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廃工場の中、向かいにある一つの扉。
室内では、橋本美月が男に髪を掴まれ、否応なしに後ろに反らされていた。首には冷たいナイフが当てられ、傍らには撮影カメラが設置されていた。
錆びた鉄の扉の外で、古川智樹は山口雨音をしっかりと自分の背後に庇っていた。
「古川社長、俺たちが欲しいのは山口さんだ。彼女を中に入れてくれれば、お前の奥さんを解放するよ」仮面をつけた男の不気味な声が響いた。
智樹は考えるまでもなく拒否した。「不可能だ」
美月の目の縁に赤みが広がり、入口に立つ凛々しい姿を見つめながら、冷たくも頑なな表情に少しばかりの懇願を滲ませた。「智樹、あなたが過去どれだけ雨音のために私を悲しませたとしても、私はそれを気にしないわ。ただ今回だけは、私を助けてくれないの?」
ただ今回だけは、私を見捨てないで。
智樹の表情は冷ややかで、薄い唇から吐き出された一言一言が美月の体を震わせた。
「雨音は体が弱いし、それに彼女はつい最優秀女優賞を取ったばかりだ。もし裸体が生配信されたら、彼女の芸能生命は終わる」
美月は感情を抑えきれず激しく問いただした。「じゃあ私は?私は何なの?」
彼女もかつては将来有望な女優だった。五年前に智樹と結婚し、結婚後は彼の要求で芸能界を引退し、家で古川夫人として彼の生活の面倒を見ていた。
愛と結婚したと思っていたのに、結婚後の智樹はよく出張に行き、何カ月も顔を合わせないこともあった。帰ってきても、夜中に雨音から電話がかかれば出ていってしまう。
恋愛記念日、結婚記念日、誕生日…毎回、雨音から電話があれば、彼は自分を置いて振り返りもせず出ていった。
たとえ自分が手術台の上にいるときでも。
智樹は彼女の視線を避け、答えることなく、慎重に雨音を抱きかかえていた。
なのに首にナイフを突きつけられているのは自分なのに。
「智樹、私を中に入れて」雨音は彼の服を掴んで懇願した。「彼らが報復したいのは私なの。最悪の場合、芸能界を引退するわ」
「ダメだ」智樹はきっぱりと彼女の要求を拒否した。「絶対にお前に傷を負わせたりしない」
美月は歯で唇を強く噛み、こらえていた涙がついに溢れ出した。
あなたもかつては一生守ると約束したじゃない、忘れたの?古川智樹!
仮面の男は彼らの会話にうんざりし、いらだちながら言った。「それなら、古川夫人に代わりをやってもらおう。こんなに素晴らしいスタイルの奥さんなら、きっとネットユーザーたちも喜ぶだろう…」
そう言うと、美月の服を引き裂き、真っ白な下着を露わにした。そばの機械が作動し、映像はすでに生配信されていた。
「智樹…」美月はこのような屈辱に耐えられず、涙ながらに懇願した。「お願い、助けて、今回だけでいいから、私はあなたの妻なのよ…」
裸で生配信されるくらいなら、死んだほうがましだった。
智樹は無反応で、冷たい声で言った。「芸術映画を撮っているだと思えばいい。どうせお前はもう芸能界を引退したんだ。生配信されても、みんなすぐに忘れるさ…」
涙に濡れた美月の瞳は激しく震えた。雨音のために自分にここまで冷酷になるとは思わなかった。
「シッ」下着のストラップが切られる音。
雨音は智樹の腕の中で身を縮め、彼の見えないところで冷ややかな笑みを浮かべ、赤い唇を上げ、無言で言った。「美月、またあたしの勝ちね」
美月の下着はかろうじて体の前に掛かっていたが、両手は縛られ身動きができず、首のナイフは最初から離れることはなかった。
彼女は絶望的に目を閉じ、心の底から広がる冷たさが全身を包み込み、息ができなくなりそうだった。
再び目を開けると、先ほどの不安や恐怖とは打って変わり、口元に苦い笑みを浮かべた。「裸で生配信されるだけでしょ、エロ映画を撮っていると思えばいいわ。縄を解いて、自分で脱ぐから」
仮面の男の目に一瞬の驚きが走り、視線が智樹の方向に向いた。雨音はかすかに頷いた。
仮面の男は美月の手の縄を解いたが、ナイフはまだ彼女の首に当てられたままだった。
美月は血の巡りの悪い手首をさすった。肌は痛かったが、心の痛みには遠く及ばなかった。入口に立つ凛々しい男を見上げ、表情は穏やかで、口角が少し上がっていた。
一種の穏やかな狂気を感じさせる様子だった。
智樹は眉を寄せ、何か不吉な予感がした。
美月は仮面の男が注意を逸らした瞬間を見計らい、肘で彼の胸を強く打った。仮面の男は痛みに彼女の髪を掴む手を緩めた。
彼女が走り出そうとした瞬間、仮面の男はナイフを振り下ろした…
首元に冷たさを感じ、何か熱いものが流れ出し、すぐに服を濡らした。
美月は自分の首を押さえたが、鮮血は堤防が決壊したように地面に流れた。
——ドン。
彼女は重く床に倒れ、目を見開いて無反応の智樹と、不気味な笑みを浮かべる雨音、そしてもう一つ——
緊張と不安に満ちた、ぼやけた顔を見た。