Capítulo 9: ほしいままな略奪
Editor: Inschain-JA
一枚の壁を隔てた囁きと息遣いは、無視することが難しかった。暗闇の中で、微かな情欲の波が極めて速く広がっていった。
木村隼の薄い唇が触れた場所には、微弱な電流が走ったような感覚が広がり、痺れるような快感が全身に伝わった。
前世でも今世でも、これが吉田静香にとって初めてのキスだった。
彼女は力なく顔を上げ、その感覚に身を委ねた。密室の中では、お互いの呼吸さえもはっきりと聞こえるほど静まり返っていた。
静香は自分の全身が木村隼特有の男性ホルモンの香りにしっかりと包まれていると感じた。彼の目の奥に燃える熱は、彼女を完全に飲み込もうとしているかのようだった。
「んっ、ダメ……」
彼女は息継ぎの合間に弱々しく抵抗したが、隼は彼女に言葉を終わらせる機会を与えなかった。熱い唇が再び彼女の唇に重なり、容赦なく彼女の息を奪った。
次の瞬間、隼は両手で静香の足を引っ掛け、彼女を抱き上げた。
突然の浮遊感に、静香は驚いて目を見開き、無意識のうちに両足で隼の腰に絡みついた。
「静香、彼もこうして抱きしめてくれたのか？」
隼のかすれた声が彼女の耳元で響いた。キスで頭がぼんやりとした静香は、最初は彼が何を尋ねているのか理解できなかった。
隼は急かさず、彼女を柔らかいベッドに寝かせると、片膝をついた。
骨ばった手で彼女の顎を掴み、彼女の視線が自分だけに向くようにした。
「彼に抱かれる方が気持ちいいのか、それとも俺に抱かれる方が気持ちいいのか」
隼のもう一方の手は彼女の腰に添えられ、全身が今にも覆いかぶさってきそうだった。それは彼女がこれまで経験したことのない危険な感覚だった。
「抱かれたことなんて……ない……」
静香は小さな声で言った。目尻が赤く、一筋の涙が頬を伝い落ちた。
木村隼の……彼の手が……
彼女の腰の滑らかな肌に触れながら、隼は目を閉じ、骨身に沁みる欲望を深く抑え込んだ。
衣擦れの音が響き、隣室から聞こえてくる甘い声とともに、さらに艶めかしさを増した。
静香は力なくシーツを掴み、頭を少し後ろに傾けた。荒々しく奪われ赤く腫れた唇は半開きになり、全てが弱く無力に見えた。
「木村様……」
隼は少し身を屈めると、彼女の潤んだ瞳にキスをし、黒髪に、そして白い首筋にもキスを落とした。
静香が彼のせいで何度も壊れ、震えるのを見ると、心の奥底にあるその言葉にできない欲望が不思議な満足感に変わった。
「ここだわ！さっき木村社長と松本美月が一緒に上がってくるのを私は確かに見たの。この階の掃除係も彼らがこの部屋に入るのを見たって言ってるわ！」
女性のはっきりとした言葉とともに、廊下から急ぎ足の音が聞こえてきた。
かなりの人数のようだった。
静香は瞬時に緊張し、助けを求めるように隼を見つめた。彼女を解放してほしいと懇願しているようだった。
隼はゆっくりと手を引き抜いた。静香の足はまだ彼の肘にかかっていて、黒髪はシーツの上に広がり、言葉にできないほど艶やかだった。
静香は彼に起こされた。
隼は彼女の服を整える余裕さえあって、それから彼女の頭を押さえ、自分の目を見るようにした。
「いい子だ。シャワーを浴びてくる。誰が来ても開けるな」
彼女は先ほどの出来事が自分の許容範囲を超えてしまい、隼の言葉を聞いて素直に頷くしかなかった。
廊下では、渡辺夕子が211号室の前に立ち、ドアをノックした。
「木村社長、美月お姉さん、部屋にいらっしゃいますか？」
木村雅人は息子の性格をよく知っていた。彼はこんな場で無茶をするような男ではない。
ましてや松本家のあの娘に目を向けるはずがない。
しかし、このパーティには多くの人がいて、渡辺がこれほど確信を持って言っている以上、彼が否定すれば人々に何かを隠しているように思われてしまう。
鈴木沙耶は雅人の隣に立ち、表情は冷たかったが、心の中では諦めの気持ちが湧いていた。
この息子は性欲のない男だ。彼の興味を引ける人物はまだ生まれていないかもしれない。雅人の足の毛で考えても、そんなことはありえないはずだ。
しかし彼女のかわいい娘は、どこにいったのだろう。
沙耶が心配しているように見えたため、雅人は彼女が自分の息子を心配していると思った。何度ノックしてもドアが開かないのを見て、彼はセキュリティスタッフに合図した。
次の瞬間、セキュリティの一人がドアの前に立ち、足で強く蹴った——「バン」という音と共に、中の光景が明らかになった。
女性のドレスと男性のスーツが入口からベッドの脇まで散らばっていた。
ドアが蹴破られる音を聞いて、ベッドで絡み合っていた二人は素早く離れ、女性の鋭い悲鳴が響いた。
「きゃあ————」
沙耶は思わず眉をひそめた。雅人はその小さな仕草に気づき、彼の表情は一瞬で暗くなった。
「明かりをつけろ！」
雅人の声と共に、部屋の明かりが一斉についた。
ベッドの上の男女が誰なのかわかると、その場にいた全員が息を呑んだ。
「木村隼と松本美月じゃないの？これは誰……」
「なんてことなの、美月は隼に夢中だったんじゃないの？なのになぜ彼の……甥と？」
後ろからの噂話がどんどん大きくなり、雅人の表情もますます険しくなった。これは確かに家の恥だった。
「木村執事、皆さんは一階でパーティを続けてください」
沙耶は振り向き、後についてきた人々に微笑みかけた。
彼女の言葉を聞いて、全員が口を閉ざした。
ここは木村家だ。鈴木家もただの家柄ではない。
沙耶の一言に、誰が逆らえようか。
人々が去ったのを見て、執事は特に扉を閉めた。
木村文也はすでに恐怖で足が震えていた。彼は服を着ると、「どさっ」と雅人と沙耶の前にひざまずいた。
「木村社長、本当に故意じゃなかったんです。どうしてこうなったのか、自分でもわからなくて……」
文也は非常に怯えていた。親戚とはいえ、彼らが上流社会にいられるのは雅人のおかげだった。
だから普段は彼らから離れて生活していた。彼らを怒らせて上流社会から追放されることを恐れていたからだ。
今や彼は隼の誕生日パーティーでこのような恥ずべき行為をし、多くの上流階級の人々に目撃された。これがどれほど大きなスキャンダルになるか、考えるのも怖かった。
「松本美月は人気女優だ。松本家も上流社会の中でもトップクラスだ。だから彼女の名誉はこのように傷つけられるわけにはいかない」
「お前も私の家の者だ。お前の名誉は木村家の名誉だ。だから今、両方にとって良い解決策がある。お前たちが望むかどうかだが」
ちょうどその時、服を着た美月が出てきた。彼女の顔の上品な化粧もほとんど落ち、どこかのメイドの服を着ていた。彼女は頭を下げ、非常に居心地悪そうだった。
彼女は何故すべてがこうなってしまったのか分からなかった。
彼女が薬を盛ったのは木村隼なのに、なぜ木村文也になってしまったのか。
「あなたたち二人が対外的に婚約者関係だと発表すれば、誰もあなたたちの私生活に口出ししなくなる」
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