「今日は北村若様にご迷惑をおかけしました。時間も遅いので今日はこれで失礼します。明日の朝、改めてお詫びに伺います」
池田翔は帰ったら小狐を片付けようと決めた。
明日は必ず大物に白くてきれいな本田美来を見せるつもりだ。
北村一鶴は彼女の真剣な様子を見つめながら、相変わらず表情に乏しく、ただ軽く頷いただけで、そばにいる執事に指示した。
「鈴木お嬢さんをお送りしなさい」
執事は頷き、丁寧に翔を玄関まで案内した。同じマンション内とはいえ、心遣いから警備の巡回車を出して彼女と小狐を鈴木家の玄関まで送り届けた。
知らせを聞いて出てきた執事は翔を見て少し呆気にとられた。
お嬢様がいつ外出したのか全く気づかなかった!
しかもお嬢様が抱えているのは、狐のようだが?
「お嬢様、これは……」
佐藤家の警備員を見送った後、執事は翔と彼女の腕の中の小さな生き物を見て、どちらについて先に尋ねるべきか迷った。
また翔が薄着であることに気づき、急いで彼女を中に招き入れた。
ドアを入るとすぐに、鈴木準が階段の前に立っているのが見えた。明らかに彼女を待っていたようだ。
そして二階の階段の角には、鈴木汐が頭を覗かせ、まるで面白いものでも見るかのような様子だった。
翔が入るとすぐに、彼は彼女の腕の中のものを見て、すぐに声を抑えて彼女を指さしながら詰問した。
「お、お前の腕の中にあるのは何だ?うちは毛のあるペットの持ち込み禁止だぞ!」
翔はこの常に存在感を示す少年をちらりと見て、真面目な顔で反問した。
「持ち込み禁止なら、あなたはどうしてここにいるの?」
汐は表情を固め、純粋な愚かさを見せ、傍らの準はすでにプッと笑い出していた。
汐はようやく反応し、顔を赤らめて怒り出そうとした。
「お前!……」
「こんな遅い時間だから、おじいさまたちはもう寝ているでしょうね」翔の軽やかな一言で、汐の爆発寸前の火山は瞬時に消えた。
彼は無謀ではあるが、いつ無謀でいいか、いつ無謀であってはいけないかをよく知っていた。
夜間は騒がないこと、これは鈴木家のルールだった。
ましておじいさまは年齢が高く早く寝るし、お年寄りが突然起こされるのは体に良くない。
汐は今、翔に言い返せずに腹が立っても、腹の中の怒りを抑えて、不機嫌そうに振り返り、そっと二階へ上がっていった。
翔は汐が去るのを見届けてから、準の方を向いたが、先ほど汐に対する態度とは違っていた。
彼女は小狐を抱きながら、唇を噛み、言った。
「これは私のペットの狐です。私が引っ越したことを知って、私を探しに来たんです」
そう言って少し間を置き、また続けた。
「外で部屋を借りてあるので、今夜だけここにいて、明日の朝には送り出します」
言外に、家に迷惑はかけないという意味だった。
準は彼女の言葉を聞きながら、心の奥がちくりと痛んだ。
この小狐は明らかに彼女が以前から飼っていたものだが、ずっと外で飼っていたということは、池田家が許さなかったからに違いない。
今やっと自分の家に戻ったのに、彼女は自分のそばで飼うことさえ考えていなかった。
あの小心翼々とした様子に、準は心が痛むばかりで、その痛みの中には池田家への強い憤りもあった。
彼の鈴木家のお嬢様、彼の実の妹……本来なら幼い頃から甘やかされ、欲しいものは何でも手に入れられるはずだったのに、今では池田家によって苦しめられ、自宅でペットを飼うことさえ言い出せないなんて!
