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江崎市、午後、爽やかな風が吹く。
某高層マンションのベランダでかすかな輝きがちらつき、男は太陽の位置を見上げ、また腕時計の時間を確認すると、天体望遠鏡の遮光カバーを閉じた。
遠くの空の下、雲の下の都市は静寂に包まれ、空には山のように巨大な塊状の雲が動かずにそびえたっていた。
ピッピッと腕時計のアラーム音が鳴る。
午後17時、日没まであと一時間半。
男は鎖を引き上げると、もとは窓ガラスだった場所に特製の合金製シャッターが上がり、部屋の中の光が徐々に飲み込まれていった。
日光が合金の板の隙間から線状に差し込み、物資で埋め尽くされたリビングを照らし出した。
ブーンブーン〜
奇妙な音が聞こえ、男は手を止め、耳を澄ませた。
瞬時に表情が変わた。
彼は護身用の短刀を腰に差し、慎重に外に出てから階段を上って屋上へと向かった。
ヘリコプターが遠くから低空で飛来し、巨大な回転翼の音が次第に耳をつんざくほどになった。
バサバサ!
男はどこからか長い水道管を取り出し、その先端にはオレンジ色の布切れが結ばれていた。彼はそれをヘリコプターに向かって素早く振り始めた。
ヘリの中で、ヘッドフォンを着けた少女がそのオレンジ色に気づき、窓に向かって空中で指を滑らせた。
「織田さん?」
前の席のパイロットもその屋根の上のオレンジ色を見て、振り返って試しに尋ねた。
織田さんと呼ばれた男は背広姿の中年で、窓の外をちらりと見て、無表情に目を閉じた。「馬鹿げた話だ。誰がこんな貧乏人たちの命なんて気にするか!」
パイロットは黙った。
中年男は少女の視線に気づき、大声で言った。「どうした、同情心が湧いたか?」
「覚えておけ、奴らは我々とは違う。明日が世界の終わりだとしても、我々は最後に死ぬ側の人間だ。分かったか?!」
「ちっ」
少女は冷たい表情で窓の外を見つめ、中年男の言葉を明らかに軽蔑していた。
ヴーン〜
空の彼方で、ヘリコプターが轟音を立てて通り過ぎた。
遠くの屋根の上の男はこの光景を見て、長い棒を下ろし、遠くを見つめた。
「くそったれ、いいヘリだったのに、残念だな……」
……
ウーウーウー!
数分後、ヘリコプターの中で急に警報音が鳴り響いた。
「失速危険−失速危険」
「どうしたんだ!!」
「揚力が突然失われました。未知の気流に遭遇したかもしれません」若い副操縦士は表情を一変させ、慌てて飛行姿勢を維持しようとしていた。
突然の事態に全員が慌てふためいた。
「空中にいるんだぞ、真昼間に何か得体の知れないものに遭遇したというのか?」後部座席にいた、さっきまで冷静だった中年男が真っ先に叫んだ。
機長は機載レーダーを確認したが、何の異常も検出されなかった。その時、操縦室内の光が急に変わり、影に覆われたようだった。彼は何かに気づき、急いで頭上の空を見上げた。
その光景に彼の瞳孔は縮み、顔全体が真っ青になった。
頭上の巨大な雲の中に、奇妙な黒い影が漂い、天空を覆い尽くしていた!
雲がうねり、風が突然荒れ狂った!
ヘリコプターは巨大な吸引力に捕らえられ、制御不能のまま高度を上げていた。
「警告!警告!」
「まずい!機長!どうすれば!」
状況が分からない副操縦士は慌てて機長を見たが、相手はすでに何かに引き寄せられていた。彼も機長の視線を追った。
薄い雲が広がり、高度が上がるにつれて、操縦室の二人は雲の中の黒い影の正体をついに見た。
雲層内の黒い影は、巨大な人型の干からびた死体だった!
人型の干からびた死体は半空の雲の中に仰向けに浮かび、天空を覆い尽くし、雲から露出している胴体の部分だけでも、目視で少なくとも10キロメートル以上あった!
空に浮かぶ巨大な死体は微動だにせず、一見すると浮かぶ大陸のようで、全身が灰黒色で、山谷のような深い皺のある乾いた皮膚がはっきりと見えた。漆黒の空洞のような両目には生気がなく、奇妙な圧迫感とともに都市の上空に浮かんでいた。
「ああああ〜!」
この瞬間、制御不能のヘリコプターから悲鳴が上がった!
後部座席の少女の顔は真っ青で、瞳孔が徐々に暗闇に侵されていった。
暴風がヘリコプターの機体を引き裂き、数トンもある工業製品が今や空中の塵のようだった。
目に見えない吸引力が一瞬でそれを上へと飲み込み、すぐに雲の中に消えていった。
遠くの屋根の上で、小林彰人はこの光景を見て、表情を曇らせた。
ブーン〜
その時、水平線に不思議な光が走り、彰人は我に返って「くそっ」と呟いた。すぐに住居に戻った。
窓のシャッターを下ろし、廊下に消臭剤を散布し、鉄の扉を閉めた。
静かに夜の到来を待った。
ピッピッと音がした。
18時45分ちょうど、窓の外で二回目の不思議な光が走った。太陽が沈み、都市全体が闇に飲み込まれた。
暗黒に包まれた都市では、奇妙なささやき声が路地裏から響き、耳障りな叫び声が闇の中に反響していた。恐怖が迫り、異形のものたちが降臨した!
室内。
レコードプレーヤーがゆったりとしたジャズを流し、小林彰人はエプロンを着け、キッチンでゆっくりと豆の缶詰を開けていた。電気コンロの上では、トマトと牛すね肉のスープが香ばしい香りを漂わせていた。
まな板の上には、今日の屋上菜園からの恵みである瑞々しいパクチーがあった。このような日々では、緑色は心を和ませてくれる。
刻んだパクチーを鍋に振りかけ、包丁についた小さな破片さえも無駄にしなかった。
窓の外は絶望的で空虚な夜。床下からは何かが歩き回る音が聞こえ、真っ暗な廊下の奥では何か奇怪なものが息をしているようだった……