第6話:決別の証明
[鬼塚詩織の視点]
祖母が私の手を握りながら、暁に向かって深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございます。詩織をよろしくお願いします」
暁は慌てて祖母を支えた。
「頭を上げてください。こちらこそ、詩織をいただいて感謝しています」
彼の丁寧な態度に、祖母の目が潤んだ。
「きっと幸せになってね」
祖母の言葉が胸に染み入る。今まで誰からも祝福されたことなんてなかった。
招待客たちが私たちの周りに集まってきた。
「お似合いの美男美女ね」
「本当に素敵なカップル」
「さっきまで騒いでた連中、ピエロみたいだったわね」
人々の称賛の声が聞こえる。つい先ほどまで私を嘲笑していた人たちが、今度は手のひらを返したように祝福してくれている。
晃牙、智也、拓海は会場の隅で顔色を失っていた。特に晃牙の表情は見るに堪えないほど青ざめていた。
でも、もう彼らのことなんてどうでもよかった。
「詩織」
突然、晃牙が私の腕を掴んだ。
「いつまで芝居を続けるつもりだ」
彼の目は怒りに燃えていた。
「お前が俺への当てつけでこんな茶番を演じてるのはわかってるんだ。いい加減にしろ」
私は彼の手を振り払った。
「私は今日結婚するの。あなたが信じようが信じまいが、私にはもう関係ない」
「嘘だ!」
晃牙が声を荒げた。
「お前は俺なしじゃ生きていけないくせに!」
私は冷静にウェルカムボードを指差した。そこには【新郎月城暁】と大きく書かれている。
「これが見えないの?」
さらに招待状を取り出して、晃牙の目の前に突きつけた。
「ここにも【新郎月城暁】って書いてあるわ。これでもまだ芝居だって言うの?」
晃牙の顔から血の気が引いた。彼の傲慢な思い込みが、現実によって粉々に打ち砕かれた瞬間だった。
「そんな...まさか...」
彼は呆然と立ち尽くしていた。
私は過去を思い返していた。
あの日、晃牙から久しぶりに電話がかかってきた時、私は心が躍った。もしかしたら、彼が私の気持ちに応えてくれるのかもしれないと。
でも、すぐに現実に引き戻された。
――あの誕生日のことを思い出したから。
みんながはやしたてる中、彼は私を突き飛ばした。