夜の十時、東区の銀河マンション三号別荘は明るく照らされていた。
十数人の禿げ頭や肉付きのよい顔をした中年男性たちが、屋外の庭で美酒とご馳走を楽しみながら、傍らの若く美しい女性たちの体に手を這わせていた。
小林清奈がここにいれば、すぐに気づいただろう。これらの中年男性たちはみな小林財団の中高層幹部と株主たちであり、彼女の伯父である小林雄大の直系の部下たちだった。
ここはまさに小林財団の第三株主であり、財務総監を務める雄大の私邸だった。
彼はプライベートプールで数周泳いだ後、オーダーメイドの高級パジャマに着替えて屋外の庭に現れた。
「皆さん、今日は楽しんでいますか?」
彼は笑みを浮かべながら、一同に挨拶した。
「楽しいですとも!もちろんです!」
「小林社長のところは天国ですよ、素晴らしい限りです!」
「そうですとも、ここに来たら帰りたくなくなりますね」
一同は口々に心からの感嘆の声を上げた。
雄大の生活は確かに贅沢そのものだった。他のことはさておき、この銀河マンション三号独立別荘だけでも、400平方メートルを超え、前後に二つの庭園を持ち、トイレだけでも五、六か所あり、さらにプライベートプールまである。市場価値は少なくとも8000万はするだろう。
高級車に関しては、ガレージで見かけただけでも三台:マイバッハS600、ベントレー・フライングスパー、そしてロールスロイス。
「帰りたくないなら、もう少し遊んでいけば」
雄大は笑いながら、皆と暫く歓談を続けた。
数分後、薄毛の株主である吉田新が本題を切り出した。「小林社長、明日の取締役会は午後3時だと聞きましたが?」
「ああ」
雄大は頷き、「会長は朝、病院で検査があるから、午後にしか時間がないんだ」と答えた。
「社長、明日はチャンスを逃さず、一気に清奈を追い落としましょう!」
新は深刻な声で言った。「あの娘が就任してからというもの、あれこれと改革ばかりで、小林財団はメチャクチャになってますよ。みんな仕事どころじゃありません!」
この言葉に、皆が頷いて同意した。
「吉田社長の言う通りです!明日こそチャンスを掴んで、あの娘を追い出しましょう!あの娘が辞めてこそ、我々も生きていける!」
「若い娘のくせに手段が多すぎる。この半年で追い出された幹部は十二人もいる!このまま彼女の好きにさせたら、ここにいる誰も残れないかもしれん…」
「社長、情報通の小林社長、清奈の婚約者について何か分かりましたか?」
皆の視線を受け、雄大は意味ありげに笑い、軽蔑した口調で言った。「何が婚約者だ、数日前に調べたが、あの夜清奈の部屋に入ったのはただのデリバリー配達員だ!」
「デリバリー配達員?」
この言葉に、全員が驚いた。
新は思わず尋ねた。「社長、どういう意味ですか?理解できません」
「つまり、あの夜、清奈が欲求不満で、男を呼んだということですか?」
清奈が情報を隠していたため、雄大が調べたのはそれほど多くなかった。ただあの夜、清奈の部屋に入ったのは国分隼人というデリバリー配達員で、二人は以前知り合いではなかったということだけだった。
「そんなところだ」
雄大はテーブルの上のお茶を一口すすり、続けた。「あの日の臨時取締役会で、清奈はただ平静を装って、急遽婚約者なるものを持ち出し、我々の口を塞ごうとしたんだ」
「ところが、会長が結婚するよう言い出した。ハハハ、自分で自分の首を絞めたようなものだ!」
「清奈のような高慢ちきな娘が、デリバリーの配達員と結婚するなんてありえない!」
「ハハハハ…」
皆も笑い声を上げ、顔には嘲笑が浮かんでいた。
しかし、その時新は首を振りながら割り込んだ。「社長、何事にも例外はありますよ。清奈は冷酷無比な女です。彼女は社長の座に就くのにどれだけ苦労したか。簡単に諦めるとは思えません。もしかすると、本当に配達員と結婚してしまうかもしれませんよ?」
この言葉に、場の笑いが急に止んだ。
新の言う通り、清奈は高慢かもしれないが、社長の地位のためなら、配達員と結婚する可能性も否定できなかった。
雄大も考えてみれば確かにその通りだと思った。しかし、この数日間、彼は清奈の動向を監視させていたが、彼女は書院町に一度行っただけで、他の場所には行っておらず、ましてや民政局(婚姻登録所)には行っていなかった。
用心に越したことはない!
