Kabanata 2: レストランと後輩
May-akda: Pactera-novel
赤木思雨（あかぎ しう）は、彰人にとって、知っているようで知らない赤の他人だった。
見知っているのは、長い付き合いのためだった。実際、旧友と呼んで差し支えない。二人は中学時代からの知り合いで、当時はまるでパートナーのような関係でもあった。
赤の他人になったのは、数年前からお互いが徐々に疎遠になったためだ。今の彼には、相手が一体何を考えているのか、まったく見当もつかなかった。
彼女は最近、頻繁に連絡を寄こし、まるで昔の仲に戻りたいかのような意思を見せていた。しかし、彼にはその真意が読み取れなかった。
というより、彼はその真意を知りたいとも思っていなかった。
「王国のほうでは、先月新しい魔法少女花札の評価リストを発表したの。一気に二人の新人が加わったのよ」
例えば今もそう――。
女性はワイングラスを手に、杯を交わしながら、からかうような表情で話しかけてきた。
正直なところ、彼女はすでに三十を過ぎているはずだが、手入れが行き届いているのか何なのか、目の前の女性は色気を失わず、いまだ若々しく、美しく見えた。
彼はそれを聞いて、手の動きを一瞬止めた。しかし、無表情を崩さずに返答した。「今、そんな話をする意味があるのか？」
思雨はふっと笑みをこぼした。「後輩たちに注目するのは、意味のないことなの？」
グラスを傾けてレモン水を口に含み、彰人は淡々と言った。「それはもう、俺とは何の関わりもないことだ。注目する理由なんてあるか？」
「そんな嘘、身内には通用しないわよ」思雨はグラスを揺らしながら、じっと彰人を見つめた。「あなたは、それを無関係にできないでしょう？」
彼女もまた、赤ワインを静かに口に含み、わずかに唇を濡らした。そして意味ありげに言葉を落とす。「だって、あなたはかつて――」
「これ以上はもういい」
彰人の低い声に、思雨の言葉は途中で途切れた。その瞬間、テーブルの中央で、指が小さく叩かれる音が響いた。
彰人は人差し指をテーブルに置いたまま、視線を合わせようとはしなかった。
「言ったはずだ。俺は、それについて話したくない」
二人の間に、重たい沈黙が落ちた。言葉の余韻だけが漂い、時間がゆっくりと引き延ばされたかのようだった。
思雨はじっと彼を見つめていた。そして――やがて唇の端をわずかに持ち上げ、意味深な笑みを浮かべた。
「いいわ。それなら無理に話さなくていい」思雨は軽く肩をすくめ、グラスを指で弄びながら続けた。「代わりに……あなたが前に買った家の話でもしましょうか？」
こうして話題は、再び日常の些細なことへと戻っていった。
彰人は気乗りしない様子で料理をつつき、思雨は微笑を浮かべながらワインを傾けていた。
高級レストランの空気は洗練され、上品そのものだった。夕食は、ウェイターたちが丁寧に皿を差し替えるたびに、ゆっくりとしたリズムで進行していった。
食事会が半ばを過ぎたころ、向かいに座る女性が、突然、彰人が無視できない話題を切り出した。
「ああ、そうそう――もう一つあるの」
その言葉を口にしたとき、思雨の酔いは明らかに回っており、口調も粗くなっていた。「芳亭市の新人魔法少女が、今日――私たちとつながりを持ったのよ」
テーブル越しに、彼女の魅惑的な笑みが心をかき立てた。「どう？これはあなたと関係あるかしら？」
二人はテーブルを挟んで向かい合い、鮮やかな対比を作っていた。思雨は若々しく、美しさを保っているのに対し、彰人の顔は精神的に疲れ切り、まるで人生の荒波をくぐり抜けてきたかのような険しさを帯びていた。
真相を知らない者が見れば、この二人には少なくとも十年以上の年齢差があると思い込むだろう。だが、彼らが実は同年代だとは、誰も想像できまい。
「少し聞いたことはあるけど……で、何が言いたいの？」
彰人は片手にグラスを持ち、レモン水をひと口含む。相変わらず、あまり関心がないふりをしていた。
「え、もう聞いてたの？ あなたの情報網、私の想像以上に優れてるのね。私が公式の立場なのに、なんだか負けた気分……」
酔った彼女はその言葉を聞くと、少し大げさに目元をぬぐった。
「公式の立場を自覚しているなら、公の場で内部情報を声高に喧伝すべきではない」
彰人はテーブルを軽く叩いて彼女の言葉を遮った。「それと、レストランで変な声を出すな。周りの客が奇妙な視線でこちらを見ているのが分からないのか？」
「今、三十五歳って言った？あなた、独身のアラフォー先進女性を嘲笑ってるの？」思雨は目を大きく見開いた。
「誰も三十五歳なんて言ってないし、年齢の話も出てないわ。話をごまかさないで、本題に戻りなさい」
一日中の忙しさで疲れ切った彰人は、思雨の騒がしさを耳にするたび、こめかみがズキズキと痛んだ。
もし相手からの一本の電話がなければ、今頃は家のソファでくつろいでいたはずだ。それなのに、値段の張る高級レストランで、酔った女性の酔狂を聞かされている。
「本題？」
テーブルの向こうで女性は首をわずかに傾げ、年齢に似つかわしくない可愛らしさを見せた。「少しおしゃべりしたいな、ってところかしら？」
「……さっき言ってた、魔法少女の件だ」
「え？あなた、もう知ってるんでしょ？」
「知ってたら、もう言わないつもりなのか？」
