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高橋隆は愛子の手を引き、森川美咲の墓の前にしゃがみ込んで、丁寧に墓石を拭いていた。
墓園は愛子が一番好きな場所だった。
ここには、ママよりも彼を愛してくれたおばさんが眠っているからだ。
しかし今、愛子は少し落ち着かない様子だった。
彼は隆の服の裾を引っ張った。「パパ、家を出るとき、ママがスーツケースを用意してるのを見たよ。」
「ママは本当に僕たちから離れたりしないよね?」
この数日間の私の異常な行動を思い出し、愛子の小さな顔に不安の色が浮かんだ。
隆はまだ墓石を拭くことに没頭していた。粗い墓石は彼の手によって埃一つなく磨かれ、彼は確信を持って言った。
「しないよ、ママが一番愛しているのはお前だ。ママはお前を置いていくなんてできないよ。」
彼の心の中では、私が一番愛しているのは愛子で、命さえも惜しまないほど愛していると思っていた。
どうして家族を引き裂く気になれるだろうか?
「お前のママはすぐに機嫌が直るよ。以前と同じように、彼女の好きなレストランを予約して、少し埋め合わせをすればいいんだ。」
そう言いながら、彼は携帯を取り出してメッセージを打ち始めた。
【清香、君の大好きな西洋料理店を予約したよ。家族三人で十周年記念のお祝いをしよう。】
レストランの住所も添えられていた。
彼は私がタイ料理が一番好きだということを知っていた。
以前、六回の家庭内暴力の後、彼はいつも私をこのタイ料理店に連れて行って謝罪していた。
飛行機に座りながら、七回目となるこのレストランの名前を見て、私は返信せず、隆の連絡先を削除してから電源を切った。
飛行機はゆっくりと離陸した。
その頃、レストランでは隆と愛子が昼から夜まで待ち続け、テーブルの上の料理は何度も温め直された。
しかし、私のための椅子はずっと空いたままだった。
隆は私に十数回電話をかけたが、常に電源が切られていた。
帰宅する時、彼は車のスピードを最大限に上げた。
しかし家に着いても、がらんとした居間に私の姿はなかった。
彼の心に突然、不吉な予感が湧き上がった。
そのとき、彼の目は私がテーブルに置いた書類に止まった。
彼は前に進み、下を向いて一目見た。
「これは...離婚協議書?」
隆の顔色が青ざめた。
そしてちょうどそのとき、愛子が外から裁判所の通知書を持って彼の前に駆け寄ってきた。
「大変だよパパ、ママが裁判所に200ページもの家庭内暴力の証拠を提出して、僕たちを訴えたんだ!」