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5.71% Mに捧げる異世界鎮魂歌 / Chapter 4: 第四話 崇徳童子

Kapitel 4: 第四話 崇徳童子

 青年はコランダ達などまるで視界に入っていないようだ。不機嫌そうな声を上げながら涼し気な目元で回りの様子を確認している。

 

「なっ? 繭の中から現れたのは人間だと?」

 

 繭が血を流しながら現れたのは得体のしれない化物……と思いきや、現れたのは見目麗しい妖しい青年であった。口が裂け、炎を吐きながら人間を喰らうような怪物を想像していたコランダはとりあえず安堵の息を吐く。

 

「俺たちは冒険者をしている者だ。き、君を保護しに来た!」

 

 さすがに攫いに来たとは言えない。異常なシュチュエーションでの出会いではあるが、見た目は普通の青年だ。極力刺激しないよう接触を図る。

 

「保護? 俺を? 何故?」

 

 眉間に皺を寄せながら自分が這い出てきた繭へと腰を掛ける。明らかにコランダ達を怪しんでいるようだ。

 

「な、何故って? 君は人間だろ? 人を守るのが俺たち冒険者の仕事だ」

 

「人間? 俺が?」

 

 眉間に寄せた皺を更に深くして青年は首を項垂れる。コランダは青年が機嫌を損ねたのではないかと不安になり、みるみるうちに表情の血の気が引いてゆいった。やがてコランドの表情が真っ青に染まるころに青年が勢いよく顔を上げる。

 

「ハッハッハッ! 俺が人間? そんな訳はないだろう。俺は妖怪、崇徳童子《すとくどうじ》だ!」

 

「すとく? ようかい?」

 

 コランダが間抜けな声を上げると後方のフードを被った一人が業を煮やし崇徳童子に向かい奇声をあげる。

 

「あぁぁぁぁぁぁ! 妖怪? 崇徳童子? そんなことはどうでもいい! 俺たちが聞きたいのはただ一つ! 俺たちに付いてくるのか? こないのかどっちなんだ!?」

 

 フードの冒険者の男の目は血走っており、溢れん出さんばかりの汗にまみれている。どうやら使用していた薬物の影響で興奮しているようだ。崇徳童子はそんな男に憐みの視線を送ると乱れた髪の毛を右手で直す。

 

「聞いているのか!? 髪の毛なんていじってんじゃねえ!」

 

 その瞬間、辺り一帯を光が駆け抜ける。木の根をなぞるように駆け抜けた光はその場に立つ四人の全身を駆け抜け、強い衝撃を受けた四人は立ったまま全身を痙攣させる。

 

「お前たち……鬼次郎おにじろうさんを……侮辱するのか? この完璧な鬼次郎さんカットを見てそのような戯言が許されるのか?」

 

 回りを再び雷が駆け抜ける。崇徳童子は繭からおもむろに降り立ち、片手を繭に掛ける。

 

「うぉぉぉぉ!」

 

 崇徳童子の雄たけびに合わせ繭がメキメキと音を立て歪んでゆく。やがて限界を迎えた繭はピアノ線が弾けるような甲高い音を立て崇徳童子によって引きちぎられる。

 

「――!?」

 

 身体の自由の利かないコランダが声にならない声をあげる。

 

 遺物を使い、四人がかりの魔力を費やし、更には十分な時間をかけて練り上げた一撃で、ほんの僅かな切れ目を入れることしかできなかった。その異常な硬度といえる繭を素手でこの青年は片手で引きちぎったのだ。

 

「俺はよぉ――」

 

 左手には引きちぎった繭、右手には溢れる電撃。両手を合わせ繭に電撃を纏わせると繭は力ない液体となり、その手に絡まりつく。

 

 輝く液体となった繭をゆっくりとその胸に当てると繭はみるみるうちに崇徳童子の裸体にまとわりつき、やがて上半身を黒と白のボーダーラインに変え、下半身には濃紺の七分丈のパンツを出現させる。

 

「鬼次郎さんを馬鹿にするやつは心の底から許せねぇんだ。でもよぉぉ。後ろの糞野郎は言ったよな鬼次郎さんは糞だって」

 

 予想を超える事態についていけないコランダ達、しかし、この事態が非常に良くないと状況だと判断した。鬼次郎というものがどのような者かは分からないがこの場を収めるために崇徳童子に頭を下げるしかない。

 

「い……や、俺たちは決して髪型を馬鹿にし……」

 

 痺れに耐え、何とか口を開く。視線を合わせ誠心誠意謝ろうと試みるが体の激しい痺れのため、視線を合わせることできずに崇徳童子の胸の辺りに視線が向いてしまう。

 

「そうか、そうか。俺が精魂込めて作ったこのボーダーのシャツがダサイって言いたいんだな!? 鬼次郎さんと同じボーダーがダサイと!」

 

「ち、違――」

 

「死に値する!」


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