織、どけ!」
「司会、目を開けて見てみ?どこが合うの?うちの兄さんと木村静香が組む方がいいに決まってる」
「上のやつは消えろ、木村静香も微妙だし、森山彩の方がまだマシだわ」
……
全員の視線が集中する中、薄井弦がマイクを手に取った。表情は穏やかだが、眉間にわずかな皺が寄り、どこか嫌悪の色を漂わせている。
そして彼は視線を落とし、ただ二文字だけを放った。
「嫌だ」
会場は静まり返った。
空気に、火薬の臭いが混じったような気配がした。
弦はデビュー以来まったくスキャンダルがなく、縛りつけるような関係を拒む態度もはっきりしている。ただし、先ほど李一茹に対しては柔らかめの言い回しだった。ここまで直接的に、迷いなく「嫌だ」と言い切るのは初めて見た。
……
カメラは夏目詩織へと向き、司会がまた問いかける。「詩織さん、共演についてはどうお考えですか?」
どう考えているって?
詩織は頭が狂いそうになった。
授賞式が始まってから携帯は預けさせられ、コメント欄は見られないはずだ。それでも彼女の目は嘘をつかない。薄井弦の眼差しにあった嫌悪は、はっきりと見えた。
彼とは十分に距離を取っている。常に数百メートルは離れていた。共演したこともなければバラエティに一緒に出たこともない、同居なんてもちろんしていない。生活も仕事もお互いに交差しない。レッドカーペットで会っても、すれ違いざまに見なかったふりをするだけ——そういう存在だ。彼のことに詮索はしない。向こうも私にちょっかいを出すなよ、くらいの話だ。
他の人は我慢できても、彼女は我慢できなかった。
詩織は司会の手からマイクを奪い取り、カメラには目もくれず前列の薄井弦の後ろ姿に向かって声を張った。
「誰があなたと共演するって?この先一生ないわ!あんた、そんな夢見るのはやめなさい!」