Kapitel 8: 最初の手術 2
華佗（かだ）は麻沸散をようやく調合したばかりで、その効果を試すためにこれまで動物にしか実験してこなかった。人間に対して手術を行うのは今日が初めてであり、多少なりとも緊張していた。だが、龍飛の揺るぎない眼差しを見て、華佗はごくりと唾を飲み込み、「老いぼれではありますが、精一杯やってみましょう」とつぶやいた。
屋敷の中の騒ぎに驚いて、宿に泊まっていた客たちも次々と奥の中庭に集まってきた。名医が宿屋の主人の奇病を患った妻を治療していると聞いて、皆興味津々だ。門の隙間や窓から顔を覗かせ、中を覗き込む。龍飛は一瞥すると、鹿丸に全ての窓や扉を閉めさせ、さらに数本の灯火を様々な角度に配置し、まるで影の出ない手術用の灯りのような照明を作り出した。
華佗は片手に手術刀を握り、膨れ上がった女性の腹を見ながら切開しようとした。だが、龍飛が手を伸ばして止める。「まずは火で炙って、感染を防ごう！」
華佗は何も言わず、龍飛の指示に従い、鋭利な刃を火で熱した。深く息を吸い、龍飛と視線を交わす。手首に力を込め、女性の腹に細長い切り口を入れると、先ほどよりもさらに強烈な悪臭が部屋中に広がった。立っているのもつらいほどの臭気だ。薄黄色の粘り気のある液体が、切り口からじわじわと溢れ出てきた。臭くて生臭く、様々な悪臭が混ざっていた。龍飛は頭がくらくらし、慌てて袖で口と鼻を覆った。顔を上げると、華佗もふらついているのが見え、すぐに支えながら叫んだ。「布を持ってきて、先生の口と鼻を塞げ、急げ！」
時間が少しずつ経ち、外にいた人々も騒ぎを止め、静まり返っていた。中を覗いた者たちの話を聞き、誰もその場を離れようとしない。皆、噂の名医がどうやって病を治すのかを見届けたいのだ。店の主人は夜通し中庭を行ったり来たりしていた。空が白み始めても、部屋の中からは何の音も聞こえてこない。
黄水が流れ出すにつれて、女性の腹は少しずつしぼみ、ついには大きな桶二杯分もの汚水が溜まった。それは誰もが吐き気を催すような汚物だった。鹿丸はすでに何度も吐き、先ほど食べた料理もすっかり出し尽くしていた。やがて汚水の流出が止まると、龍飛は女性の肋骨の下を触診し、硬い塊が噴門の位置に詰まっているのを確認した。これが原因であった。食べ物が胃に入らず、胃液が溜まりすぎて腸に浸透し、腸に水が溜まっていたのだ。
「ここだ！」と龍飛は噴門を指差した。「これを取り除けば、この女性は助かる！」
華佗も確認し、「なるほど。切開を広げて、中のものを取り出すしかないな」と頷いた。
「先生、念のために言っておきますが、これは皮膚の下だけじゃありません。その下には胃の膜、つまり胃壁があります。異物はその内側にあるんです」と龍飛は警告した。「この女性は体力が弱っている。胃を開けば大量出血の恐れもあるし、うまくいかなければ命にかかわります。」
華佗は静かに頷いた。動物実験で既にその危険性は理解していた。「わかっている。さっきの経験があるから、今回はうまくやれるだろう」と自信を見せた。
「コケコッコー！」という鶏の鳴き声が庭に響いた。東の空が白み始め、朝霧が雲のように街全体を包み込む。まさに「雲の中」というにふさわしい景色だ。辺境の草原地帯では、朝晩に霧が発生するのは珍しくない。草に溜まった水分が朝日で蒸発し、濃い霧となるのだ。
「もう夜が明けたっていうのに、まだ終わらんのか……？」店主は焦燥感に駆られて歩き回っていた。妻は苦楽を共にしてきた伴侶だった。冀州からここまで、どんなに苦しい時も一言も不満を言わず、常に彼の後ろで支えてくれていた。姑舅にも実の親以上に尽くしてくれた。二人の絆は断ち切れぬほど強いものだった。
「ギィ……」と扉が開く音がして、庭の人々が一斉に立ち上がった。鹿丸に支えられた龍飛がまず外に出て、すでに昇った朝日を見上げると、その光があまりに眩しく感じられた。華佗も後に続き、扉を閉めた。徹夜で施術した老医師の顔には疲労の色が濃くにじんでいた。
「名医先生、妻は……？」と店主が慌てて駆け寄る。
華佗はほほ笑んで答えた。「老いぼれの鎮静薬を服用させて、今は眠っています。目を覚ましたら、まずは清水を少し飲ませ、明日からはお粥や野菜スープで徐々に体を回復させれば、三ヶ月もすれば元気になりますよ。」
それを聞いた店主は、涙が頬をつたって溢れ、地面にひれ伏して華佗に頭を下げた。「名医さま、命を救っていただき、本当に感謝の言葉もございません！一生忘れません！」
華佗は笑って答えた。「あなたの奥さんを救ったのは、この若者のおかげです。私はただ手を貸しただけ。感謝するなら、彼にしなさい。」
店主はすぐに龍飛の方へ向き直って、また頭を下げた。周囲の人々も口々に賞賛と感嘆の声を上げた。龍飛は心の底から満たされた気持ちになり、人を救うことがこんなにも心地よいものだとは思いもよらなかった。かつて軍隊にいた頃、任務を果たして熱いシャワーを浴びるときに感じた達成感と似ているが、今回はそれとはまた別の感動だった。
「もういいだろ、もう時間がない。そろそろ出発するわよ！」群衆の後ろから、冷ややかな女の声が響いた。「一晩中騒がしかったんだから、その銀一両や二両の宿代、まけてくれてもいいわよね？」
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