第8話:永遠の別れ
[氷月刹那の視点]
「違う」
俺は担架に向かって歩きながら、頭を振った。
「これは雫じゃない。雫はもっと......」
白い布の下の輪郭を見つめる。
あまりにも小さい。
雫はこんなに小さくなかった。
「違う、これは雫じゃない」
安堵が胸に広がった。
俺は振り返り、かえでに向かって叫んだ。
「見ろ!これは雫じゃないぞ!」
かえでが悲しそうに首を振る。
「刹那......」
「雫はどこだ?本当の雫はどこにいる?」
俺は辺りを見回した。
ロビーの壁に、案内板が掛かっている。
『遺体安置室→』
矢印が奥を指していた。
「そうか、雫はあっちにいるんだ」
俺は走り出した。
「待って!」
かえでの声が後ろから聞こえたが、構わなかった。
廊下を駆け抜け、遺体安置室の扉の前で立ち止まる。
----
遺体安置室の中では、数人の職員が静かに作業をしていた。
白衣を着た男性職員が、書類を整理している。
その奥に、いくつものベッドが並んでいる。
それぞれのベッドには、白いシーツが掛けられていた。
職員の一人が、入口で騒いでいる男性の存在に気づく。
「あの方、ご家族の方でしょうか」
「確認してきます」
----
[氷月刹那の視点]
「すみません、関係者以外は」
職員が俺を制止しようとした。
「俺は氷月刹那だ。妻を探している」
「氷月......」
職員が手元の名簿を確認する。
「氷月雫様でしょうか」
「そうだ!雫はどこだ?」
職員は静かに頷き、俺を一つのベッドへ案内した。
そこには、青白い顔をした女性が横たわっていた。
痩せこけて、頬が落ち窪んでいる。
まるで別人のようだった。
でも——
「雫.....?」
その顔は、確かに雫だった。
ベッドの脇に置かれたカードには、【氷月雫】と書かれている。
「嘘だ」
俺は膝から崩れ落ちた。
「こんなに痩せて.....いつの間に.....」
雫の手に触れる。
冷たい。
石のように冷たかった。
「なんで.....なんで俺に言わなかったんだ.....」
涙が頬を伝った。
職員が書類を差し出してくる。
「火葬の手続きをお願いします」
「火葬?」
その言葉に、俺の中で何かが弾けた。