篠原彰の母親である詩音は、まさに伝説的人物であり、その度胸と器量は言うまでもない。
決して白石詩美纪を気に入らないとか好きではないという理由だけで、自分の息子の一生の大事に干渉するようなことはしないだろう。
「お前と詩美纪の間は一体どうなってるんだ?」
出雲逸人は好奇心から尋ねた。
なぜか彼は、彰が詩美纪に対して抱いているのは愛情ではないと感じていた。
彰は黙ったままお酒を数杯飲み、口を開かなかった。
この話題になるたびに、彰はいつも避けている。逸人は仕方なく伊藤隼人に向かって肩をすくめ、空気を読んで話題を変え、意地悪く笑いながら口を開いた。
「さあ、早く教えろよ。俺たちの楓真が見つけてきた天女って、どんな女がお前のベッドに上陸したんだ?」
楓真は頭脳明晰で、いつも子供の割に大人びている。
彼らは楓真が単に詩美纪を好まないから、女を見つけて彰のベッドに送り込んだと思っているだけで、誰を見つけてきたのかは知らなかった。
天女?彰の目の前に、朝起きたばかりの彼女の鳥の巣のような髪が浮かんだ。
彼を見つめる夢見るような目。
彼と言い争うときの怒った顔のばかっぽさ。
5元を投げつける大胆さまで。
思わず口にした。「バカな女だ」
彼がまさか応えるとは思わず、逸人は口をあんぐりと開けた。
母親と妹以外は、詩美纪すら、彰から自ら話題にされることはない。
今、篠原大総裁の口から他の女性の評価が聞けるなんて、まさに奇跡だ!
しかし、バカな女?
逸人はにやりと笑った。この二人の間には、何か面白いことが起きているようだ。
逸人たちの好奇心に満ちた質問に耐えられず、彰はいらだたしげに立ち上がって離れた。
家に戻ったときには、すでに深夜だった。
自分の寝室へ真っすぐ向かい、ドアを開けると、安藤詩織が堂々と彼のベッドで気持ちよさそうに眠っていた。
いい度胞だ。この忌々しい女、まだ彼のベッドに上がる勇気があるとはな。
彰は大股で近づき、掛け布団もろとも彼女を床に放り投げた。
この安藤さんというのも変わった人物で、まったく目を覚まさなかった。
布団に包まれたまま床で体を回転させ、心地よい姿勢を見つけると、また眠り続けた。
彼女は豚か何かか?こんなに熟睡して、夜中に誘拐されても気づかないだろう。
彰は周囲をぐるりと見渡し、ベッドの枕を取って彼女の顔に投げつけた。
「バカ女、起きろ」
詩織は頭を少し下にずらし、口と鼻だけを出したが、まったく影響を受けていないようだった。
その桜の実のような淡いピンク色の小さな口は、まだぱくぱくと動いていて、夢の中で何か美味しいものを食べているようだった。
彰は妙に口の中が乾いた感じがした。
目を細め、床に粽のように包まれた布団に手を伸ばし、外へ引きずり出した。
詩織の頭はベッドの脚にぶつかり、ようやく目を覚ました。
布団の中でもがいた後、頭を抑えながらぼんやりと目を開けた。
目の前の彰を見ると、頭が急に冴えた。
「なんで帰ってきたの?」
彰は手を離し、高いところから彼女を見下ろした。
「それはこちらの台詞だ。安藤さんは一眠りして忘れたのか、ここは私の家で、これは私のベッドだぞ」
詩織は今後1年間の平和な共同生活のために、彰とちゃんと話し合うべきだと思った。結局、彼がこの家の正当な主人なのだから。だが口を開く前に。
彰は再び皮肉を言った。「それとも安藤さんはまた古い手を使って、私を誘惑しようというのか?」
詩織は彼を白い目で見た。「私があなたを誘惑する?ふふ、篠原さん、孔雀が羽を広げて自慢するって知ってる?」
彰は眉を上げた。「俺がカッコいいと褒めても、ベッドに上がることは許さないぞ」
詩織は天を仰いで言葉を失った。厚かましい、こんなに厚顔無恥な自惚れ屋は見たことがない。
「そんなに偉いなら、空でも飛んでみたら?」
「私専用機があるから、いつでも空に上れるよ」
彰は軽蔑して答えた。