だめだ!
もっと慎重にいかなければ。
そう思って、彼は指を鳴らし、腹心の部下である木村勝を呼んだ。「木村、明日の朝、一度行って、その国分隼人というのを見つけて、清奈とは一切関わりを持たないようにしろ。少し強い手段を使ってもいい!」
勝は頷いた。「分かりました!」
……
一方、隼人は電動バイクに乗って家に戻っていた。
家の中を簡単に片付けた後、彼は座り込んだ。
先ほどナイトクラブで起きた出来事を思い返すと、彼は思わず首を振った。自分は少し衝動的だったと。
愛美と良彦を見つけられなかっただけでなく、飛虎商会の人間を殴ってしまった。これでは自分に面倒を招くだけではないか。
幸い彼の頭の中には『開天玄録』があり、体の傷はかなり回復していた。
『開天玄録』のことを考えると、隼人は不思議でならなかった。
この蝌蚪文の修行法がなぜ自分の母斑に隠されていたのか?そこには何か秘密があるのだろうか?
さらに、『開天玄録』を練習し始めてから、彼は頭の中の腫瘍が小さくなってきているように感じ、痛みはほとんど消えていた。
『開天玄録』は真気を鍛錬して武者になれるだけでなく、病気も治せるのだろうか?
あれこれ考えた末、隼人は明日の朝、やはり病院に行ってスキャンを受けてみることにした。
夜はあっという間に過ぎ去った。
翌朝、隼人は電動バイクに乗って庭から出てきた。
数十メートル走ったところで、一台のビジネスカーが彼を強制的に止めさせ、車から数人が出てきた。
その中の一人、背が高くやせた男は八字ヒゲを生やし、金縁の眼鏡をかけていた。典型的なインテリ風のチンピラだった。
彼こそ雄大の個人秘書である木村勝だった。
写真を手に取り、勝は隼人を見比べ、そして首を傾げながら前に進み出た。「国分隼人?」
隼人は顔を上げ、冷静に言った。「何か用か?」
「ふん…」
勝は鼻を鳴らし、指を隼人の鼻先に突きつけ、冷たい口調で言った。「ある人から伝言だ。小林清奈には近づくな!」
「さもないと、お前の足を折るぞ!」
清奈?
こいつは飛虎商会の人間じゃない!
もしかして清奈の追っかけか?
なぜか「追っかけ」という言葉を考えると、隼人は気分が良くなかった。
彼は勝の指をつかみ、「俺と清奈の間には何の関係もない。お前が心配することじゃない!」
「それに、俺は脅されるのが嫌いだ!」
そう言うと、彼は力強くその指をねじった。
「あっ!」
勝は悲鳴を上げた。彼が部下に隼人を懲らしめるよう命じようとした時には、すでに隼人はアクセルを回し、路地から飛び出していた。
……
金伝ビル、54階執行社長室。
清奈は出社するとすぐに、書類の処理に没頭し始めた。
「コンコン!」
秘書の岩田がドアをノックし、淹れたてのコーヒーを持って入ってきた。
清奈はコーヒーを受け取り、一口すすりながら、書類を見ながら尋ねた。「この数日、彼はどうしてる?」
岩田はその「彼」が隼人であることを理解していた。
「国分さんは自分を部屋に閉じ込めて、数日間外出していません」
岩田は報告した。
「そう、分かった」
清奈はペンを握る手が少し震えた。あの男は嘘をついていなかったようだ。死に行く人だけがあそこまで極端になるのだろう。
暫く沈黙した後、岩田は思わず口を開いた。「社長、実は別の人に変えることも…」
「無駄よ」
清奈は首を振り、苦笑して言った。「祖父と伯父の手腕からすれば、写真の中の人物が隼人だと既に調べているはず。人を変えれば、ますます不利になるだけ」
岩田は試すように言った。「それなら、もう一度国分さんと交渉してみては?価格を上げるとか」
「お金の問題じゃないの!」
清奈は再び首を振り、書類を閉じ、両手を頭に当てた。「これが私の運命なのよ…」