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「ねえ、本当に飛ぶの?飛ばないならうちら帰るけど」
「はっ、大塚みたいな臆病者が、この5階から飛び降りるなんてできるわけないわ。それができたら、この清水麻衣(しみず まい)は、いくらでも償ってあげるから」
「あんな奴は死んだ方がマシよ。いつも顔を隠して、わけわからないこと言ってるくせに、大勢の前でうちの学校一のイケメンに告白するなんて。振られて当然よ」
……
大鳥翼(おおとり つばさ)は目を見開いた。その瞳に鋭い光が走る。
彼女の前で、このような無礼を働くとは!
彼女が周りの騒ぎを鎮めようとした時、自分がすでに死んでいたことを思い出した。しかも、犯人は実の妹だった。
同時に、周囲の環境も、近くの三人の服装も、非常に奇妙だと気づいた。
詩織は素早く辺りを見回し、ここが自分の知っている世界ではないことを悟った。
しかも今、彼女は奇妙な建物(彼女にとってはどの建物も奇妙だが)の屋上の縁に跨って座っている。
一方は十数メートルさきの地面、もう一方は見物している三人の女子。
大量の見慣れない事象が頭に押し寄せてきた。
翼はようやく理解した。自分は異世界に来て、大塚詩織(おおづか しおり)という体に転生したのだと。
この体の元の持ち主は、自己卑下な人で、ばかげた告白に失敗しただけで屋上から飛び降りようとした高校三年生の女子だった。
詩織はまだ少し硬直している体を動かしたとき、バランスを崩して手すりから落ちそうになった。
「きゃっ……」
三人の女子は詩織の動きに驚いて悲鳴を上げた。
「うるさいわね!」
詩織は体を安定させると低い声で叱りつけ、三人はすぐに口を閉じた。
彼女たちは呆然と詩織を見つめ、何か違うと感じた。
詩織は死の淵から蘇った高揚感を抑え、手すりから降りると、先ほどの威厳に圧倒された三人を無視して立ち去ろうとした。
数歩歩いたところで、元の持ち主のカバンがまだ地面に置いてあることを思い出した。三人の女子が思わず後ずさる中、カバンを拾い上げ、無表情で階段の方向へ歩き出した。
「ねえ!臆病者!飛び降りるんじゃなかったの?なんで飛ばないの!」
後ろから残念そうな声が聞こえた。詩織は足を止め、三人の方へ引き返した。
三人が詩織を取り囲み、そのうちの一人がしゃべり続けた。
「あなたと大塚美咲は同じ母親から生まれたのに、美咲は学校有名な美人で、あなたはただの笑い者。私だったら、とっくに自殺してるわ」
「そうよね」
「ふん!」
詩織は冷笑し、素早く手を動かした。
次の瞬間、三人の顔色が変わった。
「きゃあ!!!大塚、何したの?う、動けない!」
「うっうっ……大塚、この、化け物が……」
「たすけてー!」
詩織は三人の恐怖に満ちた叫び声を聞きながら階段へ向かい、冷淡な声で注意した。
「この大司……この私は今日は機嫌がいいから、一晩中ここで反省させてやるだけですんだわ。次に私の悪口を言ったら、舌を切り落としてやるから」
そう言って階段を降り始めた。
もう放課後の時間はとうに過ぎていた。元の持ち主は誰にも知られないように屋上に来て飛び降りようとしていたのだ。この三人が偶然見つけて付いてこなかったら、誰も彼女のことに気づくことはなかっただろう。
彼女は元の持ち主の記憶をたどりながら校門へと向かった。
何もかも彼女にとって馴染みのないものだ。
だが、神様が彼女に二度目の人生を与えた以上、ちゃんと生きていかないと。
校門を出ると、詩織は足を止めた。
すでに夕暮れ時で、学校の外の通りにはほとんど人も車もなくなった。
それでも、鉄の箱が自分の前を疾走していくのを見て、詩織の目には驚きと興味が浮かんだ。
この世界には千里を走る良馬にも劣らない鉄の箱があるとは……確かに、自動車だっけ?
