悠人が口から出した瞬間に後悔した。
「彼女でなければならないわけじゃない。ただ彼女が気の毒だなとお思って。松永家と婚約しなければ、そのの家族は彼女を容赦しないだろ。彼女は母の命を救ったんだから、追い詰めないでくれ」と彼は急いで言い訳した。
葵が口を開こうとしたとき、悠人が先回りして言った。「彼女が自分の過ちを認めて謝り、そして融通の利かない性格を直せば、受け入れてもいいよ」
彰は葵に一瞥をくれ、嘲笑った。「私の甥子はなかなかいい奴だな」
「彼は仲直りしたいけど、頭を下げたくないんだから、こんなことになったわ」葵は息子のことをよく理解していた。
彰の顔に笑みが深まった。「恋の駆け引きか?」
「若い人は情熱的な恋愛が好きだものよ」葵はそう言った。
「情熱的が好きだと?」彰は役立つ情報を得たような様子だった。
葵は彼のこの反応を妙に思い、返事をしようとした時、彰はすでに待ちきれない様子で「まあいい」と言った。
彼は悠人に目を向けた。「君は別の人を選ぶか、それとも婚約者の機嫌を取るか。とにかく婚約パーティーを開くのを邪魔しないで、わかったか?」
男性は穏やかな口調でその言葉を言ったが、悠人はその笑顔に、威圧感を覚えた。
特に墨のように黒い瞳は、悠人の心を不安にさせた。「わ、わかりました」
「いい子だ」彰は満足げに悠人の前に歩み寄り、彼の肩を叩いた。「未来の義理の叔母さんへのプレゼントを忘れるなよ」
悠人は驚愕した!
彼は彰が去るのを見送り、葵に向かって言った。「母さん、義理の叔母さんって何だ?」
葵は鉄が鋼にならないのを遺憾として、彼を見つめた。「お前の叔父さんはこういうパーティーに参加するのを好まないわ。今回の婚約パーティーに出席すると承諾したのは、一つには私が頼んだから。
「もう一つは未来の妻を連れてきて、岡田家の人々に岡田奥方を見つけたと伝える。そうしたら、あいつらが細工を弄するのも諦めるでしょう」
「理解できない」悠人はその意味が分からなかった。
「あなたも知っているでしょう、お祖母さんがどうやって亡くなったの?岡田家が今どんな状況なの?三叔父は岡田家の大権を握っているけど、健在であるお祖父さんの傍には別の女性と産んだ私生子がいて、岡田家を狙っているのよ」
これ以上詳しく説明する必要はなかった。
岡田家の状況は複雑で、表で彰に対抗できない人々は、彼の結婚を利用して揺さぶろうとしていた。
「彰は適合な結婚相手を見つけたはず。あなたの婚約パーティーで公表するつもりなの。これは派手にせず、知るべき人々に知らせる絶好の機会なのよ」
「叔父さんの周りに女性がいるのを見たことがない」
義理の叔母の話があまり唐突で、悠人は驚いたものの、好奇心を沸いた。
悠人は幼い頃から彰を崇拝していた。特に彰が落雷のような手段で岡田家の権力争いで勝利したことで、彼を神のように崇めていた。
彰の傍にいる女性がどんな人物なのか想像するのは難しかった。
きっと高貴で上品で、女神のような存在だと彼は思った。
「瀾莊に数日滞在したい」と悠人は突然言った。
瀾莊は彰の私邸だった。
葵は一目で悠人の企みを見抜いた。「叔母さんのことより、先に結衣との関係についてよく考えなさいよ」
「彼女との間に何があるというんだ?彼女が謝って、性格を改めるなら、許すと言ったじゃないか」
「さっき三叔父がここにいたから、彼の前に言えなかった。悠人、結衣がなぜあなたと別れたいのか、よくわかっているはずよ」葵は冷え冷えとした表情で端的に告げた。
