聞き終わると、警察たちは龍野さんたちに向けるまなざしがさらに冷たくなった。
龍野さんたちも皆、岡本咲を驚愕の表情で見つめていた。彼らは監視カメラの死角を特に選んで哲也を懲らしめるつもりだったのに、咲があらかじめ録音していたとは思いもよらなかった。
咲はこの機会を利用して言った。「お巡りさん、彼らは誰かの指示で弟をいじめていたんです!」
警察たちは真剣な表情で答えた。「安心して、ちゃんと調査するから。」
咲と哲也は一緒に警察署に行って供述を行った。
そこで咲は初めて知ったのだが、龍野さんたちが哲也を取り囲んで懲らしめたのは、高橋由美という女性のせいだったのだ。
高橋家と岡本家は敵対関係にあり、両家とも娯楽産業に力を入れていた。岡本家には兆豊エンターテイメント、高橋家には恒宇エンターテイメントがあり、両社とも大和国のトップ4に入っていたが、高橋家が岡本家をやや上回っていた。
由美は高橋グループの会長の娘で、咲より5、6歳年上で、現在は恒宇エンターテイメントに勤めていた。勤めているといっても、業界では皆知っていることだが、それは由美が男性芸能人をたぶらかすための便宜だった。
今日、由美は哲也に目をつけ、自分の身分を盾に誘いをかけたが、哲也に断られてしまった。そのため恥じ入って怒り、人を派遣して哲也を懲らしめ、無理やり連れて行こうとしたのだった。
警察署から出てきて、咲の表情は良くなかった。哲也が彼女の専属の血液提供者だからなのか、無意識のうちに彼を自分のものと見なしていて、誰かが彼を欲しがることを望まなかったのかもしれない。
哲也は咲の後ろについて歩きながら、彼女の感情を察したようで、目を伏せ、少し慎重な様子で言った。「姉さん、僕が悪かったんだ。あなたに迷惑をかけて、怒らせてしまって。」
咲は我に返り、優しい態度を取り戻した。「あなたは何も悪くないわ。あの高橋由美があなたをこんなにいじめるなんて、必ず仕返ししてあげるわ!」
哲也は少し目を上げて咲を見た。その前髪に少し隠れた瞳の中の冷たさが、わずかに溶けていくようだった。
咲は突然足を止め、目の前の錦央亭の看板を見て眉を上げた。「哲也、行きましょう。私がご飯をおごるわ。」
哲也は錦央亭の看板を見て、それから軽やかな足取りで中に入っていく咲を見て、言いかけてやめ、結局は仕方なく彼女の後に続いた。
錦央亭の内装は古風で、各個室の間には珠のれんと衝立で仕切られ、灯りと衝立の影が古風で趣があった。
雪村正明はテーブルの前で考え事をしていた時、彼の隣の人が肘で軽く彼をつついた。「おや、雪村さん、あれ誰だと思う?」
正明が彼の指す方向を見ると、暖かい白のワンピースを着た咲が目に入った。
「あれ、雪村さんの婚約者じゃないですか?」
同じ社交界の人間なので、同席の御曹司たちはすぐに咲を認識した。
正明は咲を見て冷ややかに笑い、心の中に溜めていた鬱憤がようやく晴れたような気分だった。彼はやはり咲が彼を無視するはずがないと思っていた。今、彼女は正明が錦央亭にいることを聞きつけて、わざわざ駆けつけてきたのではないか?
「いや違うよ、あの岡本咲は今は偽りの令嬢だ。もう私たちの雪村さんに相応しくない。雪村さんはもう彼女と婚約を解消したんだ。」
「ああ、これはもしかして、わざわざ雪村さんを探しに来て、引き止めようとしてるのかな?」
「間違いないね。錦央亭は会員制だし、俺たちも雪村さんの会員カードのおかげで入れたんだ。岡本咲には会員カードないだろ。雪村さんを探しに来たんじゃなかったら、中に入って散歩でもするつもりか?ハハハ…」
周りの人々の話を聞きながら、正明は表情を変えなかったが、唇の端がわずかに上がり、同時に立ち上がって咲の方向へ歩き始めた。
彼は咲と結婚するつもりはなかったが、咲が岡本家でそれなりに愛されていることを考えれば、彼女が自分に執着するのを喜んで受け入れるつもりだった。