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10% 血涙の鎮魂歌~裏切られた愛の終幕~ / Chapter 2: 第2話:血の代償

Capítulo 2: 第2話:血の代償

第2話:血の代償

刹那は母親との電話を切ると、すぐに航空券の予約サイトを開いた。七日後のZ国行き便。ファーストクラス。片道。

指が震えながらも、決済ボタンを押す。

「これで終わり」

呟きながら、部屋を見回した。八年間の思い出が詰まった空間。暁と選んだ家具、一緒に撮った写真、彼からのプレゼントの数々。

全部、処分しよう。

翌朝、刹那は段ボール箱を並べ、手当たり次第に物を詰め込んでいった。ブランドバッグ、アクセサリー、洋服。フリマアプリに次々と出品する。

「即決価格で構いません」

コメント欄にそう書き込むと、すぐに購入希望者が現れた。

暁からのメッセージが届く。

『三日間出張する。帰ったら結婚式の準備をしよう』

既読をつけずに、画面を閉じた。

その時、見知らぬアカウントからDMが届いた。

『幸福の蝶子ちゃん』

アイコンはエコー写真。胎児の輪郭がぼんやりと映っている。

動画が添付されていた。TikTokのリンク。

恐る恐るタップすると、病院の待合室が映し出された。妊婦健診の受付で、暁が優しく女性の腰に手を回している。

影山蝶子だった。

キャプションには『最高のパパ候補と一緒に♡ #妊婦健診 #幸せ』と書かれている。

刹那の指が震えた。コメント欄に文字を打ち込む。

『私の骨髄をもらって病気が治ったと思ったら今度は私を挑発するなんて。影山さん、人の血肉を啜って得た幸福の味はいかが?』

送信ボタンを押した瞬間、蝶子からすぐに返信が来た。

『別に骨髄をくれって頼んだわけじゃないし、暁さんが私のことを心配して、無理やり受け入れさせたんだから』

傲慢な文面に、刹那の胸が煮えくり返った。

翌日、また動画が送られてきた。今度は暁がマタニティウェアを選んでいる様子。蝶子の膨らんだお腹に手を当てて、幸せそうに微笑んでいる。

三日目。超高級産後ケア施設の豪華な個室が映し出された。

『月額三百万円の特別室を予約してもらっちゃった♡ 生まれつき運がいいんだもん』

刹那はスマホを投げ出した。

三日後の夜。

玄関のドアが開く音がした。暁が帰ってきたのだ。

「刹那?」

リビングに入ってきた暁は、明らかに物が減った部屋と、隅に置かれた新しいスーツケースに気づいて眉をひそめた。

「何だこれは?引っ越しでもするのか?」

刹那は振り返らずに答えた。

「少し整理をしただけよ」

「整理?」暁は困惑した表情で近づいてくる。「まさか拗ねているのか?出張中、連絡が取れなくて心配したんだ」

拗ねている?

刹那は内心で苦笑した。この期に及んで、まだ何も分かっていない。

「そうだ」暁は突然手を叩いた。「君のためにサプライズを用意したんだ」

ポケットから封筒を取り出す。

「君がずっと欲しがっていた限定版ランボルギーニの購入契約書だ。君のためにスーパーカーを注文しておいたよ」

刹那は契約書を受け取った。確かに彼女の名前で登録されている。価格は八千万円。

以前なら飛び上がって喜んだだろう。でも今は、何も感じない。

「ありがとう」

素っ気ない返事に、暁は戸惑った。

「気分転換にパーティーに行こう。友人が主催する集まりがあるんだ」

断る理由もなかった。どうせ、もう関係ない。

ベントレーの助手席に座りながら、刹那は窓の外を眺めていた。夜景が流れていく。

その時、暁のスマホが鳴った。

「蝶子ちゃん?どうした?」

電話の向こうから、泣き声が聞こえてくる。

「誘拐された?!今どこにいる?」

暁の顔が青ざめた。ハンドルを握る手が震えている。

「分かった、すぐに行く!位置情報を送ってくれ!」

電話を切ると、暁は急ブレーキを踏んだ。

「パーティーは中止だ。蝶子ちゃんが危険な目に遭っている」

Uターンして、猛スピードで駆け出す。赤信号を次々と無視していく。

刹那は何も言わなかった。ただ、シートベルトを握りしめていた。

二十分後。

「あった!」

暁が指差した先に、黒いセダンが見えた。

躊躇なく、暁はアクセルを踏み込んだ。

ガシャン!

激しい衝撃音と共に、セダンに追突する。その反動で、相手の車が刹那の乗る助手席側に激しくぶつかってきた。

頭に鋭い痛みが走る。温かい液体が頬を伝った。

血だった。

「蝶子ちゃん!」

暁は車から飛び出すと、セダンに駆け寄った。

「怖かっただろう?どこか怪我はしていないか?」

優しい声で蝶子を気遣っている。軽傷の彼女を抱きかかえて、自分の車に乗せた。

「病院に行こう」

エンジンをかけながら、暁は蝶子に話しかけ続けた。

彼はその間ずっと、助手席の刹那が目を赤く腫らし、頭頂部からおびただしい血を流していることに気づかなかった。


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