「信じるかどうか、好きにすればいいさ」
陳凡は肩をすくめた。もともと許蓉妃の未来の悲惨な運命をここで仄めかして、少しは目を覚まさせてやろうかな、なんて思ってたけど、張雨萌にあっさり話の腰を折られて、すっかりやる気は失せた。
「どうしてこの人、あたしが燕京映画学院を受験したいって知ってるの?それ、この前やっと家で相談したばかりなのに、他の人には誰にも話してないのに」
許蓉妃はそんなことを考えたけど、目の前の2人の親友にはとても口に出せない。ただ何となく、この人、やっぱり不思議な存在感。目が離せなくなる気持ちを、どうにも抑えられない。
その時、スターバックスのガラス壁越しに、キラキラした格好の若い男女の一団が手を振りながら大声で呼びかけてきた。
「きゃ、楊超たち来たよ!」と、張雨萌が飛び跳ねて、外に手を振ったかと思えば、こっちを振り返って、「行こう、今夜のハッピータイムはこれからでしょ!」とニコニコ顔した。
スターバックスに出ると、張雨萌はスタイル抜群のイケメンに勢いよく飛びついて、陳凡が思わず目が細くなる。
楊超!
張雨萌の彼氏であり、前の人生で陳凡がC州で学生をしていた時、最大の敵だった奴。
前世、陳凡が姜初然にアプローチしていたとき、一番邪魔をしてきたのが楊超だった。張雨萌は何かにつけて彼と陳凡を比べて、ことごとくダメ出し。それを見た楊超は、女の子たちの前で自分の優位性を見せつけるのが大好きで、しょっちゅう彼を馬鹿にしてた。
「萌萌ちゃん、こいつ誰?」と楊超は張雨萌を抱きながら、不思議そうに陳凡を見てくる。
この若者たちは、誰もが美男美女ってわけじゃないけど、同世代よりずっと大人っぽくてオシャレな格好してる。そこに若さと勢いが加わって、めっちゃ目立ってる。陳凡はその中にポツンと立って、完全に浮いてた。
「然然のママの知り合いの子。ついてきただけ。」張雨萌がそう言うと、目をキラリと光らせて、楊超の耳元で何かヒソヒソ。
楊超はうなずき、理解を示したが、陳凡を見る目には軽蔑の色が浮かんだ。
彼は自ら手を差し伸べて言った。
「楊超、萌萌のダーリン。実家は天盛ホテルってレストランやってる。ミスキャンパス姜にアタックするなんて、よっぽど大物なんだろうな。家はどんなご立派な家柄なんだ?」
言葉の端々に悪意がにじみ出ていた。
彼は明らかに陳凡に大した背景がないことを知りながら、あえて自分の家庭的背景を持ち出し、陳凡の家族について尋ねた。明らかに皆の前で陳凡の面目を潰そうとしていた。
陳凡は彼を見もせず、両手をポケットに入れたまま、淡々と二文字を吐き出した:
「陳凡」
前世では楊超はよく彼を踏みつけていたが、今世に戻ってきた今、彼に面子を与える必要はなかった。
「へぇ、なかなか個性的じゃん!」楊超は一瞬キョトンとして、周りを見回す。みんなニヤニヤしてる。まさか楊若旦那のメンツをつぶす奴がいるとは思わなかったらしい。
陳凡をじろじろ見ながら、うなずいて言う。「おっけ、同じ学校なんだし、これからじっくり遊ぼうぜ。」
それきり陳凡を無視して、みんなを集めてこれからの予定を話し始めた。
許蓉妃はちょっと心配そうに陳凡をチラ見。楊超って、絡むとヤバい奴だよ。
かつ楊超を怒らせた奴が、バスケ部の一団にボコられて足を折られて、結局退学した。楊超の実家、金持ちらしく、後でたっぷり賠償金払って、相手の許しを得たらしい。だから学校じゃ、誰もコイツに逆らわない。
陳凡は「大丈夫だよ」って目で返してやると、彼女は「ふんっ」とそっぽ向いた。好意で気にしてやったのに、ムカつく奴!
ひどい!
