目を開けると、篠原雅人はベッドのそばに半ば覆いかぶさるように寄りかかり、すでに眠っていた。
岩崎佳奈がただ指先を少し動かしただけで、彼は一瞬で目を覚まし、彼女の手のひらをぎゅっと掴み、目には焦りの色が満ちていた。
「佳奈!起きたの?」
「まだ辛い?」
彼は彼女を抱きしめ、声は優しさに満ちていた。
「熱を出しているのに、なぜ靴も履かずに歩き回るんだ?」
彼に強く抱きしめられ、佳奈はただ煩わしさを感じた。
特に彼の体から漂ってきた、かすかな女性の香水の匂い――
それは雲井玲香の体臭だった。
佳奈はそれに気づくと、口を開けて「うぇっ」と吐きそうになった。
雅人は顔色を失い、慌てた。「どこか具合が悪いのか?」
「具合は悪くないわ」佳奈は自分の胸に手を当て、目を閉じた。「ただ、あなたの体についた香水の匂いが駄目で」
雅人は動きを止め、急いで立ち上がった。「雲井先生は香水をきつく付けるから、付いてしまったんだろう」
「すぐに着替えてくる」
雅人は佳奈に背を向けてシャツを脱いだ。
薄暗い灯りの中、佳奈は彼の肩にあるシールを見た。
「あれは何?」と佳奈は尋ねた。
「悠斗がふざけて遊んでいる時に貼ったものだよ」雅人は困ったように言った。「子供だから、ちょっと遊び好きでね。彼はまだ君に慣れていないだけだ。悲しまないで、そのうち慣れるから――」
佳奈はただ淡々と頷くだけで、何も言わなかった。
雅人は着替えを終えると、靴を脱いでベッドに上がり、佳奈を抱き寄せようとした。
彼の手が佳奈の腰に触れた瞬間、彼女は無意識に彼を押しのけた。
雅人はその場で固まった。「佳奈?」
彼の声には、少し委屈さえ感じられた。
「どうしたんだ?」
佳奈はただ苛立ちを覚えながら、彼からさらに離れ、冷たい口調で言った。「したくないの」
「まだ具合が悪いのか?」雅人は彼女の背中を見つめ、突然心に空虚感を覚えた。「わかった、無理強いはしない――少し外の空気を吸って、気持ちを落ち着けてくる」
佳奈は彼を止めなかった。
彼女は依然として雅人に背を向けたまま、彼がガサガサと靴を履く音を聞き、そして部屋を出ていく音を聞いた。
そして間もなく、佳奈は雲井玲香からのメッセージを受け取った。
次々と送られてくる動画だった。
雅人と彼女が、あの休憩室で激しく絡み合う姿、狂おしいまでの情事の様子。
佳奈は冷静に、一分一秒も見逃さず、すべての動画を一通り見た。
そして突然、玲香の首筋に、雅人の体にあったものとペアになるシールを見つけた。
調べてみると、それは『ペッパピッグ』のシールだった。
雅人の体にあったのはダディピッグで、玲香の体にあるのはマミーピッグだった。
間違いなく、ペッパのシールは悠斗の体についているはずだ。
なんて幸せなペッパ一家なのだろう。
佳奈の目の奥に極めて皮肉な冷笑が閃き、携帯を取り出し研究室にメッセージを送った。
『アンナ先生、進捗はどうですか?』
相手はすぐに返信してきた。『すべて準備完了。いつでも計画を始動できます』
翌日、雅人は佳奈の退院に付き添った。
彼女が助手席のドアを開けた瞬間、車内の違和感を敏感に察知した――
座席はとても狭い位置に調整されており、小柄な女性でなければ座れないほどだった。
座席の前には、ペッパピッグ一家のフックが三つ貼り付けられていた。
ドアの側面には、さらに女性らしさ満点のバンスクリップが置かれていた。