目の前の二人を見ながら、私は表情を変えずに言った。「七年前、お父さんが白石優香のことを好きではないと言っているのを聞きました。お父さんはあなたたち二人を別れさせたいと思って、優香を送り出すのが一番いい方法だと言ったんです。優香がデザインを学びたがっていたのを知っていたので、私はお父さんを唆して、優香を留学させるように言いました」
相馬の目に炎が燃え上がるのを見て、私はゆっくりと続けた。「優香が出て行った後、私は意図的にあなたのそばに残り、あの辛い時期をともに過ごし、そしてお父さんに私たちの結婚を許してもらいました。彰人、私たちの結婚は、実は私が奪い取ったものなんです」
私の言葉が終わるか終わらないかのうちに、彰人はテーブルの上のグラスを取って私に向かって投げつけた。
「言っただろう、黙れって!爺さんの前でそんなこと言うな!」
彼の動きはあまりにも速く、私が少し頭を傾けると、グラスは私の頬をかすめ、背後の壁に当たった。
「バン」という音が空中に炸裂し、ガラスの破片が散らばったが、私は傷つかずに済んだ。
今日私が話したことは、相馬のお爺さんも知らなかったことだ。
しかし彰人のこの様子を見て、お爺さんは怒りを露わにして制止した。
「このバカ者!どうして詩織に手を上げるんだ?詩織が何をしたにしても、この数年間彼女がお前にどう尽くしてきたか、わからないのか?あの女に一体何がいいというんだ?こんなに長い間、まだ未練タラタラでいるとは。お前は爺さんが目が見えないとでも思っているのか。昨晩の私の誕生日パーティーで、お前があの女を抱えて出て行ったのを、私が知らないとでも?」
「爺さん、これは私と篠原詩織の間の問題です」
彰人は冷静さを取り戻し、椅子に座り直して私を冷たく見つめた。
「爺さんの前でそんなことを言っても、俺がお前を許すとは思うな」
「私はあなたに許してほしいわけじゃない」
私は少し笑って、持ち歩いていたバッグから離婚協議書を取り出した。
前回署名したものは彰人の家に置いてきた。
でも彼はずっとサインせず、彰人の性格からすると、もう捨ててしまったに違いない。
「彰人、私はあなたと離婚したいの。今回は本気よ。脅しでもなければ、冗談でもない」
私は手にしていたペンを彼に差し出した。「私はすでにサインしたわ。あなたがサインすれば、私たちはもう何の関係もなくなる」
真剣な私の表情を見て、彰人の顔色はますます冷たくなった。
「詩織、俺がサインするのを恐れてないとでも思ってるのか!」
この言葉を言う時、彼はほとんど歯を食いしばっていた。
私はうなずいた。「わかってるわ。サインして。サインすれば、あなたは白石優香と一緒になれる。彼女を妻として迎え、堂々と相馬夫人にすることができる。それはあなたがずっと夢見てきたことでしょう?」
始めから終わりまで、私の口調はとても淡々としていた。まるで自分とは関係のないことについて話しているかのように。
相馬のお爺さんは何度か口を開きかけたが、言いよどんでしまった。
私にはわかっていた。彼は私を尊重していたのだ。彼はいつも私を尊重してくれていた。だから引き留めたいと思っていても、最後まで口にはしなかった。
私は感謝していた。彼のこれまでの年月の面倒に感謝していた。
相馬家で、私が唯一感じることのできた家庭の温もりは、彼からだけだった。
彰人は私をじっと見つめていたが、ペンを受け取ろうとはしなかった。
私は立ち上がり、ペンを彼の手に押し込んだ。
「あなたは私のことを嫌っているはずでしょう、彰人。私はあなたの好きな女性を国外に追い出す策略を弄し、あらゆる手段を使ってあなたと結婚した。私のような陰険で計算高い女が、どうして堂々たる相馬家の御曹司にふさわしいはずがある?これでもまだ我慢できるというなら、あなたはあまりにも情けないわ」
私は言葉で彼を挑発した。彰人はこういうのが一番効く。
彼は手の中のペンをぎゅっと握り締め、まるでペンを砕いてしまいそうだった。「詩織、覚えておけ。今日のこと全ては、お前が望んだことだ。後悔するなよ!」
「うん」私は力強くうなずいた。「後悔しない。永遠に、決して」
「もう二度と昔みたいに、泣きながら離婚しないでくれって頼みに来るな!もう二度と受け入れたりしないからな!」
私はまたうなずいた。「うん、安心して。もうしないわ、彰人」
かつての私は自尊心を捨て、人生の全てが彼だった。
でもこの瞬間から、篠原詩織は全く新しい篠原詩織になったのだ。
私は自分のために生きたい。もう彰人のことなど気にかけたくない。