「まだ時間早いし、まずカラオケ行こう。歌い終わったら俺んちのホテルでディナー。萌萌の誕生日パーティー、盛大に用意したぜ。その後は城中区のバー街、全部制覇!今夜は誰も先に帰るなよ!」
楊超の言葉に、みんなが「うおー!」って盛り上がる。
「新都区に新しくできたKTV、ロイヤルエンターテイメントってとこ、いい感じらしいよ。そこ行こうぜ。」名ブランドに身を包み、高級時計つけて、メイクバッチリの美女を連れた金持ちの二世が提案。
「よし、ロイヤルエンターテイメントで決まり!」楊超が決定。
「ったく、このノリ、朝まで遊ぶ気満々じゃん。そりゃ唐おばさんも心配するわけね。」
陳凡は外に立ち、気持ちはいらだった。彼は今夜、魏傅の傷を治療する予定だったのに、そんなに時間はなかった。
市の中心部から新都区までの距離は短くない。
この若者たち、15、6人なのに、6、7台の車でやってきた。
アウディA4、BMW330カブリオレ、プジョー308CC。超高級車ってわけじゃないけど、2007年のC州じゃ十分イケてる。何より、こんな若造が数十万の車を乗り回してるってのが、バックグラウンドのスゴさを物語ってる。
その中でも一番目立ってるのが、楊超のポルシェ・カイエン。4.8Tモデルで、200万以上。張雨萌の三人娘は、当然のようにその車に乗り込む。
楊超はこのグループのリーダー格として、当然のように仕切り役。車割り当ての最後、みんなが乗り込んだら、陳凡だけポツンと残された。
そのとき、楊超が急に陳凡に気づいたふりして、頭をパチン。
「おっと、兄弟、忘れてた!俺のミス、ミス!」
まるで「てめえをハメてやる」って顔しながら、めっちゃ申し訳なさそうに言う。
「ほら、もう全部埋まっちゃってさ。悪いけど、タクシーで来てくれよ。新都区のロイヤルエンターテイメントなら、運転手なら誰でも知ってるから」
その言葉に、周りの車からドッと笑い声。
誰もこの異物感満載のよそ者に肩入れするつもりなんてない。コイツがカッコつけてポケットに手突っ込んでるのが気に食わない。姜初然への言い寄りだけで、みっともなくさせたいってわけ。
まだ空席がある車はいくらでもあるのに、誰も楊超のメンツをつぶす気なんかない。
陳凡はちょっと眉をひそめて、楊超を冷たく一瞥。このガキ、会った瞬間から絡んできやがって、マジでやり返されないとでも思ってんのか。
車の中から、姜初然は陳凡が二世どもにバカにされてるのを見て、ちょっと眉をひそめた。
どんなにしても、陳凡は母親に頼まれて一緒に来たんだ。これでバカにされたら、自分のメンツも丸つぶれ。ちょうど口を開いて、楊超に席を用意させようとしたとき。
窓に張り付いてた許蓉妃が突然、「ねえ、私の隣、詰めれば乗れるよ」
その言葉に、みんなポカン。姜初然まで変な目で彼女をチラリ。
楊超は内心、『許蓉妃、今日どうした?こいつに気あり?』
冗談じゃねえ。常青藤中学校で、ミスキャンパス許が目が高いって知らない奴なんていない。楚明輝をはじめ、すげえ追っかけがいっぱいいたって、彼女がハッキリした返事したことなんてねえ。
助手席の張雨萌は白い目で、「お嬢様、またお人好し発動?はいはい、わかった。ほら、陳凡だっけ?前に乗りなよ。後ろ行くから。」
彼女は車から飛び降り、助手席を空けて、後部座席に潜り込む。カイエンはオフロード車で、スペース広々。女三人で後ろに座っても全然キツくない。
陳凡は意外そうに許蓉妃をチラリ。この子、前世と同じで根は優しいんだな。前世、楊超に何度もハメられたとき、いつも許蓉妃が助けてくれた。
何も言わず、黙って車に乗り込む。
「よし、出発!」楊超は自分の挑発が失敗に終わって、内心ムカついて、陳凡をギロッと睨んで、アクセルをガツンと踏み込む。一番に飛び出した。
後ろから、車が次々バーッと走り去る。
.....
新都区はC州で最近ガッツリ開発されたエリアで、めっちゃ賑わってる。新しいレストラン、ホテル、KTVとか、娯楽施設がバンバン建ってる。
陳凡たちが到着したとき、ロイヤルエンターテイメントKTVはすでに明るく輝いていた。
ロビーには、制服着たスタッフがズラッと並んで、みんなくそくらえって感じのルックス。出迎えた瞬間、一斉にお辞儀して挨拶。
ロイヤルエンターテイメントを提案した金持ちの二世が一番前を歩いてて、彼を見たロビーマネージャーが慌てて駆け寄ってくる。
「友達の誕生日なんで、いい部屋用意して?帝王ホール、空いてる?」
「申し訳ありません、俊さん、今日オーナーがVIPを接待してて、帝王ホールは予約済みです。クイーンホールならどうでしょう?」
俊さんって呼ばれた二世は楊超をチラリ。問題なさそうなので、うなずく。
張雨萌の誕生日だから、当然彼氏のおごり。
その後、洋酒、ドラフトビール、フルーツ盛り合わせを適当にオーダー。マネージャーの期待の視線の中、楊超はドーンとレミーマルタン・ルイ13世を2本開ける。1本25万くらい。マネージャー、ニヤニヤが止まらねえ。
豪華絢爛な個室に座って、陳凡はまるで水に浮かぶ油みたいに、完全に浮いてるのを感じた。
周りにはオシャレな男女がいっぱいいるけど、みんなくそくらえって感じで顔見知り。知らないのは陳凡だけで、なんとなくハブられて、孤立。
話しかけようとしても、所詮別の世界の人間。話したくても、話が合わねえ。
陳凡にもその興味はなかった。
隅っこに引っ込んで、ヘネシーXOをグラスに注いで、チビチビ飲みながら、姜初然を説得して早く帰ろうかと考える。
魏傅との約束、今夜ケガを治すって話だった。誕生日なんて飯食って終わりだろ、って思ってたのに、カラオケだ、パーティーだ、バーだ、なんて、こんな時間まで付き合ってられないよ。
みんな順番に歌うけど、マイクが陳凡の手に渡ることは一度もなかった。
予想通り、一番上手いのは許蓉妃。みんなのノリで、彼女は天后の『流年』をチョイス。なんと王菲の雰囲気まで出して、拍手喝采。
「さすが、未来の名優だな。」陳凡は思い出す。前世、許蓉妃は常青藤中学校の代表で全国高校生音楽コンクールに出て、1等取った。学校のイベントじゃ、いつもトリを飾る存在だった。