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21.21% 転生したら古代の万能魔法兵器だった件~追放王族とすすめる領地開拓~ / Chapter 7: 第7話:赤枯草と農業のはじまり

Capítulo 7: 第7話:赤枯草と農業のはじまり

 目の前に、でかい穴がある。幅は十メートル、深さは三メートル。大穴だ。場所は村の北側。城壁の外。

 あまり草の生えていない場所に俺が掘った。

 底にはこの前襲撃したゴブリンキング達の死体がある。全部俺が運んだ。

 全て一人でやって三時間。我ながらとても早い。

「ごめんなさい。ヴェルにこんな仕事を押し付けて」

 隣にはアンスルがいる。つい先程まで、村人の埋葬に参加していた。

 まずは戦いの後始末。亡くなった方の墓を作る裏で、俺は魔物どもを片付けていたというわけだ。

 焼けばいいのか? という意思は即座に伝わる。

「お願い。地面に埋めておいてアンデッドになると厄介だし。灰にしちゃって」

 この世界にはアンデッドがいるらしい。無念を抱えた死体や骨が動くことがあるそうだ。対処法は火葬か、魔法を使って手順を踏んだ上での埋葬。

 村人たちは手順を踏んだ方法で儀式を行い、こいつらは俺が灰にする。

「インフォ、頼む」

『了解、火の魔法を行使します』

 掲げた手から火球が飛び出すと、ゴブリンキング達に触れるなり燃え盛る。

 ほんの十分ほどで、魔物たちは灰になった。

 早すぎないか? たしか、火葬場でも遺体を焼くのにはそれなりに時間がかかったはずだけど。

『特殊な魔法を使いました。魔力に引火する火の魔法です。残留した魔力が直接火に変換されるので、非常に効率が良いものです』

 それはつまり、体の中の魔力をガソリンみたいに扱って燃える火の魔法ってことだろうか。

『そのとおりです』

「質問なんだが。この前の機関銃からこの魔法を発射したらどうなる?」

『……恐ろしいことを考えますね。対象に魔力があれば、引火して焼き尽くします』

 とんでもないことを思いついてしまった。……切り札にしよう。

「凄いわ。ヴェルの使う火は特別なのね」

 この魔法の異常性に気づいたアンスルも目を見張っている。

 後は埋めれば終わりだ。こちらも魔法でやってしまおう。とても便利だ。

 それから今度は畑を見にいかないと。本当に忙しいね

「ごめんなさいね。ヴェル。貴方頼りで」

 うっかり伝わってしまったらしい。別にアンスルに謝罪してほしかったわけじゃない。

 やることがないより、ある方がいい。

 次は畑を見に行こう。

 ●

 エリアス村の門は南側にあり、その外には農地が広がっている。

 村人の生活を支える農地。畑の近くに家はなく、村から作業に行く形のようだ。魔物に襲われる可能性を考えると仕方ない。

 アンスルと共に南側に来た俺は北の空を眺めていた。

 遥か遠く、山の向こうに巨大な雲が渦を巻いている。

 とんでもなく壮大な光景だ。宇宙空間まで届くんじゃないかという、巨大な積乱雲がそこにあるのだ。

『あれは次元の渦。我々の文明が残した魔法です』

「どんな意味があるんだ?」

『色々です。魔力の回収や魂の回収などに使う大魔法。巨大湖の地下で発動した副産物が、この景色です』

「俺の魂も、あそこを通ってきたのか……」

『そうなります。記録によると、魂を見つけるためにおよそ五千年ぶりに渦にアクセスしたようです』

 あそこを通れば、帰れるのか? インフォの説明を聞きながら、そんなことを思う。

『貴方の世界への帰還は困難です。戻るべき肉体がありません』

「そうか……」

 未練がないと言えば嘘になるけど、今は目の前の仕事を片付けよう。

 さっきからずっと怪訝な顔をしているアンスルに視線を向ける。

「果ての渦が気になるのね。私もいつか、あそこに行ってみたいわ。研究して正体を確かめるの」

 魔法好きらしい感想を言うと、厳しい視線を南側の大地に向ける。

「その前に、こちらね。見ての通り、これが私達の畑なの……」

 エリアス村の南にある農地は真っ赤だった。

 比喩じゃない。南に広がるなだらかな地面。そこにはあらゆる場所に三センチ程の赤い草がびっしりと生えているのだ。

 一部、村の近くは耕作された形跡があるんだが、酷く踏み荒らされている。これは、ゴブリンキングとの戦いのせいだ。少ない開拓済みの地も含めて、出直し。それが現状だった。

「赤枯草、と呼ばれる特殊な草。魔草に分類される植物。大地から魔力を吸い上げ、力を奪うの。簡単には抜けず、再生力が高い」

 とんでもなく厄介な植物のようだった。こんなのがある場所を開拓してたのか?