「俺が何人かの女と遊んだくらいで何を怒ってるんだ?」悠人は激怒した。「結衣は正式な彼女で、松永家の奥さんの座も彼女に渡すんじゃないか」
「今日、なぜ結衣と会ったか知ってる?」葵は尋ねた。
「彼女はただあなたに言いつけて、俺に頭を下げさせようとしてるだろ...」
「彼女は6千万円を振り込んできた」
葵は悠人の言葉を遮った。「人に計算させた。結衣を学校に入学させて以来、これまで彼女に用意した物やプレゼント、食事などを合わせてちょうど6千万円、多くも少なくもないわよ」
「それはどういう意味だ?」
「彼女はあなたとうちとの縁を切りたいのよ」
「その度胸があるか!」悠人はすぐに激怒した。
「彼女はあなたと別れることを決めたの。この婚約パーティーには別の人を探さなければならない」
「彼女はただ…… 」悠人は罵ろうとした時、突然止まった。「6千万円を振り込んだって?」
「ええ」
悠人は突然何かを思い出して笑い出した。
「彼女には6千万なんてあるわけがない、この6千万は…… 」きっと家からもらったのだ。
「母さん、結衣に伝えてくれ。彼女がきちんと謝らなければ、僕は絶対に婚約しないぞ」悠人は高慢に顎を上げた。
葵は眉をひそめた。「どういう意味?」
「まあいい、あなたが言わなくても、誰かが彼女に伝えるだろ」
悠人は人を呼んで縛りを解かせ、葵の表情も気にせずに立ち去った。
……
厨房で。
結衣は一人で壁に寄りかかっていた。スタッフは既に彼女が選んだものを包装し、外の車に届けていた。
彼女は時間を数えてみると、話し合いが終わるはずだと思っ、厨房を出て葵を探しに行こうとした。
しかし結衣が厨房を出て廊下を通してレストランに戻ろうとした時、突然背後から腰を掴まれ、身体が持ち上げられ、足が宙に浮いた。
同時に、馴染みのある清らかな白檀の香りが鼻をくすぐった。
結衣は仰天して振り向くと、芸術品のような顔が目に入った。
「どうしてここに?」彼女は思わず口にした。
あのハンサムなヒモだった。
男は返事をせず、彼女を抱えたままトイレのドアを押し開け、洗面台の上に置いた。同時に男性の悲鳴が響いた。
結衣は向こう側に用を足している男性がありそうで、はっきり見る前に目を覆われた。
「出ていけ」
彰は視線を流して辺りを見渡し、威圧的な雰囲気が漂わせている。
この光景に驚いた男は一瞬呆然として、そして慌ててズボンを上げて男子トイレから消えた。
「やはりお前だったか」彰は感慨深げに言った。
結衣は彼の手を払いのけ、不思議そうに口を開いた。「あなた…… んっ!」
彼女は口を開くと、男に舌を侵入する機会を与えた。彼は彼女の後頭部を押さえ、彼女を後ろの鏡に押し付け、極めて強引なキスをした。結衣の舌先がしびれ、かすかに痛みを感じた。
最後には罰するかのように結衣の下唇を噛み切り、滲み出た血を吸った。
結衣は急いで彼を押しのけた。「何をしているの?」
「もっと激しく遊んでる」
「何ですって?」
「若い子は情熱的なのが好きだろう?」
情、情熱?
結衣が呆然としている時、彰の手が服の裾から入り込み、背中を何度も往復もして、ついでに下着のホックを外した。
胸元がゆるむと、結衣は急いで彰の手首を掴んだ。
彼女が何か言おうとした瞬間、外から男子トイレのドアが押し開かれ、中に入ろうとした人がこの光景を見て「うわっ」と声を上げた。「こんな激しく遊んでるなんて」
結衣は急いで彰の胸に顔を埋めた。
彼女の心臓はこれほど激しく鼓動したことがなかった。