君山別荘。
唐沢雅子も伊藤昭彦も不在だった。
テレビからは様々な音が流れている。小島莉央はソファに座り、熱心にチャンネルを操作していた。
丁度お昼時。彼女は、昼間の時間帯にニュースの再放送があるのを覚えていた。
彼女は微かに眉をひそめ、一つひとつチャンネルを探していった。しばらくして、ようやく目当ての番組を見つけると、ぱっと目を輝かせ、リモコンを置いた。
こっそりとキッチンの方を振り返り見て、莉央はまたテレビの音量を少し下げた。
昼のニュースで放送されていたのは、昨夜のニュースの再放送。中で流れていたのは、伊藤グループが入札で落札した後の一件に関するニュースだった。伊藤律も映っており、一群の元々聡明で風格ある中年男性たちと並んで立つ中で、律は疑いなく最も注目の存在だった。
実際、誰と並んで立とうとも、完璧な気品と程よい身長は、人々の視線の焦点を自然と彼に集めさせた。
律はカメラの前に登場していたが、終始、とりつくろった様子は微塵もなかった。
莉央は見ているうちに、いつの間にか目尻がほころんでいった。
現場には多くの記者が詰めかけている。
記者の質問は辛辣だった。「伊藤様、外部では今回の落札のために、伊藤グループが何らかの不正な手段を用いて相手を押さえ込んだとの噂もありますが、これについて伊藤グループとしてはどのようにお考えですか?」
記者は若い女性で、冷徹な表情の律を前に、質問する際にも臉上に不安の色を浮かべていた。
律は記者を一瞥し、口を開いた。声に起伏はなかったが、理由もなく冒しがたい威厳を感じさせた。
「伊藤グループに実力は十二分にある。仮に相手を圧倒するにしても、何らの手段も必要としない。伊藤の名がそれ自体で十分だからだ。」
平静な口調で放たれた、傲慢とも取れる言葉。
分明にして信じがたいように思われるのに、偏偏として伊藤律の口から出たばかりに、かえって当然のことのように思わせる。
経験不足の記者はこの答えに驚いたようだった。しかし律はもう会釈をすると、闊歩してその場を離れた。カメラはなおも彼の後ろ姿を追い続ける。
莉央はテレビの前で立ち尽くし、桜色の唇を微かに開けたまま、ぼんやりとテレビの光景を見つめていた。
そして、彼女の瞳には次第に輝きが宿っていった。
ぱっと微笑んだ。
これが律お兄ちゃんなんだ。なんて誇り高く、優れた人なんだろう。
彼女は、この世で彼より素晴らしい人はもういないと思った。
誇りこそが、律お兄ちゃんにふさわしい彩りなのだ。
彼女がまだぼんやりとニュースを見つめていると、中島さんが台所から出てきた。「莉央ちゃん、さあ、食事しよう」
莉央は中島さんの突然の声に驚き、理由もなく胸が慌てふためき、あわててリモコンを押してチャンネルを変えた。
中島さんはお皿を食卓に置きながら笑った。「何のドラマを見てたの?何度呼んでも返事がなかったよ?」
莉央は手を背後に組み、手のひらをこすった。
どうして汗ばんでるんだろう、もう、なんで理由もなくやましい気分になるんだろう。
「わ、わたし、ニュースを見てて、聞こえなくて。」
中島さんは珍しそうに、「あなたたちの年頃の女の子って、可愛い男の子や女の子が出てるアイドルドラマの方が好きなんじゃないの?どうしてニュースなんか見てるの?」
莉央は明らかにやましい樣子で、何か秘密を隠していてバレるのを恐れているかのように、歯を見せて笑った。「ただ何となく見てただけ。中島さん、今日は何を作ったの?すごくいい匂い!」
中島さんもただそう言っただけで、気にはせず、すぐににっこり笑って莉央に今日の昼ごはんの話を始めた。
食後、中島さんは彼女が実に退屈そうにしているのを見て、言った。「もうすぐごおじい様がお戻りになります。彼はお庭にたくさん草花を育てていらっしゃるのよ。もし退屈なら、見に行ってみたら?」
莉央はぱっと目を輝かせた。「いいんですか?」
中島さんは彼女の表情を見て、彼女がこういうものが好きだと悟り、笑って言った。「何が悪いの?今日、園芸担当の佐藤君が草花を外に出すから、もし好きなら一緒について行きなさい。」
元々は彼女に泥や草いじりをさせたくなかったが、莉央が好きそうなのを見て、中島さんは彼女の意向に任せることにした。
莉央はとっくに裏庭の存在に気づいており、たくさんの草花が育てられているのを新奇に思っていた。ただ、以前は伊藤家に来たばかりで、その庭の花は専門の方が手入れしているようだったので、言い出しづらかった。しかし、この時間、伊藤家の人々と打ち解けるにつれ、多くの遠慮はどんどん少なくなっていった。今、中島さんが自ら話してくれたのを聞き、もちろん嬉しくてたまらなかった。
莉央の目は笑みで三日月形になった。「後で佐藤さんと一緒に見に行きます!」