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2007年の夏休み、湖東省C州市Z県から市内へ向かう金竜バスの中。
Z県は市内から遠く離れており、しかも夏だったので、バスの乗客たちは皆うとうとしていた。
そんな中、身長170センチほど、色白で、ざっくりとした短髪の、どこか中性的な顔立ちの少年が、不意に悪夢から飛び起きた、呆然と周囲を見回し。次の瞬間、何かに思い至ったのか、その顔色がサッと変わる。
彼の胸中が、まるで狂うのように震撼していることなど、誰一人知る由もなかった。
「まさか……これって、07年の夏休みにZS県からC州の高校3年に編入するために乗ったバスの中じゃないか?」
「なんで俺がここに?天劫を渡っている最中だったはずだ……!」
「ってことは……まさか?」
「俺……戻ってきたのか?」
陳凡の目には、信じられないという表情が浮かんだ。
「この俺、陳北玄は天劫で滅びず、まさか地球の、ガキの頃に生まれ変わったってことかよ!?」
......
北玄仙尊こと陳凡、またの名を「陳北玄」。彼は真武仙宗の蒼青仙人が直々に教えを授けた真伝弟子。前世では30歳頃、宇宙を旅する蒼青仙人によって地球から連れ出され、そこから修仙の道へと足を踏み入れ、気づけば500年の月日が流れていた。
その才能は凄まじく、わずか五百年で「渡劫級」の境地に到達。修仙界数千年の歴史においても、最も天劫を乗り越え、この宇宙を超脱し仙界へと飛昇する可能性を秘めた、稀代の天才と謳われた男だ。
更には宇宙を股にかけ五百年、星々の万族と戦い、一度も敗れることなく、修仙界において「北玄仙尊」として、その名を轟かせていた。
けれど、彼の行く末は、最後の最後で天劫に敗れ、散ったのだ。
仙劫が目前に迫った、まさにその瞬間。
陳凡は気づいてしまった。盤石だと思っていた己の道基が、あまりにも速すぎる修行のせいで土台が不安定であり、実は欠陥だらけだったという事実に。
そして、勇猛果敢で、盤石のごとしと信じていた道心もまた、心魔劫の前にはあまりにも脆かった。
その原因は、陳凡がこの500年間、修練のためだけに全てを切り捨て、数え切れぬほどの後悔と、取り返しのつかない無念を積み重ねてきたことにあった。それらは普段、心の海の底深くに押し込められていたが、心魔劫が訪れるや否や一気に噴出し、彼を逃れられなくしたのだ。
陳凡は試しに体内の感覚を探ってみるが、かつて星辰をも砕くほどに澎湃たる法力は、影も形もなくなっていた。
あれほど強大で、百の劫にも滅びぬとされた元神すら、その痕跡すらない。
「どうやら、これは心魔劫ってわけじゃなさそうだな。マジで……戻ってきたのか」陳凡は眉をひそめ、何事か考えるように目を伏せた。
渡劫級の修行者たる陳凡の知見をもってすれば、心魔劫が構築する幻境がいかにリアルであろうと、渡劫仙尊の500年に及ぶ血の滲むような修行の全てを完全に奪い去ることなど不可能であり、現実の宇宙とは微細な差異が存在することは自明だった。
「今の俺の体内は空っぽだ。法力も、神通も、元神も、道心も、果ては法宝、道器、神兵に至るまで、全部消えちまってる。法力や神通なんざ未来の俺のもんだ、過去に持ってこれるはずもねえ。今の俺は、鶏を締める力もない、ただの凡人……銃弾一発でくたばっちまうだろうな」
かつて永年の苦修で得た功力が全て失われたというのに、彼には微塵の落胆もなく、むしろ笑みがこぼれた。
「それもいい。前世じゃ修行が速すぎて、土台がグラグラだったからな」
「今世こそ、一歩一歩着実に、全ての境地を極限まで修め上げ、無上道基を築き上げてやるさ」
そう笑いながらも、彼の眼差しは次第に鋭さを増し、まるで火焔が揺らめいているかのようだ!
