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14.08% Mに捧げる異世界鎮魂歌 / Chapter 10: 第十話 サンリエッタ

Kapitel 10: 第十話 サンリエッタ

 私の名前は『サンリエッタ』生まれた国では可憐な野花という意味を持つ。笑顔をふりまき、周囲の人々を明るくするのを見て両親が付けた名前だ。誰にも話しはないが幼い私が微笑みかければ大抵の大人は好意的に接してくれた。

 しかし、巡り巡って私の今の名前は『三太』。異国の地では男につける名前だという。

 

 文字はさん、3、三、の数え文字にふといと書くらしい。私はどちらかと言えば華奢な体格である。ローブのサイズに悩んだこともある。冒険者を目指すと決めた時も自分の体力の無さから魔術師を目指したという経緯があるくらい肉がない。

 それなのに『三太』私の一体何が太いというのだろうか?

 

 傍若無人な崇徳童子は私達と出会って以降、本名を名乗ることを許していない。一度、丈二が元の名前で返事をした際に激しい電撃を浴び、痙攣した姿を見たことがある。

 

 風が吹くだけで痺れが駆け巡る痛みは形容しがたい苦しみを伴う。しかも、その後の――いや、思い出すだけで気分が悪くなる止めよう。

 

 そういえば私は他の三人と違い薬物に溺れているわけではない。確かにコランダパーティーに入ってから薬物に手を染めている。しかし、国の許可が出ている粉末、アンダークラウンに違法性はない。依存性も酒と対して変わらず、白い眼を向けられることも多いが、別に人間を止めているわけでは無い。

 

 私がアンダークラウンに手を染める最大の理由は病気の鎮痛作用が高いのが原因だ。

 

 産まれて間もなく肺を患った。酷い咳に悩まされ、完治するまでには二年という年月を必要とした。両親の手厚い看病のお陰で病は治ったのだが、その後の後遺症には悩まされた。

 寒暖差、風、花粉、魔物の残り香。全てが私の咳を助長し、そのたびに酷い痛みを引き起こした。その痛みを軽減してくれるのがアンダークラウンだ。町医者に一度処方され、それ以降手放すことができない。

 

 しかし、崇徳童子のせいで私もアンダークラウンはお預けである。金銭的に難しいという面もあるが崇徳童子がアンダークラウンを気に入らないようだ。

「ふぅ」

 

 アンダークラウンの禁断症状もつらいが、後遺症による肺を刺すような痛みが何よりも辛い。

 このような状態で魔物討伐に参加とは……崇徳童子の寝床を襲うと決めた時の私をひっぱたいてやりたい。

 崇徳童子が不機嫌そうに私に視線を送ってくる。あの目はヤバい、早く駆け付けなくては。私は無駄に長い長考を止め、駆け足で崇徳童子の下へと走った。

 

 ※※※

 

 朝だというのにその建物からは騒がしい声が飛び交っていた。コランダが崇徳童子――オーガルトと三太に目配せすると木造の扉が開かれる。

 

「ああん!? 喧嘩売ってるのか?」

「うるせぇぞ、外でやれ、外で!」

「ここで騒ぐんじゃねぇぇぇ! 静かにしろ!」

 

 そこら中から飛び交う罵声で室内は混沌としている。建物の壁には大きなボードがあり、そこかしこに依頼が書かれた羊皮紙が並ぶ。秩序なく無造作に張られているように見えるがコランダ曰く規則性がある貼られ方らしい。

 

 部屋の中心には幾つかの机と椅子が置かれ、交渉が行われているよに見えるが、その机の隣では胸ぐらを掴み、怒鳴り合う姿が見られ、中には酒を飲んでいる者もいる。

 

「騒がしいな……」

 

 不機嫌な声をオーガルトが上げると三太が崇徳童子の耳元に近寄る。

 

「お願いですから、ここでは暴れるのは止めて下さい」

 

「分かっている。しかし、喧嘩を売ってくる者がいれば消し炭にならない保証はない」

 

 三太が表情を青くするのと同時に黄色と黒の縞模様の|フルプレートアーマー《鎧武者》が注目を集め始めていた。三太の背中にヒヤリとするものが流れると、同じ思いに駆られたコランダが受付に座る赤髪の女に声をかける。

 

「新規の登録を一人、パーティは三人だ。急ぎで依頼を確認させて欲しい」

 

「あら、コランダさん久しぶりね。死んだんじゃないかって噂が立っているわよ。それに三人? 本当に残りの二人は死んじゃったの?」

 

「一平、丈二は死んではいない。今は別行動をしているだけだ。それより登録と手続きをしたい」

 

 ギルド会館では異様なフルプレートアーマーに全注目が集まっている。いずれ奇異の眼差しが笑い声に変わるであろう。オーガルトの鎧武者にちょっかいを出した者が建物ごと火だるまになる姿が脳裏をよぎる。

 

「一平? 丈二? そんな名前だったかしら? ……まぁいいわ。これが登録書よ。書き方は分かるわね」

 

 コランダは渡された紙と筆を取ると予め決めていた崇徳童子もとい、オーガルトの氏名、出身地、年齢を書き込もうとしてその腕を止める。


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