名前を呼ばれた雪豹はさらに数歩進み、野村の右側から頭を覗かせた。
野村を盾にしている山本陽子は、左側に体を傾け、用心深く頭を覗かせた。
雪豹が右側から近づいてくるのに気づかず――
雪豹の荒い息遣いが右耳に響いた。
陽子ははっと息を呑み、首を固くしたまま振り向いた。
目の前に現れた雪豹の愛嬌たっぷりの顔に、息が詰まりそのまま気を失った!
「そんなに臆病なのか?」
獣医は、ベッドで気絶している娘を見ながら、狼の群れと戦っている時はかなり勇敢だったのに、ただの雪豹一匹で気絶するとは思わなかった。
「あの娘が狼の群れと戦った時は、勇気があったじゃないか!普通の女性なら、泣き叫んで降参してるよ!」
小娘が狼の群れと戦ったという噂はすでに地域中に広まっていて、誰もがこの三頭六臂の怪物のような少女を見たがっていた。
————
薬が効いて、2時間もしないうちに佐藤直樹は目を覚ました。
目を開けて起き上がると、雪豹がすぐに察知し、飛び乗ってきた。
直樹は雪豹の頭を撫でながら、視線を上げると、近づいてきた二人の部下と獣医に気づいた。
鋭い視線が獣医に向けられ、眉が軽く寄り、わずかに殺気を帯びていた。「お前が治療したのか?」
獣医は震え上がり、慌てて手を振った。
「とんでもない!私は獣医です。若様に手を出すことなどできません!」
日常的な看護は学んでいたが、彼の任務は狼と雪豹の世話だけだ。
軽々しく人の治療をするなんて職務怠慢だ。佐藤若様が彼の皮を剥ぐのは間違いない!
自分に累が及ばないよう、獣医は震えながらベッドの反対側で横になっている娘を指さした。「彼女が治療したんです!」
直樹は隣で丸まって眠っている小柄な体に目を向けた。
絹のような黒髪が枕に広がり、まつげの影がほほに落ちていた。
光に照らされた白い肌はまだ幼さを残し、淡いピンクの唇が際立っていた。
細い首には、彼が噛んだ赤い痕が残っていた。
薬の影響で彼女に手を出したことをかすかに覚えている。
その後、彼女に気絶させられたようで、それ以降の記憶はない。
こんなに短時間で目覚められたのは、明らかに薬を使ったからだった。
鋭一も前に出て言った。「はい!この娘は本当に不思議です。狼と戦えるかと思えば、注射まで打てる。使った薬は医師に確認済みです」
獣医も続けた。「彼女が注射する様子を見ると、かなり慣れていて、初心者には見えませんでした。」
直樹は眉をひそめ、ベッドの小娘をじっと見つめ、目に異様な光を宿らせた。
この娘に対する興味がますます深まっている。
「目を覚ましたはずなのに、また眠っているのか?」
「あー……」獣医は頭を下げて傍らの雪豹を見た。「白太郎は彼女が気に入ったようですが、近づいただけで彼女を気絶させてしまいました。」
雪豹はベッドの端に飛び上がって横たわり、無邪気に前足をパタパタさせて、自分が無実であることを証明しようとした。
直樹は頭を上げて野村を見た。「彼女がどこから森に入ったのか調べたのか?」
野村はうなずいた。「監視カメラを確認し、彼女にも聞きました。上の崖から落ちてきたそうです。彼女は近くの沐陽町の村人で、明日の朝に送り返します。」
鋭一はベッドの上の娘をちらりと見た。「こんな高いところから落ちて無事だなんて、運が良いな!」
鋭一の視線に気づいた直樹は薄い毛布を引き寄せ、小娘をすっぽり覆い隠した。
「チームを連れて、彼女が落ちた山頂から3キロ圏内を監視しろ」
「承知しました!」
三人は顔を見合わせた。佐藤若様は人に見られたくないらしい。
ようやく気づいた――佐藤若様はこの小娘の接近を嫌がっていない!
これは珍しい!