池田家への様々な感情を抑えて、準は前に進み、端正な顔に優雅な微笑みを浮かべ、穏やかで確かな声で言った。
「ここはあなたの家だよ。自分の家で、何を飼いたくても構わない」
翔は明らかに少し驚いた様子だった。
「でも汐くんが、毛のあるものは入れちゃダメって……」
「あなたも言ったでしょう、彼が入れるなら、あなたの狐が入れないわけがないでしょう?」
準は眉を上げて笑いながら、翔が先ほど汐に言い返した言葉で彼女に応え、同時に手を上げて小狐の頭を軽く撫で、その動作は優雅で親密だった。
翔がまだぼんやりと彼を見ているのを見て、準は彼女に軽く微笑み、桃の花のような目に輝きと確信を満たして言った。
「安心して、お兄さんがいるから」
一言で、翔の心は暖かい流れに撫でられたかのように、あの馴染みのある微妙な感覚が再び押し寄せてきた。
翔は口を開きかけ、無意識にありがとうと言おうとした。
そして彼が言ったことを思い出した。【お兄さんには、ありがとうなんて言わなくていいんだよ】
そのため、そのお礼の言葉を飲み込み、代わりに彼に向かって素直に頷いた。「はい」
小狐を抱いて階段を上がり、部屋のドアを閉めた時、翔はふと自分の口元に浅い笑みが浮かんでいることに気づいた。
下を向くと、腕の中の小狐が彼女をじっと見つめ、目には好奇心いっぱいの様子が見えた。
翔はすぐに口元の笑みを引き締め、顔を引き締めて尋ねた。
「あっちでおとなしくしていると約束したじゃない?今夜はもう少しで焦げた狐になるところだったの、わかってる?」
小狐は彼女の言葉が理解できるようで、地面に飛び降り、とても無邪気に一回転し、また彼女に自分の背中のバックパックを示した。
その小さな様子は、まるで「あなたが引っ越したから、私も来たの、問題ないでしょ」と言っているようだった。
翔は軽く鼻を鳴らし、しゃがみ込んで、ようやく背中の小さなバックパックを解き、中身を見て再び微笑んだ。
バックパックの中には美来自身の缶詰の他に、彼女の朱砂黄符の紙といくつかの専用の小道具が入っていた。
以前の事故で彼女は病院で三日間過ごし、誰かに頼んで世話をしてもらったが、小狐は明らかに彼女が「在庫」を持っていないことを心配していた。
翔は褒美のように小狐の毛むくじゃらの頭を撫で、それから物を片付けた。
師匠について術法を学び始めてから、彼女は外に小さな部屋を借りていた。池田家の人に自分がこういったことを学んでいることを知られたくなかったのと、自分の物を置くためでもあった。
だから以前、白井淑子が彼女を家から追い出した時、彼女は荷物を一つも持っていかなかった。
なぜなら、大切なものは全て池田家にはなかったからだ。
元々彼女はこちらが落ち着いたら小狐を見に行くつもりだったが、まさか小狐が自分でぴょこぴょこと追いかけてくるとは思わなかった。
うん、間違った場所に追いかけてきたけど。
時間はすでに少し遅かったが、翔は小狐を部屋に付属のバスルームに連れて行き、頭からつま先まで綺麗に洗い直し、それから抱いてベッドに戻り、再び眠りについた。
おそらくこの夜は遅くまで騒いだせいだろう。
翔は翌日少し遅く目覚め、目の前の夢のようなプリンセス風の寝室を見てまだ少しぼんやりとしていた。しばらくしてようやく反応した。
ここは彼女の新しい部屋だ。
このピンクでかわいらしい寝室に慣れようとしていると、突然、下階から驚きの叫び声が聞こえてきた。
「あっ!狐がいる!!……執事さん、早く来て!」
その後、別の驚きの声も。「どこから来た野生の狐?!……早く!捕まえて!」
翔はほぼ瞬時に目が覚め、ベッドから飛び起きて、部屋を見回したが、部屋は空っぽで、また下階から次々と悲鳴が聞こえ、顔色が変わった。
本田美来!!!