第10話:破滅の宣告
[雪乃の視点]
――あの日のことを思い出す。
一年前、流産で入院していた私のもとに、沙耶が見舞いに来た時のことを。
高価なブランドのワンピースに身を包み、まるでファッション雑誌から抜け出してきたような装いで現れた彼女は、病室のドアを開けるなり、私を見下すような視線を向けた。
「雪乃さん、あなたの今の姿は本当にみじめね」
沙耶の声には、隠しきれない勝ち誇った響きがあった。
私は点滴の管に繋がれ、顔色も悪く、髪も乱れたままだった。
「これが報いなのかもね」
彼女は椅子に座ると、足を組んで私を見つめた。
「昔、あなたが玲司さんを使って私を会社から追い出したこと、覚えてる?あの時の私の気持ち、今なら分かるでしょう?」
その時の私は、ただ黙って聞いているしかなかった。
でも今は違う。
今度は沙耶が私に助けを求めてきている。運命とは、なんと皮肉なものだろう。
私は微笑みながら、テレビのリモコンを手に取った。
ニュースチャンネルに切り替える。
「創星エンタープライズ副社長、性的暴行事件で警察に呼び出し」
アナウンサーの声が病室に響いた。
画面には玲司の写真が大きく映し出されている。
「被害者の女性は、職場での地位を利用した強要や、接待での飲酒強制、性的関係の強制などがあったと証言しています」
私の計画が、完璧に実行されている。
「また、被害者女性が涙ながらに告白したビデオメッセージも公開されており――」
画面が切り替わり、沙耶の顔が映った。
目を真っ赤に腫らし、震え声で語る彼女の姿。
「玲司さんに脅迫されて、愛人にされました。接待にも無理やり同行させられて……」
沙耶の演技は完璧だった。
まるで本当に被害者であるかのような、説得力のある涙。
玲司の名声と信用は、この瞬間に完全に地に落ちた。
「警察は本日午後、玲司氏を任意同行で呼び出す予定です」
ニュースが終わると、私は満足げにリモコンを置いた。
一夜にして、玲司の社会的生命は絶たれた。
きっと今頃、彼は沙耶に電話をかけ続けているだろう。
でも無駄だ。彼女はもう電話番号を変え、姿を消している。
私の指示通りに。
病室のドアがノックされた。
「どうぞ」
看護師が入ってきて、退院の手続きが完了したことを告げた。