彼女は元の持ち主も毎日、姉と一緒にこの自動車と呼ばれる鉄の箱に乗って帰ることを思い出した。
辺りを見回すと、案の定、双子の姉の美咲は彼女を待たずに、迎えの運転手と車で帰ってしまったようだ。
詩織は眉をひそめた。記憶によれば、こういうことは何度も起きたはずだ。元の持ち主が遅れると、人がぎゅうぎゅう詰めになる「バス」という、もっと大きな鉄の箱に乗らなければならなかった。
その時、かっこよさそうなバイクが排気ガスを吐き出しながら、彼女の傍らを轟音を立てて通り過ぎた。
そしてすぐに戻ってきた。
バイクに乗っていた男子は、まだやや少年じみた端正な顔立ちで、健康的な小麦色の肌をしている。今、彼は片足を地面につけ、唇を固く閉じ、詩織を見ようともせず、近寄らない雰囲気に包まれ、別の方向を見ていた。
詩織は冷たい目つきで、目の前の奇妙な乗り物と彼女を無視する人物を見つめた。
その時、男子の後ろに座っている、化粧をした綺麗な女子が突然顔を出し、得意げに彼女を嘲笑した。
「あら!今日の午後、大勢の前で浩介に告白したブスじゃない?どうしたの?告白が断られたのに、まだ帰らないなんて、もう一度浩介に告白するつもり?」
詩織は冷たい視線で目の前で威張り散らしている女子を一瞥し、彼女が元の持ち主のクラスの花形、吉田美穂(よしだ みほ)だと気づいた。
もう一人は元の持ち主が飛び降りようとした片思いの相手——学校一のイケメン、山本勇助(やまもと ゆうすけ)だった。
吉田はわざと甘ったるい声で山本に話しかけた。
「ね、勇助、この子はあれだけの人の前で告白したのよ。本当にびくともしなかったの?」
山本はようやく施しをするように詩織に一瞬目を配ったが、すぐに視線を戻した。まるで彼女を見ることが目を汚すかのようだった。
そして嘲笑するように言った。
「貧相な体をしたブスには興味ないからね」
吉田は頬を赤らめ、小さな拳で山本の背中を軽く叩き、口元に笑みを浮かべながら、さらに甘えた声で聞いた。
「もう、意地悪!それって、私のスタイルがいいってこと?」
山本は相変わらず偉そうな様子で答えた。
「お前みたいなのがタイプなんだよ」
「えへへ!」
詩織は思わず吉田に視線を向け、頭の中では薬の組み合わせを考えた。どんな毒なら、この二人を人前に出られなくできるだろう。
そして思わず眉をしかめた。彼女は七歳の時から、こんなつまらない仕返し方に厭きた。
山本と吉田は彼女の前で威張り散らし、冷やかし終えると、バイクで走り去った。
詩織は視線を戻し、異世界に来た違和感を押し殺そうとしながら、斜め向かいに大きな薬局があるのを見つけ、そちらへ歩いていった。
薬局は学校の近くにあり、美意識の高い女子たちのためにわざわざ大きな鏡を設置しておいた。
詩織は鏡の前に立ち止まった。
鏡に映る女子は非常に整った顔立ちで、小さな卵形の顔に大きな目、そして小さな唇は魅力的に見えた。
ただ顔色が少し青白く、体つきは少し栄養不良気味で、さらに厚い前髪が顔の大半を隠しただけ。
詩織は額の前髪をかき上げ、七、八センチほどのムカデのような醜い傷跡を見つけた。
記憶によれば、この傷跡は元の持ち主が幼い頃、姉の美咲にやられたものだった。その時、美咲に逆に責任転嫁され、元の持ち主は適切な治療も受けられず、あげくには激しく叱られたのだ。
詩織は目を沈ませて前髪を下ろすと、すぐに鏡に映る店員の、まるで怪物を見るような視線と目が合った。
店員は彼女の視線に気づくと、無愛想に尋ねた。
「お嬢さん、どんな薬がいい?傷跡除去薬なら20000円一箱で、一コース購入すると2割引になりますよ」
詩織は店員の質問を無視し、レジの後ろの漢方薬棚を指さして、最初はそこにある薬を全部欲しいと言おうとした。
でもこの体の持ち主にはそれほどのお金がないことを思い出し、いくつかの漢方薬の材料を指定しただけだった。
心の中で「お金を稼いだ方がいいかも?」と考えながら。
お金のことを考えたとたん、客人が自ら現れた。
詩織が薬局を出たところで、双子の姉、美咲から電話がかかってきた。
詩織は「携帯電話」と呼ばれる物体をしばらく見つめ、画面に「姉」と表示されている文字を見て、口元に笑みを浮かべた。
今はまだこの体に慣れ切っていないが、格闘術も知らない学生数人くらいの相手なら、簡単に対処できるだろう。
元の持ち主の記憶をたどって電話に出ると、すぐに美咲の命令口調の声が聞こえた。
「詩織、私たち今、金地娯楽館のディスコで遊んでるの。1022号室にいるけど、すぐに来なさい」
言い終わるとすぐに電話は切れた。