藤田秋穂は谷川美咲のそばにしゃがみ込み、彼女の背中をトントンと叩いて言った。「投資家だからって、こんなにいじめていいわけじゃないでしょ!」
美咲はトイレに顔を突っ込み、めまいがするほど吐いていた。吐き終わるのを待って、秋穂は彼女に水を一杯持ってきて口をゆすがせた。
以前の美咲もこういう場面に遭遇したことはあったが、これほど酔いつぶれたことは一度もなかった。
やっと美咲の様子が落ち着いてきたところで、秋穂は彼女の腕を支えながらゆっくりとベッドの方向へ歩き始めた。
ベッドに横になるとすぐに、美咲は意識を失った。酒臭い体を見て、秋穂はしかたなく温かいタオルを持ってきて彼女の顔を拭いてやった。
突然、ドアベルが鳴った。
秋穂はドアを開け、入り口に立っている陸奥渉を見て、口をぽかんと開けた。「陸奥監督、どうしてここに?」
陸奥は中を覗き込み、すでにベッドで休んでいる美咲を確認して安心したように息をついた。そして手に持っていたものを秋穂に渡した。「これは二日酔いの薬だ。あとで彼女に飲ませてやってくれ」
秋穂は少し驚いた。彼女はこの監督があの投資家と同類だと思っていたのに、まさか美咲に薬を届けに来るとは。
「ありがとうございます」
薬を届けると、陸奥は数歩歩き、壁に寄りかかって携帯を取り出した。
「村上若旦那、薬はお届けしました」
相手は軽く「うん」と返事をしただけだった。
陸奥には藤井彰の考えが本当に理解できなかった。みんなの前で美咲に酒を飲ませておきながら、一方で密かに陸奥に二日酔いの薬を届けさせるなんて。
彼はこんなにひねくれた人間を初めて見た。
美咲は翌日目を覚ますと、頭がまるで爆発しそうだった。これが二日酔いの苦しみというものなのだろうか。
「美咲さん、起きましたか?」秋穂が厨房からお椀を持って出てきた。
美咲は今、喉がひどく乾いていたので、秋穂にうなずくだけだった。
秋穂はお椀と箸を準備して言った。「美咲さん、先に洗顔してきてください。お粥を作りました」
美咲は必死に声を出そうとしたが、喉を開くとまるで誰かに引き裂かれるような痛みがあり、唾を飲み込むだけでも苦労した。
美咲は二回ほど口を開こうとしたが、声が出なかったので諦めた。
昨日あれだけお酒を飲んだことを考慮して、秋穂は今日の料理を特に薄味にしていた。美咲の胃に負担をかけないためだ。
お粥を一口飲むと、美咲の喉は少し楽になった。しばらくして、ようやく口を開いた。「ありがとう、秋穂」
秋穂が彼女について一年も経っていないが、何事にも非常に熱心だった。今朝起きたとき、彼女は秋穂が服を着替えていないことに気づいた。おそらく一晩中自分の世話をしていたのだろう。彼女はそれに本当に感謝し、感動していた。
秋穂は微笑んで冗談めかして言った。「それなら美咲さん、こんなに丁寧にお世話したんですから、給料上げてもらえませんか?」
美咲の表情は非常に柔らかくなり、気前よく言った。「後で瑞希さんに給料上げるよう言っておくわ」
秋穂は美咲に向かって明るく笑い、目が弓なりになった。「美咲さん、本当に優しいです」
今日の午前中は美咲の撮影シーンがなかったので、食事後も部屋でしばらくテレビを見て、のんびりと時間を潰し、2時になってようやくゆっくりと支度を始めた。
撮影現場に到着すると、藤井彰の姿が見当たらないことに気づき、美咲の緊張した心は徐々に落ち着いてきた。今は彰からできるだけ遠ざかりたかった。
「美咲、昨日帰ってからは大丈夫だった?今でも具合悪いところある?」いつの間にか、佐々木武が傍に来ていた。
美咲は彼に礼儀正しく微笑み、昨日彼が自分のために発言してくれたことを思い出し、感謝の意を示した。「昨日は私のために発言してくれてありがとう。今は大丈夫よ、どこも悪くないわ」
武はうなずいた。「それはよかった。ただ、彼が男なのに女性である君をいじめるのを見るのが我慢できなかったんだ」
武の言葉に美咲は驚いた。今の世の中で、彼のように資本を恐れない人はほとんどいないと言っていい。
しかし同時に美咲は、昨日武に自分の代わりにあのボトルのお酒を飲ませなかったことに安堵していた。彰の機嫌を損ねていたら、彼の芸能界での将来はおそらく絶たれていただろう。
彼女は自分と彰の個人的な問題で他人を傷つけたくなかった。
「武くん、あなたの気持ちはありがたいけど、彼の立場は君が思うほど単純じゃないの。これからはできるだけ彼を刺激しないようにしましょう」
武は眉をひそめた。美咲はあの男を恐れているのか?
