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52.63% 半妖精と竜印姫の反逆譚 / Chapter 10: 崖に立つ誓い、過去は切り離せない

Kapitel 10: 崖に立つ誓い、過去は切り離せない

――肩書きを捨てて、ただ消える。それは本当に賢い手か?寝台に仰向けになり、シャツの生地を無造作にいじりながら、アリオンは思い巡らせていた。姿をくらませば、いずれ狩られて殺されるだろう。だが、自分は魔導師だ――しかも腕は立つ。やつらは必ず自分を過小評価する。何より、彼にはいつだって“繋がり”があった。

身を横に返し、窓の外を見やる。隣の梢にとまった一羽の白い鳥が、陰鬱な日差しの中でひときわ明るく光って見えた。アリオンは唇の端にうっすら笑みを浮かべ、窓辺へ歩み寄る。「こんな曇天の、こんな沈んだ国で……君みたいな鳥が何をしている?」

鳥はちらりと彼を見てから、ひらりと舞い上がり、一つ上の階の左手の窓枠へ。アリオンの視線も、それに導かれるように移る。――少女。寝具は新しく裂かれ、身体にだらしなく引っ掛かっている。全身に痣が見て取れ、屈辱は空気に触れるほど濃い。だが白い鳥の囀りを見上げる彼女の口元には、かすかな――痛ましいほどに素直な――微笑みが浮かんだ。

名を思い出す。エラーラ。ドライケンの慣習では、十四に達すれば“男の支配を教え込む”儀礼が始まる。アリオンは、その発想そのものが根本から間違っていると深く感じていた。さきほど見た一瞬の微笑みが、それをさらに確かなものにする。――この酷い仕打ちの直後にすら、鳥は彼女に純粋な喜びを与えていた。彼は、わかっていた。

ふと彼女が顔を上げ、アリオンの視線と薄い笑みを正面から受け止めた。次の瞬間、彼女は怯え、部屋の影へと身を引く。ちょうどその時、アリオン自身の扉が乱暴に叩かれた。しぶしぶ開けると、廊下に兄ピュロスが立っていた。

「アリオン」刺すような声。「これは愉快だな」

「何の用だ、ピュロス」

「父上がおまえに“お使い”だとさ」兄は嘲笑を浮かべる。「なぜおまえに任せるのか、俺には皆目わからんが」

「何を“選ばれた”?」

「行って聞け」そう吐き捨てると、ピュロスは己の居室へ引き返していった。「俺は呼びに来いと言われただけだ」

重い溜息と、どうしようもない嫌悪を胸に抱え、アリオンは父王が日がな過ごすようになった書斎へ向かった。父の“お使い”は、いつだって――“興味深い”。権利をはぎ取るための政治的奸計か、あるいは拙い暗殺未遂。どれもこれも未遂に終わったが、そのたびに彼の魂の一片が、やつらの邪な目的のために削り取られていくのを感じた。

狭い廊を進みながら、今回はどう応じるべきか、そしてそもそもなぜ自分にくだらぬ“雑事”が回ってきたのかを測る。

扉を開けると、父は果物をつまみながら、本を静かに読んでいた。アリオンが入っても視線を上げない。彼が黙って立つあいだ、部屋にある音は紙がめくれる微かな気配だけ。やがて父が曖昧に手で示したので、アリオンは傍らの椅子に腰を下ろした。さらに十分ほど、王は読み、食べ続けたのち――

「辛抱強いな」本を閉じながら父が言う。「おまえの兄弟どもには欠けている資質だ」

「お呼びだと聞きました」

「ああ。ちょっとした用だ」父は淡々と続ける。「なぜおまえを選ぶか、理由は一つ。無用な詮索をせず、言われた通り遂行できる者が必要だ」

「ご命令は」

「“竜の山(ドラゴン・マウンテン)”へ行け。そこで見つけたものを――細大漏らさず――報告しろ。像でも、草地でも、平坦地でも、水源でも、洞でも、何でもだ。峰全体の精密な地図がいる」

