マリオットホーム。
今、母が住んでいる場所だ。
母が落ちぶれた時、一緒に行くことができなかった。
私の親権を争えなかったことに対する母の罪悪感を、直視することもできなかった。
この数年間、たまに会う以外は、まるで他人のように疎遠になっていた母と私。でも、迷いが生じて方向を見失った時、私が思い浮かべるのは彼女だけだった。
私を産み育ててくれた人。
まるでそれが私唯一の避難所であるかのように。
三時間にも及ぶ車での移動。
ようやくマリオットホームの入り口に着いた時、突然携帯が鳴り、画面に「夫」という文字が点滅していた。
しばらく見つめた後、電話に出た。
電話の向こうから高橋彰の声が聞こえてきた。少し沈黙があり、不機嫌そうにも聞こえた。
「俺の携帯を見たのか?」
「今どこにいるんだ?」
私は黙っていた。
彼は口調を変え、まるで手に負えない子供に対するような態度になった。
「恵、もう騒ぐのはやめてくれないか?美央は単なる普通の友達だよ。彼女と知り合った時、君たち二人の関係なんて全く知らなかったんだ。」
「むしろ彼女から積極的に教えてくれたんだ。」
「誰にでも若気の至りはある。彼女だって誰もが犯すような過ちを犯しただけだ。もうこれだけ年月が経ったんだから、姉妹なんだし、和解できないものかな?」
すでに悲しみに暮れていた私の心は、その瞬間、どん底まで落ちた。
突然、目が覚めたような気がした。
そして、衝動的に彼を手放す決断をしたことを、より一層感謝した。
私は静かに尋ねた。「つまり、あなたは知っていたのね?」
彼女が私に与えた傷を。
これまでの年月、私が耐えてきた苦しみを。
夜ごと彼の腕の中で身を寄せ、原家族の絶望について打ち明けていたことを。
私が何度も自分を否定し、自分を傷つけ、迷い続けていたことを。
彰は黙り込んだ。
沈黙は時に最良の答えとなる。
そう、彼は知っていたのだ。
それが私にとっての最良の答えでもあった。
私は電話を切り、携帯の電源を切った。
マリオットホームに入り、一度も使ったことのないエレベーターカードを使って、母の部屋の前に立ち、母の家のドアをノックした。
部屋着姿の穏やかで上品な女性を見た瞬間、私の涙はついに抑えきれずに溢れ出した。
母は慌てた。
彼女は必死に私を慰め、細心の注意を払って私の感情を落ち着かせようとした。
私は手を伸ばして彼女を抱きしめ、泣き声で訴えた。
「お母さん。」
「辛いよ。」
「会いたかった。」
私は思う。
この先の人生で、原家族と和解することは決してないだろう。
そして、彰と一緒に歩み続けることも絶対にないだろう。