彼が口を開いて尋ねようとしたその時、監督が美咲を呼ぶ声が聞こえ、言おうとしていた言葉を飲み込んだ。
—
藤井彰が車から降りるとすぐに、助手の叶野隼人から電話がかかってきた。
電話に出ながら、彰はゆっくりと自分の車のボンネットに寄りかかり、タバコを一本取り出して火をつけた。一呼吸吸い込んで、電話の向こうの声を静かに聞いていた。
「数日したら戻るよ」
「重要な契約書は送ってくれ」
「ああ」
「……」
電話を切ると、彰はその場でもう一本タバコを吸った。助手席に置かれた白いビニール袋をしばらく見つめてから、それを手に取り、車のドアを閉めた。
しかし撮影現場に着くとすぐに、美咲と武が向かい合って会話している姿が目に入った。二人とも笑顔で、とても親しげに見えた。これに彼の心の中の火がたちまち燃え上がり、抑えきれない怒りが脳裏に湧き上がった。
最初は佐藤昭彦と入り乱れ、今度は同じ撮影現場の俳優を誘惑する。彼女を見くびっていたようだ。
昨夜、武が美咲のために発言した場面を思い出し、彰の口元に冷笑が浮かんだ。
しかし、折悪しくこのタイミングで、まるで銃口に突っ込むように彼に近づく者がいた。
実は彰が入ってきた時から、柳田文乃は彼に気づいていた。しかし昨晩の彼の態度を思い出すと、少し臆病になって、挨拶に行く勇気が出なかった。
助手の蘭子さんはすぐに彼女の心を見抜いて言い始めた。「文乃さん、村上さんに挨拶に行かないんですか?」
文乃は目を伏せて「いいわ」と言った。
「文乃さん、村上さんはあなたを探しに来たに決まってますよ。ほら、彼の手にはミルクと薬がありますよ。きっと昨晩きつく言い過ぎたと思って、わざわざ謝りに来たんです。あなたが昨晩あんなにお酒を飲んだから、彼はきっと心配したんですよ」
文乃の瞳が揺れた。「本当?」
「撮影現場で村上さんが知っている人なんてほとんどいないんですから、あなた以外誰を探すことがあるんですか?」
蘭子の言葉は見事に文乃を動かした。
文乃は艶やかな歩き方でゆっくりと近づき、甘い声で呼びかけた。「村上さん~」
彰は彼女をちらりと見たが、何も言わなかった。
文乃は彰の手の袋をじっと見た。中には確かに薬とミルクがあった。
彼女はわざと知らないふりをして尋ねた。「村上さん、手に持ってるのは何ですか?」
彰は手の袋を見て、目の奥に自嘲の色が浮かんだ。今手に持っているものは本当に皮肉なものだった。
彼はまるでゴミを捨てるかのように、袋を直接文乃の腕に押しつけ、冷たい口調で言った。「あげるよ」
文乃は急に顔を輝かせた。蘭子さんの言った通り、村上は本当に彼女を探しに来たのだ。