Capítulo 4: 神医・華佗 2
「うん」と鹿丸は返事をした。壁際に太師椅（中国の伝統的な肘掛け椅子）が一脚あるのを見つけ、龍飛をそこに降ろそうと歩み寄った。身をひるがえし、腰を少しかがめた瞬間、低く力強い声が鋭く制した。
「下ろしてはいけない！下ろしたら命が危ない！」
鹿丸は驚いてその場に固まり、下ろすに下ろせず、思わず娘の方を振り返った。
そのとき、ようやく皆の目が店の一番奥、薄暗い灯りの中にもう一人の人物がいることに気づいた。その人物は上半身が陰に隠れ、下半身も机に遮られていて、誰も入店時には気づかなかった。
「シャキン！」という鋭い音とともに、娘の手には一振りの短剣が現れた。冷たい目でその隅の人影を睨みつけ、問いただした。
「お前は何者だ？ 出てきて話せ！」
店主は二人が武器を手にしたのを見ると、慌てて間に入り、なだめた。
「お嬢さん、お待ちを、あの方も本日からうちに泊まっているお客様ですよ。どうか怒らないで、お願いです！」
それから隅の人物に向かって呼びかけた。
「旦那様、どうかお出ましを。無用な揉め事は避けましょう！」
「ふふふ……」と、低く響く笑い声が返ってきた。
「刀を使うには正確さが命。お嬢さん、誇るわけではないが、正確さにおいてこの老骨に勝てる者は、この世にはそうそうおるまい。ただし、老いぼれの刀は人を救うためのもの、お嬢さんのは人を殺すためのものだ。」
そう言って、ひょろりとした一人の老人が陰の中から姿を現した。頭髪も髭も真っ白だったが、顔色は健康そのもので、歯もきちんとそろっており、歩みも力強く、年齢を感じさせない佇まいだった。
老人は娘には目もくれず、龍飛の方へと歩いていった。娘は素早く一歩踏み出して、老人の行く手を遮った。
「何をするつもり？」
老人は微笑みながら尋ねた。
「その負傷者、あなた方の仲間ですか？」
「関係ないでしょ！」
再び老人は笑って言った。
「老いぼれは世を旅してきたが、病人を見過ごすことだけはどうしてもできん。目の前を病人が通れば、どうにも手がうずいてしまう。医者として何十年もやってきた経験で見るに、その方はかなり重傷ですぞ。今すぐ治療しなければ、一生歩けぬ身体になるやもしれん。」
「そうなんです、そうなんです！」と鹿丸が慌てて言った。
「本当にひどいケガなんです。あんな高い崖から落ちて、生きてるのが奇跡です。先生、医者なら早く診てください！」
龍飛はその娘を一瞥した。娘が乗り気でないのなら、自分も付き合うしかないと、鹿丸の言葉をさえぎった。
「ただの骨折だ。肋骨が二本、左足の脛骨が折れてる。軽い脳震盪もあるな。内臓は……脾臓が少し裂けてるかもしれないが、大したことはない。これくらいのケガ、自分で治せる。放っておいてくれ。」
老人は明らかに驚いた様子で言った。
「若いの、もしかしてお前さんも医者か？」
龍飛は首を振った。
「医者ってほどじゃないけど、軍人は野外での任務が多いから、応急処置くらいは身についてる。今、一番重いのは脛の骨だ。骨をきちんと繋げて、板で固定して、数週間も休めば元通りになる。」
周囲の者たちは「肋骨」「脛骨」「脳震盪」などの言葉は理解できなかったが、龍飛の落ち着いた態度を見て、彼ならどうにかできるのではないかと感じた。鹿丸も驚きつつ、龍飛が「大したことはない」と言ったのを聞いて思わず笑顔になり、すぐに訊ねた。
「なんだ、病気も治せるんだな。それなら最初から言ってくれよ、心配したじゃないか！」
龍飛は笑って言った。
「さあ、俺を下ろしてくれ。清水と消毒薬を探してきてくれ。それに包帯と添え木もな。あと、縄も解いてくれ。自分で治療するから！」
「消毒薬？ 包帯？ 添え木？ それって一体なんのことだ？」と鹿丸は不思議そうに尋ねた。
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