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19.23% 星の誓いは、偽りでした / Chapter 5: 第05話:偽りの事故

Kabanata 5: 第05話:偽りの事故

第05話:偽りの事故

「きゃあああああ!」

彩霞の悲鳴が施設の廊下に響き渡った。

詩織は呆然と立ち尽くしていた。目の前で彩霞が階段を転げ落ちていく。まるでスローモーションのように、一段一段を転がっていく姿が網膜に焼き付いた。

「何があった!」

怜の声が下から響く。慌てた足音が階段を駆け上がってくる。

彩霞は踊り場で止まり、苦痛に顔を歪めながら足首を押さえていた。

「彩霞!」

怜が彩霞の元に駆け寄る。その目は詩織を鋭く睨みつけた。

「詩織、お前何をした!」

「私は何も……」

「嘘をつくな!」

怜が詩織を突き飛ばした。詩織の体が壁に激しくぶつかる。

「怜……詩織を責めないで」

彩霞が弱々しい声で呟いた。涙を浮かべながら、まるで聖母のような表情を浮かべている。

「私が勝手に転んだの。詩織は悪くない」

その言葉が、かえって詩織の罪を強調していた。

「彩霞に何もなければいいが……そうじゃなかったら、ただじゃ置かない」

怜の声は氷のように冷たかった。詩織を見る目に、愛情のかけらもない。

怜は彩霞を抱き上げ、階段を下りていく。

「大丈夫だ、すぐに病院に行こう」

優しい声で彩霞を慰めながら。

詩織は一人、壁にもたれかかったまま動けずにいた。

「詩織さん」

院長が現れ、詩織を助け起こした。しかし、その目には困惑の色が浮かんでいる。

「大丈夫ですか?」

院長の声に、いつもの親しみやすさはなかった。

詩織は院長を見つめた。この人も信じてくれない。誰も信じてくれない。

「あなたとは……もう友達だと思っていたのに」

詩織の声は震えていた。

院長は視線を逸らした。

「詩織さん、今日はお帰りになった方が……」

詩織は何も言わずに施設を後にした。

車の中で、詩織は震える手でハンドルを握った。心臓が激しく鼓動している。

彩霞の計算された演技。怜の冷酷な視線。院長の疑いの目。

すべてが詩織を追い詰めていく。

家に帰る途中、詩織は車を路肩に停めた。

もう限界だった。

詩織はスマートフォンを取り出し、連絡先を開いた。五年間、一度も連絡していない番号。

指が震えながら、その番号をタップする。

コール音が響く。一回、二回、三回。

「はい」

低く落ち着いた男性の声が聞こえた。

詩織の心臓が跳ねる。

「あなたと私の婚約、まだ有効なの?」

沈黙が流れた。

「……詩織か」

九条(くじょう)響の声だった。

「久しぶりだな。五年ぶりか?」

響の声には皮肉が込められていた。

「で、なんで今さらそんなことを聞く?」

詩織は唇を噛んだ。

「答えて」

「随分と上から目線だな」

響が苦笑する。

「まあいい。有効だ。ずっと有効のままだ」

詩織の胸に、かすかな希望が灯った。

「そう」

「詩織、お前に何があった?」

響の声が真剣になる。

「今度話す」

詩織は電話を切った。

その直後、スマートフォンにメッセージが届いた。

彩霞からだった。

GIF画像が添付されている。怜が彩霞の靴紐を結んでいる映像。彩霞の足首には包帯が巻かれ、怜が優しく世話をしている。

詩織の手が震えた。

その時、電話が鳴った。

響からの着信だった。

「もしもし」

「詩織、さっきの電話で気になったことがある」

響の声は鋭かった。

「お前の結婚、本当に有効なのか?」

詩織の息が止まった。

「ちょっと気をつけてれば、住民票が偽物だってもっと早く気づけたはずだよ?」

響の言葉が詩織の心を貫いた。

「三分で分かったぞ。お前が五年間気づかなかったことを」

詩織の目から涙がこぼれ落ちた。

「響……」

「詩織」

響の声が優しくなった。

「俺と君の婚約は、永遠に有効って意味だ。君さえ望めば、俺はいつでも。詩織の正式な夫になる準備ができている」

詩織の心に、久しぶりに温かいものが流れた。

「来週の月曜、潮ノ宮の市役所前で会おう」

詩織の声は決意に満ちていた。

「分かった」

響が即答する。

「待ってる」

電話を切った詩織は、初めて本当の笑顔を浮かべた。

新しい人生が、始まろうとしていた。


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