「それに……かつて俺を傷つけた敵ども。今世じゃ、きっちり借りを返させてもらうぜ」
「一生の後悔として刻まれた出来事も、二度と起こさせやしない」
過去に起きた出来事は、どれだけ修行に没頭しようとも、彼が片時も忘れたことなどなかったのだ。
「母さん、父さん、安お姉、そして瓊……俺、戻ってきたよ」
「今度こそ、もう逃げも隠れもしない!誰にもあなたたちを傷つけさせたり、辱めさせたりはしない!」
彼は俯き、ぐっと奥歯を噛み締めた!
......
陳凡は前世、C州市下属のZ県にある、一見普通だが実はそうでもない家庭に生まれた。
父親の陳恪行は湖東省都の金城市の出身で、母親の王暁雲は華国燕京城の大家族の出身だった。
その家族は首都燕京でも指折りの名門だった。
二人は大学の同級生で、自由恋愛の末に結ばれた。だが、当時の社会は保守的で、結婚は親が決めるもの。ましてや燕京王家のような名門なら尚更だ。
結果、当然のように王家からは猛反対され、陳凡の母方の祖父に至っては、彼女と父娘の縁を切るとまで言い放った。
それに激怒した王暁雲は家族と決別し、陳恪行を連れて燕京を離れ、湖東省へと戻ったのだった。
陳恪行は、王家に自分たちが彼らの娘に相応しいと証明するため、省都の金城に留まることを選ばず、自ら望んでC州市のZ県に配属され、一からキャリアをスタートさせた。
十数年、何のコネも頼らず、一歩一歩着実に、実力だけで今の地位まで上り詰めた。だが、それでも王家との差は、あまりにも大きすぎた。
だから、陳凡が生まれ、双方の態度が少し和らぎ、陳凡の母方の祖父が王暁雲に夫と息子を連れて燕京で正月を過ごすことを許した時、陳凡一家は意気揚々と燕京へ向かったものの……
彼らを待ち受けていたのは、親戚中からの冷たい視線と嘲笑だった。
王家の人間からすれば、王暁雲と陳恪行は当主の命令に背き、どこの田舎とも知れない片隅へ逃げて勝手に結婚し、子供まで作り、王家に燕京の名門サークルで大恥をかかせたというのに、どの面下げて戻ってきたのか、というわけだ。
陳恪行のささやかな出世など、王家の人間にとっては笑い草でしかなかった。
そこまで考えて、陳凡は首を振り、口元に微かな笑みを浮かべた。
「王城よ、俺が戻ってくるとは思わなかっただろう?」
「前世じゃ、父さんも母さんも、そして俺も、必死こいて努力したって、王家とお前を見上げることしかできなかった。父と母の一生の努力も、お前たちの目には冗談でしかなかった」
「母生涯負けず嫌いだったが、ただ何かを成し遂げて王家の人に認められたかっただけなのに、あんな結末を迎えることになった」
「今世、俺が戻ってきた。今は普通の人間に過ぎないが、修行を取り戻したら、必ず燕京に行き、お前たち王家の門を叩き壊し、本当の高みというものを見せてやる!」
王城は陳凡の従兄で、王家の若い世代で最も優秀な人物だった。陳凡は前世、必死で彼を超えようとしたが、結局、自分と王城との差がますます開いていくのを、まるで天と地ほどの隔たりがあるかのように、絶望的に見つめることしかできなかった!
陳凡が最後に王家の人間と会ったのは、母親の葬儀の場だった。その時、王家は第三世代の若造を一人、葬儀に出席させただけだった。
やって来たのは、王城だった!
彼の母方の祖父も、祖母も、叔父も、叔母も、誰一人として来なかった。実の娘、実の妹の葬儀だというのに!
