第6話:決意の通知
[雪乃の視点]
窓辺に座り、街の灯りを眺めている。
高層マンションの窓から見下ろす夜景は、まるで宝石箱をひっくり返したように美しい。でも、その輝きが今の私には虚しく映る。
昔は違った。
玲司と一緒にこの景色を見ていた頃は、未来への希望で胸が躍っていた。
――あの頃のことを思い出す。
創星エンタープライズを立ち上げたばかりの頃。狭いアパートの一室で、二人でパソコンに向かっていた夜。
「いつか、こんな夜景を見下ろせる場所に住もうな」
玲司がそう言って、私の肩を抱いた。
貧しかったけれど、幸せだった。
愛する人と同じ夢を見て、同じ目標に向かって歩んでいた。
あの時の玲司は、私を見つめる目に確かな愛情を宿していた。
――
でも、人の心は変わる。
愛情は憎悪に変わり、信頼は裏切りに変わる。
胸が締め付けられるような酸っぱい気持ちが込み上げてくる。愛していた人が、こんなにも遠い存在になってしまうなんて。
スマホを手に取る。
メッセージ画面を開いて、何度も文字を打っては消した。
『玲司、話があります』
消去。
『私たちの関係について、きちんと話し合いましょう』
消去。
『もう限界です。このままでは――』
消去。
長い文章を書いても、結局は同じことの繰り返しになる。
私の指が震えながら、たった一行の文字を打った。
『玲司、離婚しましょう』
送信ボタンを押す前に、一度深呼吸をした。
これで、もう後戻りはできない。
送信。
メッセージが送られた瞬間、不思議と心が軽くなった。
玲司は会社で残業をしていた。創星エンタープライズの新プロジェクトの資料に目を通しながら、時折スマホをチェックしている。
午後九時を過ぎた頃、雪乃からのメッセージが届いた。
『玲司、離婚しましょう』
玲司は画面を二度見した。
「また始まったか」
彼は舌打ちをして、スマホを机に置いた。
最近の雪乃は情緒不安定で、些細なことで感情的になる。今回の離婚発言も、きっと一時的な感情の爆発だろう。
「面倒な女だ」
玲司は資料に視線を戻した。
[雪乃の視点]
玄関のドアが開く音が聞こえた。
時計を見ると、午後十時を回っている。
玲司が帰宅した。
リビングのソファに座って、彼を待っていた。
「お疲れさま」