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8.33% 捨てられた妻の宝石人生 / Chapter 2: 第2話:決別の朝

Capítulo 2: 第2話:決別の朝

第2話:決別の朝

[神凪刹那の視点]

翌朝、私は鏡の前に立っていた。

やつれた顔が映っている。頬はこけ、目の下には深いクマ。でも、これでいい。墓参りにはふさわしい顔だ。

黒いワンピースに袖を通し、髪をきつく結い上げる。右手の欠けた指を隠すように、黒い手袋をはめた。

リビングに向かうと、怜士がテーブルでみそ汁を飲んでいる。冬弥は新聞を読みながら、無言で朝食を摂っていた。

「おはよう」

私の挨拶に、誰も返事をしない。

怜士が私を見上げた瞬間、わざとらしく椀を傾けた。みそ汁が飛び散り、私のワンピースの胸元を汚す。

「あ」

怜士が口元に薄い笑みを浮かべた。

昔は違った。怜士は素直で、私の膝の上で絵本を読んでもらうのが好きな子だった。いつから、こんな風になってしまったのだろう。

私は怜士の腕を掴んだ。

「謝りなさい」

声が、自分でも驚くほど冷たかった。

「やだよ」

怜士が腕を振りほどこうとする。でも、私は離さない。

「謝りなさい」

「クソババア、火あぶりにされてたんだぞ!」

怜士の暴言が、リビングに響いた。

私の手が動いた。

パシン。

乾いた音が響く。怜士の頬が赤く腫れ上がった。

「刹那!」

冬弥が新聞を放り投げ、駆け寄ってくる。怜士を私から引き離し、庇うように抱きしめた。

「何してるんだ!」

「私は彼の母親よ。しつけて何が悪いの?」

私は冷静だった。驚くほど、冷静だった。

「お前、頭おかしいんじゃないのか」

冬弥が怜士の頬を撫でながら、私を睨みつける。

「心配しなくていいわ」

私は振り返り、玄関に向かった。

「もうすぐ私も、関わらなくなるから」

----

冬弥は刹那の言葉に困惑していた。

「関わらなくなる」とは、どういう意味なのか。昨夜から、妻の様子がおかしい。いつもなら、怜士に手を上げることなど絶対にしない女だった。

「パパ、ママが怖い」

怜士が震え声で呟く。

「大丈夫だ。ママは疲れてるんだ」

でも、冬弥にも確信はなかった。

----

[神凪刹那の視点]

車の後部座席で、私は沈黙を貫いていた。

冬弥が運転席で時々バックミラーを見ている。私の様子を窺っているのだろう。

「本気で怒ってるのか?」

返事をしない。

「刹那」

「何?」

「これ」

冬弥が助手席から小さな箱を取り、後ろに投げてよこした。

「結婚記念日のプレゼントだ」

私は箱を見つめた。

「頭おかしいんじゃないの?」

「謝れってことなんだろ?だったら今、謝った。それ以上、何が欲しいんだよ?」

冬弥の声に苛立ちが混じる。

「六年よ」

「何が?」

「結婚して、六年」

私は箱を開けた。中には小さなダイヤの指輪が入っている。

IX社の廃盤モデル。

私は知っている。この指輪のことを。

美夜が持っているのは、世界に一つだけの特注品。冬弥が彼女のために作らせた、オーダーメイドの指輪。

そして私に贈られたのは、売れ残りの廃盤品。

過去五年間、冬弥の不機嫌や気まぐれは、仕事の忙しさやストレスのせいではなかった。プレゼントをくれなかったのも、「ロマンチストじゃないから」ではなかった。

ただ、愛されていなかったから。

それだけのことだった。

私は無言で箱を閉じ、後部座席に投げ返した。

墓地まであと五キロという地点で、冬弥のスマートフォンが鳴った。

画面には「美夜」の文字。

冬弥は迷うことなく車を路肩に停め、電話に出た。

「美夜?どうした?」

声のトーンが、一瞬で変わる。私に向けたことのない、優しい声。

「そうか。わかった、すぐに行く」

電話を切ると、冬弥が振り返った。

「会社に急用ができた。お前、一人で墓参りに行ってくれ」

私は冬弥を見つめた。そして、ゆっくりと口元に笑みを浮かべる。

「新年の初日に、育ての親の墓参りより大事な仕事って、一体なに?」


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