「言わないの？」
「早く言え」
「私に意地悪するの？今夜は私がおごるのに！」
彰人は、自分の血圧が大きく上下するのを感じた。
酔った人間に道理を説いても無駄だと分かっていたが、目の前の女性の酔った戯言も十分に頭痛の種だった。
相手は、通常の食事会なら適当にやり過ごせる協力者ではなかった。自分が実際に言葉を交わさなければならない人物だったため、食卓での会話は格段に難しいものとなった。
「その場違いな意地っ張りな感情はひとまず脇に置いてくれ。で、新しい魔法少女の状況を教えてくれないか？最近現れたのか、どれくらい活動しているのか、彼女たちとの連携はどの程度まで進んでいるのか？」
そこで彰人は、相手の会話のリズムから抜け出し、主導権を握った。そして、自分が求める情報をはっきりと直接的に求めることにした。
言葉の中で触れられた「連携」とは、実は都市政府が魔法少女に対して取る姿勢のことを指していた。
この世界には、超常の力が確かに存在する。
残獣も魔法少女も、明らかに一般人とは異なる存在だった。
残獣は世界のあらゆる場所に現れる可能性があり、魔法少女もまた、あらゆる都市に存在している。
したがって、各都市は明示的であれ暗黙であれ、特別な機関を設置し、一部の能力者や異能者を受け入れて、残獣に関わる事案の処理に当たっている。同時に、都市内の魔法少女と連絡を取り合い、支援しつつ、効率的かつ低リスクで残獣を排除し、一般市民を守る活動を遂行していた。
長い年月を経て、これはやがて一つの伝統となった。
魔法少女との連携と残獣事案の処理を担う政府機関は、「異常襲撃対策局」、略して「異策局」と呼ばれていた。
異策局は都市内の魔法少女と連絡を取り、善意を示し、援助を提供して協力関係を築くことを担当しており、これはすでに標準的な手順となっていた。
そして、目の前の思雨――実は彼女も異策局の一員だった。
だからこそ、彼女は自らを「公式の人間」と名乗り、魔法少女に関する情報を口にしたのだ。
「あはは……何の話をしてたっけ？魔法少女のこと？」
ますますはっきりと話せなくなった思雨は目を細め、まるで脳内に残った理性を必死に探すかのように言葉を詰まらせた。「あっ、そうだ、思い出したわ！魔法少女！それなら、もうすぐ始まるはずよ！」
「……何が、もうすぐ始まるっていうんだ？」彰人はその言葉に、わずかに眉をひそめた。
「つまりね、新任魔法少女のインタビュー報道よ、市のチャンネルで。今夜！」
思雨は一瞬、正気を取り戻したかのように自分の額を叩いた。「見るのを忘れないでね！そうしたら、あなたの質問、全部答えがわかるわよ！」
彼女はそう言い終えると、まるで力を完全に失ったかのように、テーブルに突っ伏した。
しばらくすると、テーブルの向こうから規則正しい呼吸が聞こえてきた。彰人は目を細め、注意深く観察して、この女性が本当にテーブルで眠り込んでしまったことを確認した。
「全部答えがわかるって？どうしてだ？」
彼はもう一度尋ねたが、残念ながらその問いに応える声は、もはや返ってこなかった。
ウェイターを呼び、フロントで食事代を精算してテーブルに戻ると、そこにはまだ伏せたまま、目覚める気配のない思雨がいた。彰人は思わず無力に溜息をつく。
何度呼びかけても反応はなく、仕方なく彰人は思雨を支え、周囲の好奇の視線を浴びながら、レストランを後にした。
彼女の財布から車の鍵を見つけ、ドアを開けて思雨を助手席に押し込み、シートベルトをしっかりと締めた。自分は運転席に座り、静かにエンジンをかける。
夜の道路を、車は静かに思雨の家へと向かって進んでいった。
夕方のラッシュアワーはすでに過ぎ、街の交通は流れるようになっていた。街路の夜景を眺めながら、彰人はふと、気分が少し和らいだのを感じた。
突然、横から一つの手が彼の膝に置かれた。
「先輩……ね」
隣から、思雨のぼんやりとした声が聞こえた。
「どうした？」彰人は横の思雨をちらりと見やり、問いかけた。
「あの……雅子がもう二年近く経つのに、どうしてまだ私のことを考えてくれないの？」
助手席から、少し落ち込んだ声が漏れた。
「まだ結婚してくれないのよ。私がどれだけ辛い思いで待っているか、わかってる？」
彰人はしばらく沈黙した。
彼はその問いに答える気になれず、そもそもどう返せばいいのかも分からなかった。
車は静かに夜道を進み続け、やっとのことで、彼は自分の胸中をどう伝えるべきか思いつき、口を開いた。
「俺は……まだ、自分自身を納得させられていないんだ」
彼は少し間を置き、静かに言葉を続けた。
「まだ……彼女を手放すことに、自分を納得させられていないんだ」
しかし、この長い逡巡の末に紡いだ言葉は、誰にも届かなかった。浅い呼吸だけが車内に響き、この短い沈黙の間に、思雨はすでに再び眠りの中に沈んでいた。
恍惚の中で、彰人はかすかに、まるで軽く啜るような泣き声を耳にした気がした。
「ごめんなさい――」
その声はかすかで朦朧としており、彰人がそれを「ごめんなさい」と理解するまでには、少し間が必要だった。
そして、その声が思雨の寝言なのか、それとも自分の錯覚なのか、彰人にはもはや判別できなかった。
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