古川志穂が葉山楓を支えて警察署から出てきた時、ちょうど山口拓也とばったり出くわした。
山口は冷ややかに嘲笑うように言った。「うちの小林社長はもうこの件を追及するつもりはないが、あなたの家の女ゴロツキをちゃんと管理してもらいたいものだ。うちの社長はどんな変な奴にも興味を持つような人間じゃない。いきなり体を触ってきて、うちの社長と子供を作ろうだなんて、頭がおかしいとしか思えない」
志穂は足を止め、振り返った。
「誰が頭おかしいって?」
山口は言った。「あっちこっちで男を探して子供を作ろうとする奴が頭おかしいんだよ!」
志穂は楓をその場に置いて、山口と言い争おうとした。
しかし楓の視線は、少し離れた高級車に注がれていた。
小林健斗が窓を下げ、ちょうどこちらを見ていた。
二人が遠くから見つめ合い、楓はまた吐き気を感じた。
車内では、一緒に来た友人兼弁護士の井上聡が思わず笑いながら言った。「四兄さん、未熟な提案があるんですが」
健斗は振り向きもせずに言った。「成熟してから提案してくれ」
聡は「……」
しかし、聡は長く我慢できず、やはり言ってしまった。「あの女性があんな見た目なのに、自分から口説いてきたのに、なぜ断るんですか?私なら絶対受け入れますよ…これが広まったら、あなたが不能だとか言われますよ」
健斗が振り向いた時になってようやく、聡は口を閉ざした。
一方、志穂と山口は口論が始まっていた。
志穂は挑発的に言った。「あんたの社長は三本足のカエルなの?それとも八つ目のアヒル?目を開けてよく見なさいよ。私の友達はこんなに美しいのよ。彼女が誰かに声をかける必要あるの?人に泥を塗るのはやめなさい。私たちが女ゴロツキだって?あなたたちの社長こそゴロツキじゃない?損しているのは私たちの方でしょ?」
「山口、行くぞ」
健斗の低い声が二人の口論を中断させた。
志穂が振り返ったとき、彼女は呆然としていた。
彼女の視線は健斗には向けられておらず、彼を越えて車内のもう一人の男性を見ていた。
聡はふと目をやって、顔色が変わった。
彼は「くそっ」と口にし、急いで手で顔を隠し、健斗に言った。「四兄さん、早く行きましょう、敵に会っちまった」
ちょうどそのとき、山口も助手席のドアを開けて車に乗り込んだ。