藤原修の手は素早く引っ込み、目の端で柳田雪乃を見やった。
「私はただ、あなたが惜しいだけなの。」
その言葉は私に向けられているように聞こえたが、視線はゆっくりと柳田雪乃に向けられていた。
私は吐き気を催すほど気分が悪くなった。
私が吐き終わった頃、長谷川家の人々が大理寺の役人を連れてやって来た。
私はベッドに座ったまま、少しも恐れる様子はなかった。
確かにこの宴会で誰かに突き落とされたのだから、私はただそれに乗じただけだ。
大理寺の尋問に対して、私は率直に答えた。
「私は誰かに突き落とされました。女中らしき人物で、額の中央に赤い観音痣があったのを覚えています。」
長谷川静香は眉をひそめた。
「今回の件は長谷川家の過ちです。必ずきちんとした説明をさせていただきます。」
私は軽く頷いた。長谷川静香もまた、哀れな人なのだ。
今回も、彼女を三皇子と結婚させるわけにはいかない。
大理寺の役人たちが去った後も、柳田雪乃と藤原修はまだ残っていた。
私は気づいた。先ほど犯人について話した時、この二人の様子がどこか普通ではなかったことに。
今思えば、あの女中というのは彼らの手下だったのだろう。
「和子、どうして私たちの計画通りにしなかったの?」
柳田雪乃は詰問するように言った。
藤原修も不賛成な表情で私を見つめ、自分の大事な計画を台無しにされたと思っているようだった。
私は俯いた。前世では長谷川静香の側付きの女中を指差したため、罪は長谷川静香に及んだのだ。
しかし今回は、この二人を綺麗さっぱり逃がすわけにはいかない。
「雪乃ちゃん、この計画をあなたも知っていたの?」
柳田雪乃は表情を変え、思わず藤原修を見た。
藤原修は眉をひそめ、いらだたしげな表情を浮かべた。
「雪乃は君の親友だ。私たちの計画を知っているのは当然だろう。」
「もういい、どうあれこの件は長谷川静香の仕業にしなければならない。」
「和子、この計画が成功すれば、私たちは結婚できるんだ!」
私は喜んだふりをして、承諾した。
二人が去った後、私は女中に支えられながら長谷川静香の部屋へ向かった。
長谷川静香は驚いて私を見た。
「鈴木お嬢様、どうして歩いていらっしゃるのですか?お屋敷へお戻りになるなら、私にお声がけいただければ。」
私は首を振り、彼女に下人たちを下がらせるよう求めた。
「あなたは三皇子と結婚してはいけません。」
長谷川静香は私がいきなりそう切り出すとは思わなかったようで、冷ややかな表情を浮かべた。
「父母の命、媒酌の言葉です。」
私は長谷川静香を見つめ、彼女の平静な仮面を剥ぎ取った。
「私を突き落とした人物が誰なのか、あなたはもう分かっているでしょう。」
「それに、狡兎死して走狗烹らる、飛鳥尽きて良弓蔵らる、長谷川お嬢様は兵法書に通じておられる。きっとこの道理をご存知のはず。」