発電機は安ければ千元か二千元、高くなれば一万元以上もするので、大きなビジネスだ。店主は当然熱心だった。
しかし店主はその後、突然携帯の電波が入らないことを思い出した……
店主は額を叩きながら、少し困ったように言った。「なるほど、だからトランシーバーを買いに来たんですね。こうしましょう。友人の住所をお教えします。直接そこへ行って、河野大輔の紹介だと伝えてください。割引してもらえるよう手配しておきます。友達になったということで」
店主が告げた住所は東郊外だった。
郊外と聞いて、後藤一輝と後藤大次は顔を見合わせた。兄弟二人は少し躊躇していた。
彼らは先ほど車の中でいくつかの情報を耳にしており、そのため二人は少し不安を感じていた。
「郊外には行けませんよ」田中さんが急いで言った。
一輝は黙って利害を考えていた。確かに普通に考えれば郊外に行くのは危険だろうが、彼らは三人いて車もある。
さらに重要なのは召喚書があることだ。三人で3体の召喚獣を呼べる。そして召喚獣のデータにはレベルと経験値の項目があり、つまり召喚獣は何らかの方法で経験値を得ることができるということだ。
経験値を得る方法として最も一般的なのは、モンスターを倒すことだ。
「田中さん」一輝はタクシー運転手に話しかけた。タクシーの助手席にある身分証に田中さんの写真と名前があったので、一輝は彼の名前を知っていた。
「なぜ郊外に行けないんですか?郊外で何が起きているんですか」河野社長が緊張した様子で尋ねた。「こうしましょう。このトランシーバーの端数は切り捨てます。二百四十元のところ二百元だけでいいです」店主は一輝に四十元を返した。
「田中さん、彼に説明してあげてください」一輝はしばらく考えた後、河野社長に教えることに決めた。この情報を宝のように隠しておくつもりはなかった。それはただ彼だけが知っているわけではないからだ。
多くのタクシー運転手や乗客たちがすでに聞いていたし、郊外に住んでいる人も少なくない。この情報はいつまで隠せるというのか。
そう考えると、一輝は急いで食料を調達しなければという切迫感を感じた!
情報が広まれば、町から出られないことが分かったら大規模なパニックが起きるだろう。そうなれば多くの人が食糧を買い占めるはずだ。
そうなると食料の価格は狂ったように上がるだろう。食料だけでなく、他の生活必需品も同様だ。
今は停電しているだけだ。もしガスや水も止まったら……
一輝は次に何が起こるか想像したくなかった。
田中の説明を聞いた店主は呆然としていた。もう店を開く気持ちはなくなり、急いで荷物をまとめて閉店の準備を始めた。
「ありがとう、本当にありがとう」店主は緊張した様子で言った。
「兄弟たち、頼みを聞いてくれないか」店主は照れ笑いを浮かべた。
大次は眉をひそめた。この店主は本当に図々しいと思った。
「郊外まで付き添ってほしいんだ。もちろん無駄足にはしない、発電機を一台無料でプレゼントする」店主は真剣に言った。「品質のいいやつを保証するよ」
目の前の三人の表情を見て、店主は苦笑いした。「正直に言うよ。郊外の店は友人のものじゃなくて、俺の妻のものなんだ。あの店も私たちの家族経営なんだ」
「……」
「……」
「嘘じゃないよ。発電機には軽油が必要だけど、店にある軽油も差し上げる。もし君たちの言うことが本当なら、発電機も軽油もこれから手に入れるのが難しくなるだろう」店主は言った。
店主はこれまで停電は自分のエリアだけだと思っていた。電波がないのも近くの基地局が故障して修理中だと思っていたので、市全体が停電してネットワークも遮断されているとは考えもしなかった。
数千元の発電機をあっさり提供するというのは、店主も本気だということだろう。
一輝はしばらく考えた後、言った。「いいでしょう。ただし条件があります。もし状況が本当に危険なら、私たちは絶対に車から降りません。すぐに車で離れます」
一輝は率直に言った。見知らぬ人を助けるために、自分と弟の安全を危険にさらすつもりはなかった。
店主は黙って考え、それからうなずいた。
「わかった」
店主は自家用車を持っていて、急いで駐車場へ行き車を出した。
田中さんのタクシーはその後ろを追った。
運転している田中さんは慎重に言った。「君たちも無謀すぎるよ。本当に危険な状況になったら、僕はすぐに車で逃げるからね。臆病なわけじゃないよ、むしろ大胆な方なんだが、妻と子供が家で待っているんだ」
1時間後、ようやく目的地に到着した。郊外に近い通りだ。ここは平原地帯で、ここから街の境界線がかすかに見えた。トランシーバーで聞いた通り、街の境界線は森に変わっていた。
高さ50〜60メートルの大きな木々が地面から突き出し、密集した樹冠が途切れることなく続いていた。見渡す限り、まるで緑の海のようだった。
この光景に皆は大きな衝撃を受けた。
大学で造園設計を専攻していた一輝は多くの一般的な植物を知っていたが、森の中の木々は彼の知る樹木の種類とは全く異なっていた。
「本当に森だ」
「すごい大きな森だ」
河野社長もようやく一輝たちの言葉を信じた。街は確かに何らかの変化を遂げていた。
彼の心を締め付けたのは、自分の店のドアが閉まっていることだった!