あの時の王城は、背が高く、ハンサムで傲慢不遜、眩いばかりのオーラを放ち、華族の子弟が相応しいに、大勢の人々に囲まれて中心にいた。
彼の周りに付き従う人々は皆、陳凡が普段、門を叩いて頼み込んでも相手にされるかどうか分からないような大物ばかりだった。
すでに500年が経過しているが、王家の人々の顔を思い出すと、未だに彼の胸を苛み、不快にさせた。
修仙道とは、己が心にまっすぐに向き合うこと。自在にして逍遥たることであり、心を清く欲望を少なくし、徳をもって怨みに報いることではない。
かつての怨恨を晴らさず、心の中に溜め込んでしまえば、普段は道心で抑え込めても、いざ心魔劫が来たならば、たとえ幾千万年の修行を積んでいようとも、塵芥と化すのだ!
......
「そういえば、王家はともかく、沈君文の家は、この頃ならもうC州の一番金持ちだったはずだな」
窓の外のC州の景色を眺めながら、陳凡はふと思い出した。
沈君文を思い出すと、瓊のことも思い出した。
一生愛し、一生悔やんだあの女性。
まさに彼女が心魔劫に現れたことで、陳凡は最終的に道心が崩壊し、抵抗を諦め、天劫に灰と化したのだった。
「前世、お前は俺から瓊を奪い、事業を破産に追い込み、惨めにC州に戻らせ、家族の手配で小さな会社員になり、朝九時から夕方五時まで働き、夢のない生活を送らせた」
「あの時、お前はどれほど得意げだったことか。そして俺は犬のように片隅で傷を舐めるしかなかった」
そこで、陳凡の目には、思わず鋭い光が宿った。
沈君文!
華夏不動産業界の巨頭、万栄グループの取締役、湖東省一の富豪の息子、瓊の同級生。
そして彼の前世最大のライバル!彼は瓊を奪っただけでなく、錦綉グループ崩壊の元凶でもあった。
「前世、俺と方瓊は幼なじみで、幼い頃に別れ、大学で再会し、二人とも永遠に一緒にいられると思っていた。結果、お前に横やりを入れられ、方家からも猛反対された末に、瓊から引き離されることを余儀なくされた」
「最後に同窓会で会った時、瓊の婚約の知らせを聞いて、あの時、俺の絶望がどれほどのものだったか、お前にはわかるまい?」
「もし蒼青仙人が地球を通りかからなければ、俺はあのビルの屋上から飛び降り、この悲しい人生を終わらせていただろう」
陳凡は静かに語った。
これらの出来事は彼にとって数百年前のことであり、本来なら忘れ去られているはずだった。しかし彼の淡々とした一言一句は、北極氷原から吹き付ける万古の寒風のようだった。
「飛び降りる直前のあの瞬間を、俺は決して忘れない。あれ以来、陳凡は死に、生きているのは陳北玄、真武仙宗の北玄仙尊だ」
「お前のおかげで、俺は一心に修練し、勇猛精進し、500年で渡劫を成し遂げた」
「恩返しをすべきだと思わないか?」
陳凡の顔には皮肉な笑みが浮かんでいた。
もし前世の陳凡の人生が失敗だらけだったと言うなら、沈君文はまさに順風満帆と言えただろう。
母親が亡くなり、事業が失敗し、人生の前半を貧困と不遇のうちに過ごした大きな原因は、沈家からの圧力にあったのだ。
前世の陳凡は、沈君文の前で完膚なきまでに打ちのめされ、事業も、人生も、そして愛さえも彼に奪われた。
そう思うと、陳凡の目に冷たい光が強く宿った。
「沈君文、方家、王家、そして王城……」
「まさか、俺が生まれ変わって戻ってくるとは、思ってもみなかっただろうな!」
「今世こそ、てめえらから全てを奪い取り、かつての屈辱を一つ残らず返してやるぜ!」
前世、彼の最初の30年は貧困と不遇に満ち、人生は失敗の連続で、数え切れないほどの冷たい視線と嘲りを浴びせられた。
今世、彼は500年の修仙の記憶を携えて生まれ変わり、ただただ思う存分に恨みを晴らし、胸に溜まった不平不満を全て吐き出すことだけを望んでいた!