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Kapitel 2: 第2章

5

飛行機が着陸態勢に入った。行き先は南城――一度も訪れたことはないが長い間憧れていた海辺の街だった。

ここには高橋沙耶もいない、田中飛雄もいない、あの息苦しくなるような噂話も存在しない。

窓から見える飛行機が雲を突き抜けたとき、六年前のあの雨の夜のことを思い出した。沙耶が全身びしょ濡れで僕のアパートの下に立ち、告白してきた時のことを。

「誠、一緒に頑張れば、きっといい暮らしができるよ!」

……

スマホを開くと、未読メッセージが十七件。一番新しいものは五分前に届いていた。

「誠、私は今、市役所の前にいるわ。あなたはいつ来るの?」

画面を見つめていると、突然笑いが込み上げてきた。

なんて皮肉なんだろう。

二十七日間の懇願の末、彼女から「三日後にあなたと結婚する」という言葉だけを得た。

そして今、その三日目が来たというのに、僕にはもう嘘を引き裂く力さえ残っていなかった。

指先が連絡先にある見慣れた番号の上をなぞった。六年分のチャット履歴が走馬灯のように目の前を駆け抜けていく。

雨の夜、全身びしょ濡れの彼女の告白。

起業時代、アパートの一室でカップ麺を分け合って食べた惨めな姿。

初めて契約を結んだときに、彼女が僕に飛びついた喜びようさえ。

……

最後の場面は、飛雄が僕のパジャマを着て彼女を抱きしめる姿で止まっている。

僕はまるで「高橋沙耶」という檻に六年もの間閉じ込められていた。でも今は心が晴れている。きっと人々が言うように、感情の解放と和解は一瞬で訪れるものなのかもしれない。

「お客様、出口はこちらです」

客室乗務員の優しい声に我に返った。

沙耶と起業した数年の間、僕はほとんど全てを失った。夢も、そして尊厳さえも。

六年の待ち時間、二十七日間の懇願、それらは全て飛雄の一度の引っ越しほど重要ではなかったのだ。

かつての僕は、自分が十分に尽くし、十分に愛せば、幸せな結末を手に入れられると思っていた。

だが得られたのは、心を引き裂くような裏切りと傷だけだった。

僕が大切にしていた愛は、彼女にとっては笑い話に過ぎず、暇つぶしの一つでしかなかった。

彼女は一度も僕を心に留めたことがなかったのだ。

ふと、母が臨終の際に枯れた手で僕の袖をしっかりと掴み、濁った目に哀願の色を浮かべていたことを思い出した。


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