河野社長は急いで駆け寄り、ドアを叩きながら妻の名前を大声で呼んだ。
店の中から返事があり、河野社長の妻がドアを開けると、二人は抱き合った。
無事だったことに皆ホッとした。
河野社長と妻は力を合わせて黒と赤の発電機を押し出した。発電機はモーターのようだが、側面には多くのソケットがあり、底には4つの小さな車輪がついていた。
「百キロ以上あるよ」河野社長が言った。「これは二重電圧出力で、220Vと380Vを切り替えられるし、音も静かだ」
その後、河野社長は一輝に操作方法を手取り足取り教えた。どこに軽油を入れるか、スイッチの操作方法、簡単な故障の修理方法などを。
この間、河野社長の妻はそばに立って一言も発せず、表情はあまりよくなかった。
結局、何千元もする高価な品物なのだ。
それから河野社長はさらに店から軽油を何缶か持ってこようとした。18リットルの大きな缶を3缶。
河野社長の妻の表情はさらに悪くなった。一缶200元もするのに!
しかし彼女は他人の前で夫を困らせることはせず、心の中で夜に帰ったら河野をきちんと諭そうと決めていた。家にお金があるからといって、こんな無駄遣いをしていいわけではない。
親切な河野社長はさらに一輝たちとトランシーバーのチャンネルを交換した。
河野が贈った発電機の燃費は265g/kw.hで、1リットルの軽油は約0.84kgだ。
1リットルの油で3時間ちょっと使え、1缶の軽油で約57時間持つ。
もちろん発電機は24時間使い続けるわけではなく、トランシーバーの充電や湯沸かし器でお湯を沸かすなど、必要な時だけ使用する。
一輝はしばらく考えてから、さらに400元を出して河野社長から軽油を2缶買った。
主にタクシーにはそれほど多くを積めないからだ。貨物車ではないし、タクシーのトランクは容量が限られている。さらに一輝は近くのスーパーに行って食料をもっと調達するつもりだった。
「あっ、来た。あの怪物たちがまた来た」河野社長の妻が遠くの道の端を指さした。ゴブリンの一団が森から出てきてこちらを見ていた。
この辺りは人が多いせいか、ゴブリンたちは近づいてこなかった。
これらのゴブリンは背の高いものも低いものもいた。高いものは1.5メートル近く、低いものは未成熟で1.2メートルほどしかなかった。肌は緑色で、手に木の棒や石を持っていた。
まるで荒野で野犬の群れに出会ったようだった。
野犬は狩りの前に必ず獲物の強さを観察する。警戒しながら狡猾に。
「召喚獣じゃないな。野生のようだ」一輝は眉をひそめて言った。
これほど多くのゴブリンがいるなら、もし召喚獣だとしたら少なくとも10人以上の召喚師がいるはずだ。
しかし近くには召喚師の姿は見えなかった。
そして、それらのゴブリンの背後には森があるだけだった。