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12.5% 捨てられた妻の宝石人生 / Chapter 3: 第3話:断ち切られた絆

Kapitel 3: 第3話:断ち切られた絆

第3話:断ち切られた絆

[刹那の視点]

「新年の初日に、育ての親の墓参りより大事な仕事って、一体なに?」

私の問いかけに、冬弥の顔が一瞬強張った。

「お前には関係ない」

「関係ないって……私はあなたの妻よ」

「妻なら、夫の仕事に口出しするな」

冬弥の声が冷たくなる。私は車のドアハンドルに手をかけた。

「わかったわ。一人で行く」

「刹那——」

私はドアを開け、車から降りた。冬弥が何か言いかけたが、もう聞く気はない。

車のドアを閉めた瞬間、冬弥は躊躇なくUターンした。タイヤが砂利を跳ね上げ、私の黒いワンピースを汚していく。

私は立ち尽くしていた。

夫が、私を道端に置き去りにした。

----

冬弥は車を走らせながら、バックミラーで刹那の姿を確認した。黒い服を着た妻が、一人で立っている。

「これでよかったんだ」

自分に言い聞かせるように呟く。美夜が待っている。彼女の方が大切だ。

スマートフォンが再び鳴る。美夜からだった。

「冬弥、どこにいるの?」

「今、向かってる。刹那は墓参りに行かせた」

「一人で?」

美夜の声に、わずかな驚きが混じる。

「問題ない。あいつは強いから」

冬弥は電話を切り、アクセルを踏み込んだ。

----

[刹那の視点]

スマートフォンが振動した。メッセージが届いている。

美夜からだった。

「楽勝だったわ」

私は画面を見つめた。この女は、冬弥が私を置き去りにしたことを知っている。つまり、さっきの「急用」は——

指が震える。でも、私は冷静に返信した。

「結婚おめでとう」

送信ボタンを押す。

すぐに返信が来た。

「は?何それ?負け惜しみ?」

私は返事をしなかった。でも、美夜からのメッセージは続く。

「あ、そうそう。怜士くんが言ってたわよ。『あのババアを殺して美夜さんをお母さんにしたい』って。可愛いでしょ?」

息が止まった。

怜士が、そんなことを。

私の息子が。

スマートフォンを握る手が震える。でも、私は返信しなかった。

美夜の思う壺だから。

私は歩き始めた。墓地まで、まだ遠い。

一時間後、ようやく墓地の入り口が見えてきた。管理人の小屋から、初老の男性が出てきた。

「あけましておめでとうございます」

「おめでとうございます。九条家のお墓に参らせていただきます」

「ああ、奥様ですね。お疲れ様でした」

管理人は私を見て、わずかに眉をひそめた。きっと、一人で来たことを不審に思っているのだろう。

「ご主人は?」

「仕事で」

短く答え、私は墓地の奥へ向かった。

九条家の墓石が見えてくる。冬弥の両親が眠る場所。私にとって、唯一の家族だった人たち。

墓前に膝をつき、手を合わせる。

「お義父さん、お義母さん。新年のご挨拶に参りました」

風が吹いて、枯れ葉が舞い散る。

「私は、もう冬弥のそばにいることに疲れ果てました」

声が震える。

「彼には、最愛の人が戻ってきました。私は、もう必要ありません」

涙が頬を伝う。

「あの事故のこと、まだ冬弥は私を恨んでいます。当然です。私のせいで、お二人は亡くなったのですから」

あの日のことを思い出す。

五年前の雨の夜。冬弥の両親を迎えに行く途中で起きた、あの交通事故。

私が運転していた。

対向車線からトラックが飛び出してきて、私は咄嗟にハンドルを切った。

でも、間に合わなかった。

冬弥の両親は即死。私は右手の薬指と小指を失った。

「冬弥は、私が両親を殺したと思っています。そして、それは事実です」

墓石に額をつける。

「だから、もう終わりにします。私は、冬弥を自由にしてあげます」

立ち上がろうとした時、空が急に暗くなった。

雨が降り始める。

最初はぽつぽつと。でも、すぐに激しい雨になった。

私は傘を持ってきていない。

タクシーを呼ぼうとスマートフォンを取り出したが、この山間部では電波が弱い。

仕方なく、歩いて帰ることにした。

雨の中を四時間歩き続け、ようやく都心に到着した時、私は全身ずぶ濡れだった。

街のショーウィンドウのガラスに映る自分の姿を見て、愕然とする。

髪は乱れ、化粧は崩れ、黒いワンピースは泥だらけ。まるで、野良犬のような姿だった。

でも、ガラスの向こう側を見て、私の心臓が止まりそうになった。

冬弥がいた。

怜士と美夜と一緒に、レストランで楽しそうに談笑している。

三人とも、笑顔だった。

私が見たことのない、心からの笑顔。

私は震える手でスマートフォンを取り出し、冬弥に電話をかけた。

----

レストランで、冬弥のスマートフォンが鳴った。画面には「刹那」の文字。

冬弥は不快そうに顔をしかめ、通話を切った。

「誰?」美夜が尋ねる。

「営業の電話だよ」

冬弥は嘘をついた。そして、スマートフォンを無音モードに設定する。

「さあ、乾杯しよう」

三人がグラスを合わせる音が、レストランに響いた。

----

[刹那の視点]

通話が切れた。

冬弥は、私からの電話に気づいていた。でも、意図的に切ったのだ。

私は立ち尽くしていた。雨に打たれながら、ガラスの向こうの幸せな家族を見つめて。

どんなにボタンを押しても、もう二度と光らなかった。冬弥の心のように。どれだけ温めても、もう温もることはない。

私はスマートフォンを開き、SIMカードを抜き取った。

小さなチップが、雨に濡れて光っている。

これが、冬弥との最後の繋がり。

私はそれを、近くのゴミ箱に捨てた。

もう、戻れない。


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