虚を突かれ、アリオンは一瞬言葉を失う。「……それだけで?」

「何だ、難しすぎるか?」父は嘲る。「竜に食われるのが怖いとでも?」

「いいえ。ただ、もっと厄介な類を覚悟していただけです」

「世のすべてが“厄介”でできているわけではない」父は鼻を鳴らす。「我が国の設計のために、山の構造が要る。おまえの働きによって、いくつもの策と目的が一挙に満たされる。何かに“貢献している”と感じたいなら、そう思っていればいい。私は仕事に戻る。旅支度が済んだら、召使いに“大魔導師アーシャ”を至急呼ばせろ。――もう下がれ」

アリオンは簡潔に一礼し、書斎を辞した。胸中には、困惑を伴った一種の畏れが渦を巻く。戦略上これほど重要な事柄を任されるなど、前代未聞だ。だが同時に、今こそが好機――自分が“何をするか”をついに決める、その時だ。

部屋へ戻ると、すぐ出立の準備に取りかかった。必要な私物をまとめ、必要物資の目録を記した書状を召使いに託す。夜明けに出る――そう決めた。

* * *

高く露出した岩棚では、風雪が容赦なく身体を叩いた。北の氷原そのままに、地は凍てついている。ガウンの毛皮を裂かんばかりの突風に、アリラは外套をぎゅっと身体へ巻き付けた。

(もうすぐだ)荒い息の奥で思う。(城。……ルトリスも。私の生を形作ったもの。私の生を壊したもの。――そして、あの人たちが命を懸けたもの)

胸の水晶は、衣の下で淡く明滅を増していた。数日前から――気づけば、温もりさえ帯び始めている。今はそれだけが、この凍える天候の中で足を前へと運ばせる力だった。

全身を包み込むように防寒したティオリルが、すぐ背後にぴたりとつく。彼は彼女の腕を取り、顔のマフラーを引き下げて怒号する。「城は――あっちだ! 気を張れ! 渡るには“狭い尾根”を越えねばならん!」

アリラは雪に濡れた前髪を掻き払う。「入り口はどこ!? どうやって入るの! あの城は“何十年も”廃墟のはずよ!」

「行けばわかる! 尾根を越えたすぐ先だ! ――アリラ、気を付けろ!」

道は凶悪なほど細くなり、彼らは高い岩棚づたいに進んだ。風はさらに粘つきを増し、凍てつく刃で全身を叩きつける。まるで運命そのものが、二人を試しているかのように。ティオリルは再び彼女の肩を掴み、進軍を止める。「いったん止まる! 風が強くなりすぎた!」

「進むしかない!」アリラは即座に反発する。「ここで野営なんて不可能! 城まで行くの!」

「アリラ! 道が狭すぎる! ――落ちれば終わりだ!」

「道はずっと危険なままよ! ヴァルカーンの嵐は滅多に止まらない! ――行くしかない!」

なおも言葉を重ねようとしたティオリルを置き去りに、アリラは身を横向きにしながら、岩に体を擦り付けるようにして慎重に前へ進む。彼は彼女の強情を小さく呪い、数歩遅れて後に続いた。何度も身を岩壁へ押しつけ体勢を支えながら、二人は進む。足下の白い奈落をのぞき込む勇気は、どちらにもない。

横断は何時間にも感じられ、道は終わりなく続くように見えた。雪は衣の隙間という隙間から忍び込み、風は容赦なく体温を奪う。城は一向に近づかぬように思えた。

それでも時は流れ、やがて対岸が近づく。アリラが振り返ると、ティオリルは歩みを落とし、数歩後ろにいる。(あそこまで行けたら――彼を待てばいい)――あと数歩。彼女は膝まで新雪に埋まりながらも前へ跳ぶ。ティオリルはその様子に、マフラーの内側で苦い笑みを浮かべる。(まだあの魂は消えていない)

その刹那だ。背後から吹き上がった新しい突風が、ティオリルの身体を煽り――アリラの足元が、ふっと軽くなった。

「アリラ! ――掴まれ!」

警告は遅すぎた。アリラの身体は小道からはじき出され、白い無の空間へと吸い込まれていく――。


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