豪雨が街を襲い、一面に咲いていた木綿の花が地面に叩き落とされた。辺り一面に散った赤い花びらが、ほのかな香りを漂わせていた。
薄暗い物置には光がなく、ただ窓の外の廊下にある地灯だけが、ぼんやりと黄みを帯びた光を放っていた。遠くで真紅の稲妻が厚い黒雲を引き裂き、滝のような雨が降り注いでいた。
「僕の贈り物、気に入ったかい?清葉ちゃん」男の低く甘い声が、雷鳴に混じって耳元でささやかれた。
彼女は不安げに男の服を握りしめ、小さな声でつぶやいた。「……怖いよ」
「大丈夫、いい子だ。牛乳を持ってくるからな」男は低く笑い、彼女の小さな頬に触れてから立ち上がり、部屋を出て行った。
彼女はしばらく待っていたが、時間が経つにつれて不安が募っていった。服を着ようと立ち上がったその瞬間、突然物置の扉が勢いよく開き、強い光が差し込んだ。
無数の顔が目の前に現れた。驚き、軽蔑、嫌悪、侮蔑、嘲り――。
「岩田家の継娘でしょ?こんなに小さいのに、もうこんなことしてるなんて」
「継娘なんて言えないわよ。あの子は岩田家に連れてこられたお荷物だって聞いたわ。叔母さんだって正式な妻じゃないのに」
「本当にみっともないわね」
「風紀が乱れてる。世も末だわ」
清葉は震えながら自分の体を抱きしめ、必死に首を振った。――違う、違うの、そんなはずない。
母親が駆け寄り、彼女の頬を何度も打った。涙を流しながら、叫ぶように叩き続けた。「このクソ娘!殺してやる!」
「原田さん」低く冷ややかな声が響いた。人混みの中から男が現れた。気品のある整った顔立ちは、まるで彫刻のように完璧だった。
清葉の瞳に、かすかな希望が宿った。彼女は男を見上げ、助けを求めるようにその名を呼ぼうとした。
だが男は彼女の目をまっすぐに見つめ、口元に薄い笑みを浮かべながら、一言一言を冷たく言い放った。「権門の家に、恥さらしは不要だ。今日をもって岩田邸から追放する。二度と南洋に戻ることは許さない」
「ドンドンドン――!」激しいノックの音が響き渡った。
清葉は飛び起き、体を震わせながら両腕を抱いた。彼女は息を整え、震える指でタバコを探り当て、火をつけて深く吸い込んだ。赤い火が闇を淡く照らした。
着ているパジャマの感触を確かめて、ようやく胸をなで下ろした。また、あの悪夢だ。何度も繰り返し見る夢の中で、彼女はいつも人々の視線の中、裸のまま立ち尽くし、恐怖と絶望に呑まれていく。
夢の終わりには、決まってあの男が悪魔のように耳元で囁くのだ。「僕の成人祝い、気に入ったかい?清葉ちゃん」
マネージャーのジェイソンは十分間もドアを叩き続け、最後には玄関マットの下から予備の鍵を取り出して中に入った。部屋の中では、清葉が乱れた髪のまま床に座り、タバコを吸っていた。その光景にジェイソンは目をむき、思わず声を荒げた。
「原田清葉!またタバコ吸って仕事もサボって……」
清葉は顔を上げた。虚ろな目をしていたが、その小さな顔立ちは息を呑むほど美しかった。彼女は何も言わず、ただジェイソンを静かに見つめた。
几帳面な性格のジェイソンでさえ、この荒れ果てた美しさの前では気圧され、声を落とした。「清葉さん、最近ストレスが溜まってるんじゃないか?」
清葉はしばらく彼を見つめたあと、天井のライトを見上げた。ここは岩田邸でも、見知らぬ安宿でもない。――彼女は南洋に戻ってきた。悪夢が始まった場所に。
「……あなただったのね」彼女は低く、淡々とそう言った。
「私以外に誰がいるんだよ。早く風呂に入って着替えろ」ジェイソンはイライラとため息をつきながら、彼女のだらしない姿を見て眉をひそめ、指を優雅に立てて続けた。「『錦繍』が今日クランクインするんだ。お前はただの端役だけど、顔はいい。もしかしたらチャンスがあるかもしれない」
清葉は小さく冷笑し、無言でタバコをもみ消した。台詞ひとつないエキストラが、売れるわけがない。だが、しばらく仕事もなかった。少しでも金を稼げるなら、それでいい。
半月ほど前、石井昭文の驚くほど巧妙な手で、彼女は本当に帰国させられた。だがその後、彼は姿を消し、「また連絡する」とだけ言い残していた。石井の背後にいる雇い主についても、彼女は何ひとつ知らなかった。
南洋に戻っても、清葉はすぐには岩田邸に戻らなかった。生きるためには金が必要だったし、岩田家の人々を避けながら、いつか健太に近づくための機会を待っていた。