『赤枯草とは不名誉な名付けですね。こちらはフロウラ、環境改善を目的とした品種です』

「お前達の文明が作ったのか?」

 とても環境を改善できそうにない景色だけど。

『魔草という命名は的確です。フロウラは火の魔法に反応することで、優れた土壌改良の肥料となります。それを土にすき込むことで、理想的な農地になっていきます』

「魔力を吸い上げる意味は? いや、そもそも魔力が農業に関係するのか?」

 土に必要なのは、リン、窒素、カリウム。家庭菜園レベルの知識だけど、この三つが大事だって聞いたことがある。

『もちろん。そういった肥料も大切です。しかし、この世界では魔力もまた植物や生き物のエネルギー源になります』

「万能すぎだろ、魔力」

 いや、ロボを動かして傷を直したりも出来るんだ。植物を育てる役にも立つのか。

『魔法で灰になったフロウラは一般的な肥料としての役目も果たします。よりよい土を作るため、魔力を利用して栄養満点になるのです。土地に足りない栄養素を作り出します』

 これだけで十分じゃないか。いや、助かる。ハーバー・ボッシュ法なんて名前しか知らない。自力で肥料作りをする流れになってたら終わってた。

 火の魔法で焼けばいいらしいぞ。

 そう、アンスルに伝える。

「さすがはヴェルね。赤枯草が火の魔法に反応しやすくて、肥料になることは知っていたの。魔法使いを雇うと高いから、この地域では放置されていたのよ」

 アンスル達も知っていたらしい。そして、コストがかかるというのは納得のいく話だ。この体を生み出した文明は、その辺を無視できるくらい魔法を使い放題だったんだろうな。

「今年の春に入植した時は私が火の魔法でちょっとずつ焼いたの。でも、私は攻撃魔法が苦手で、時間がかかってしまうの」

 その役目を俺がやるというわけだ。

 軽く頷いて、赤い大地に向かって手をかざす。

『折角です。貴方も魔法を使ってみてください』

 インフォが変なことを言い出した。

『既に最適化は済んでいます。私をお手本として、感覚的に魔法を行使できるはずです』

「そんな簡単に言われても……」

『これまでの感覚を思い出してください。それで、実行可能です。また、貴方の発想次第で効果も変えることができます』

 ようは手足を動かす感覚で魔法を使えるということらしい。インフォが色々と教えてくれた。

「とりあえず、やってみるか」

 手を掲げたまま硬直する俺をアンスルが見守っている。この子が無事でいられるようにしなきゃな。

 手から魔法がでる感覚は何度か味わっている。勢いよく水の出るホースを持っているような感じがした。出てくるのは魔法だけど。

『イメージしてください。魂ある存在の心象は魔法の発動に大きく寄与します』

 とりあえずは火。この辺りの赤枯草を焼き払う炎を想像。さっきゴブリンキングの死体を焼いた時みたいに、火球から燃え広がるようにしよう。

 形が固まったので、軽く心の中で合図をする。

「いけ!」

 即座に、手の平から小さな火球が飛び出した。

 地面に着弾するなり、物凄い勢いで燃え広がる。いや、広すぎる! 火の波がこっちに来る!

『魔法障壁、展開』

 インフォが半透明の輝く壁を展開してくれた。幸い、火の手はこちらまでこなかった。いい具合に、農地に燃え広がっていく。

「いや……広がりすぎだろ。小さな火の玉だったぞ?」

『出力調整は今後の課題ですね。おおよそ、一ヘクタールが処理できました』

 大火事だよ。動物とか被害が出てないか?

 魔法の火による焼畑は不思議なもので、煙もでなかった。どの草も、一分少々燃え盛ると白い灰に変わった。

 目の前に一ヘクタールほどの白い大地が生まれた。

 結果を見れば、上出来だ。

「すごいわヴェル! え? ちょっと練習する? ああ、今ちょっと怖かったものね。平気よ、この辺りに他の人はいないから。どんどん練習して頂戴!」

少しテンションをあげてアンスルが言った。火を見て興奮でもしたのだろうか? あるいは魔法を見てかな。

とにかく、上手くいって良かった。もっと威力を調節できるようになろう。

『向上心が高くて大変結構です。ガンガンやりましょう』

 妙に乗り気なインフォと共に、その後、百ヘクタール分ほど焼畑をした。


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